1．はじめに
2022年6月16日、インド競争委員会（Competition Commission of India（“CCI”））は、Big Tree Entertainment Private Limited（以下「BookMyShow」という。）が、インドにおける映画チケット予約のオンライン仲介サービス市場において、支配的地位を濫用しているという一応の（prima facie）証拠が存在すると判断し、同事務局長（Director General（“DG”））に対して、調査を指示（以下、「本指示」という。）した（2002年競争法（The Competition Act, 2002）（以下「インド競争法」という。）26条1項）。2022年6月16日、インド競争委員会（Competition Commission of India（“CCI”））は、Big Tree Entertainment Private Limited（以下「BookMyShow」という。）が、インドにおける映画チケット予約のオンライン仲介サービス市場において、支配的地位を濫用しているという一応の（prima facie）証拠が存在すると判断し、同事務局長（Director General（“DG”））に対して、調査を指示（以下、「本指示」という。）した（2002年競争法（The Competition Act, 2002）（以下「インド競争法」という。）26条1項）。
本指示は支配的地位の濫用を認定するものではなく、CCIが本指示の前提となる一応の（prima facie）証拠が存在すると判断したというものであるが、プラットフォーマーの支配的地位の濫用（abuse of dominant position）に関する市場画定のアプローチ等、その判断に至る分析過程は、CCIのプラットフォーマーに対する規制の考え方を知るうえでおおいに参考になると思われる。なお、インド競争法に規定されている、支配的地位の濫用は、EU競争法に規定されている市場支配的地位の濫用に近い概念であり、日本の独占禁止法に規定されている（相対的）優越的地位の濫用とは異なる。「支配的地位」を有するか否かは、①行為者の市場シェア、規模及び資源、②競争者の規模及び重要性、③市場構造及び市場規模、④社会的責任及び社会的費用等を考慮して判断される。
2．本判決の概要
(1) 事案
本件は、BookMyShowの競合であるオンライン映画のチケットポータル“Showtime”の創設者がCCIに対し次の主張を行ったことから始まった。
① BookMyShowは、映画館等と以下の反競争的な合意をし、他のオンライン事業者による映画チケット販売市場への新規参入を妨害している。
・BookMyShowは、映画館等と独占契約を締結し、２年から５年の間、自らのプラットフォームを通じてのみ映画チケットが販売されるようにしていること。
・Showtimeは、BookMyShowの約半額の予約手数料に設定しているにもかかわらず、BookMyShowと契約する映画館等は、上記独占契約等を理由にShowtimeと関係を持つことを拒否していること。
② BookMyShowは、上記のような不公正で差別的な条件を映画館等に押し付けており、映画チケット販売市場における競争を阻害し、支配的地位を濫用している。
(2) CCIの判断
CCIは、本件を以下のように分析し、BookMyShowがインドにおける映画チケット予約のオンライン仲介サービス市場で支配的地位を濫用しているという一応の（prima facie）証拠が存在すると判断した。
【市場画定】
映画チケット予約のオンライン仲介サービスの使いやすさ、予約、座席検索、映画館等の比較の利便性、検索コストの安さ等の観点で代替性や互換性がないこと、また、インド全土でサービスが利用可能かつ類似の競争環境であることに着目し、「インドにおける映画チケット予約のオンライン仲介サービス」という市場を画定した。
【支配的地位の有無】
BookMyShowの2017年１月から3月のオンライン映画チケット予約におけるシェアが78％であること及び2018年12月における映画チケットの市場シェアが70％から75％であることに着目し、高い市場シェアとそのサービス内容、加えて独占契約を締結できる能力と相まって、BookMyShowは、上記市場において支配的地位を有していると判断した。
【濫用の有無】
CCIは、BookMyShowと映画館等の契約を調査し、当該契約がBookMyShow以外のオンライン仲介サービスによるチケット販売を妨害し、競合他社や新規参入者の参入コストがかなり高くなっていると判断した。また、競争制限により支配的地位が高まり、BookMyShowに手数料を下げるモチベーションが働かなくなっている可能性があるとした。さらにCCIは、BookMyShowが、一部の映画館等に対して、顧客データ等の独占的な利用権を設けている点も問題視している。
３．コメント
CCIの判断は、プラットフォーマーの支配的地位について、調査開始段階の判断ではあるが、市場画定、支配的地位の存否、その濫用の有無のいずれの点においても、緻密かつ詳細な分析がされており、データの独占的利用に言及した点を含め、欧米の競争当局のアプローチに近いものであるといえる。CCIは近時人員を増強する等、競争法違反の取り締まりを強化しており、インドでビジネスを行う日系企業はCCIの動きを常にアップデートしておくことが重要である。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
平野正弥／白井紀充／鈴木基浩
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