1.はじめに
2017年3月27日、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs。以下「企業省」という。)は、2022年3月28日まで、2002年インド競争法(Competition Act, 2002。以下「競争法」という。)に基づく企業結合届出義務を一定の場合に免除(以下「本免除措置」という。)する旨の通達を発布した。また、2017年6月29日、企業省は、2022年6月28日まで、競争法に基づき企業結合届出を行うべき期限の適用を停止(以下「本停止措置」という。)する旨の通達を発布した。
本免除措置及び本停止措置は、前述のとおり、いずれも2022年に5年の期限を迎えるところ、2022年3月16日、企業省は、本免除措置の期間を5年から10年に延長する旨の通達、及び本停止措置の期間を5年から10年に延長する旨の通達(これらの通達をあわせて、以下「本通達」という。)を発布した。本通達により、本免除措置は2027年3月28日まで、本停止措置は2027年6月28日まで、期限が延長されることになった。本通達の原文には、以下のリンク先からアクセスすることができる。
本免除措置の延長に係る通達
https://egazette.nic.in/WriteReadData/2022/234300.pdf
本停止措置の延長に係る通達
https://egazette.nic.in/WriteReadData/2022/234278.pdf
本号では、本免除措置及び本停止措置を概説したうえで、本通達が日系企業に対して与えうる影響を検討する。
2.本免除措置の概要
競争法は、企業結合の当事会社又はそのグループ会社の資産額又は売上高が基準額を超える場合に、インド競争委員会(Competition Commission of India。以下「CCI」という。)に対する事前届出を義務づけている。かかる基準額は、2016年3月4日付企業省告示によって以下のとおり定められており、以下の①乃至⑧のいずれか1つを満たす場合は、CCIに対する事前届出が必要となる。
インド国内(単位:インドルピー) |
全世界(単位:米ドル) |
|||
資産額 |
売上高 |
資産額 |
売上高 |
|
全当事会社の |
①200億 |
②600億 |
③10億(※1) |
④30億(※2) |
全グループ会社の合計値 |
⑤800億 |
⑥2,400億 |
⑦40億(※1) |
⑧120億(※2) |
※1:かつ、インド国内の資産額が100億インドルピー以上
※2:かつ、インド国内の売上高が300億インドルピー以上
本免除措置は、以下の要件(1)又は(2)を満たす小規模な企業結合について、CCIに対する届出義務を免除するものである。
(1) 対象会社(企業結合によって支配権、株式、議決権若しくは資産を取得される会社をいう。以下同じ。)のインド国内における資産額が35億インドルピー以下であること、又は
(2) 対象会社のインド国内における売上高が100億インドルピー以下であること
本通達により、本免除措置は2027年3月28日まで延長されることとなった。
3.本停止措置の概要
CCIに対して企業結合届出を行う必要がある場合、競争法は、当事会社の取締役会が合併計画を承認する旨決議した日、又は当事会社が買収を合意する契約を締結した日から30日以内に届出を行うことを義務づけている。
本停止措置は、上記届出期限の適用を一律に停止するものである。本通達により、本停止措置は2027年6月28日まで延長されることとなった。
4.本通達の影響
本通達は、従前の特例措置を延長するものであるが、インド企業を直接的又は間接的に買収することを企図する日系企業を含む外国企業の負担を、引き続き軽減することが期待される。
例えば、本免除措置は、日系企業が、インド子会社を有する別の日系企業を買収する場合など、インドにおける企業結合規制が副次的に問題となるにすぎないときや、グローバル企業が、比較的小規模なインド企業を買収する場合など、インド市場に与える影響が大きくないと考えられるときに、CCIに対して企業結合届出を行うべき場合を相当程度限定している。また、CCIに対する届出義務が免除されない場合であっても、本停止措置によって届出期限の適用が停止されるため、当事会社は、企業結合に係る意思決定から届出を行うまでのスケジュールに余裕を持たせることができる。
そのため、本通達は、インド企業を直接的又は間接的に買収することを企図する日系企業を含む外国企業にとって、好ましいものといえる。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
茂木信太郎/奥村文彦
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