1.はじめに
GST評議会(GST Council)は、2023年10月6日、①親会社がその子会社が金融機関等から融資を受ける際に行う、いわゆる親会社保証に対して18%のGSTが課される、②会社の取締役が当該会社に対して行う個人保証に対してはGSTが賦課されない、との見解をそれぞれ示した(以下「本見解」という。)。
GSTは、Goods and Services Taxの略称であり、日本における消費税に相当する、インドの連邦及び州のそれぞれで課される間接税のことを指す。
また、GST評議会は、GSTの適用等に関し勧告をする権限を有する国の機関である。
本号では、本見解に基づく親会社保証に対するGSTの賦課について紹介する。
2.本見解の概要
(1) インドにおける従前の取り扱い
インドにおいても、子会社が金融機関等から融資を受ける際の、親会社保証は幅広く行われており、日本企業のインド子会社がインドにおいて地場の金融機関から融資を受ける際も同様である。
親会社保証は、グループ会社間の取引であるため、親会社はこのような保証を無償で行うことが多い。
この点、保証会社等による対価を伴う保証の提供は、GSTの前身であるService Tax(サービス税)と呼ばれる間接税の賦課対象となっていたが、親会社の子会社に対する対価を伴わない保証については、サービス税の適用対象とならないとされていた(COMMISSIONER OF CGST AND CENTRAL EXCISE vs EDELWEISS FINANCIAL SERVICES LTD事件)。
ところが、2017年のGSTの導入から数年経った2023年7月、インド課税当局は、突如としてインド子会社に保証を行っていた外国企業及び現地企業に対して、GSTの納税督促通知を発出したことから、かかる保証の提供は課税対象とならない、又は課税対象になるとして対象となる保証サービスの対価が何パーセントになるか不明確である等として、争う姿勢をとる企業が続出した。
(2) 本見解の内容
こうした状況を踏まえ、GST評議会は、親会社の子会社に対する対価を伴わない保証提供についても、明確にGSTの課税対象の「サービス」に該当するとの立場を示した。
また、課税の対象は、保証の対象となる借入額の1%とされ、税率としては18%が適用される。
例えば、親会社が子会社に対して、1億ルピーの債務を無償で保証した場合、18万ルピーがGSTの課税額になることになる。
一方、会社の債務に対して、当該会社の取締役が個人として保証を行う場合、会社から保証の対価を受け取らない限り、価値はゼロとみなされ、GSTの課税を受けないとの見解も示された。
(3) 今後の課題
GST評議会の見解には中央政府や州政府に対する法的拘束力はないものの、事実上、インド課税当局による親会社保証への課税にお墨付きが与えられたことになる。
この点、GSTの根拠法令の1つである「CENTRAL GOODS AND SERVICES TAX ACT, 2017」は、前身である上記サービス税の根拠法令と異なり、法令の文言上、ビジネスの進行のために関係会社(親子関係はこれに含まれる)間で無償でサービスを提供することは、GSTの賦課対象となる「サービス」に該当する旨明記されており、本見解は、かかるGSTの文言解釈に忠実な見解であるといえる。
一方、親会社による子会社保証は保証額の1%分の価値があるとみなす点について、実務と乖離しているのではないかという意見や、OECD多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドラインに反するのではないか(当該ガイドラインは、365ページ以下で金融保証についても論じている。)という意見があるほか、親会社が子会社から非常に低い額の対価を受け取った場合(例えば保証額の0.1%の対価を受け取ることとした場合)、無償の場合と比較してGSTを節税できることとなり不合理であるといった懸念も表明されており、今後の議論の動向にも注目が集まっている。
3.最後に
本見解に基づき、インドの課税当局は今後も対価を伴わない親会社保証に対しGST賦課を積極的に行う可能性が高いことから、親会社保証を行う際には十分留意する必要がある。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/白井紀充/山田怜央
info.indiapractice@tmi.gr.jp
※バックナンバーはこちらからご覧いただけます。
インドにおける現行規制下では、外国法律事務所によるインド市場への参入やインド法に関する助言は禁止されております。インド・プラクティスグループでは、一般的なマーケット情報を、日本及び非インド顧客向けに提供するものです。