はじめに
2024年2月20日、インド競争委員会(Competition Commission of India 。以下「CCI」という。)は、2024年インド競争委員会(制裁緩和)規則(Competition Commission of India (Lesser Penalty) Regulations, 2024。以下「本規則」という。)において新しい課徴金減免制度である「リニエンシー・プラス」(以下「本制度」という。)を導入し、即日施行した。
本制度は、既に規制当局に明らかとなっている第1のカルテルに関与した者が、規制当局に明らかとなっていない第2のカルテルについて情報を提供した場合に、当該第2のカルテルに関する通常の課徴金減免に加え、第1のカルテルに関する課徴金の追加的な減額を受けることができるというものであり、欧米やシンガポール等でも導入されている。
本制度の枠組み自体は2023年4月の競争法改正で示されていたが、2023年10月16日にCCIから本規則の草案が公表され、その後、パブリックコメントの手続等を経て、本規則が正式に発布された。
本規則の全文は以下のウェブサイト上で確認することができる。
https://www.cci.gov.in/images/stakeholderstopicsconsultations/en/draft-lesser-penalty-regulations1697431514.pdf
本号では、本制度の内容を概説したうえで、本制度が日系企業に与える影響について検討したい。
本制度の概要
(1) 総論
本制度は、第1のカルテルについてCCIに対する課徴金減免を申請し、その存在について完全かつ真実の開示を行ってCCIが一応の見解を形成できるよう導いた者が、後に第2のカルテルについて、CCIに対する課徴金減免の申請を行いその存在について完全かつ真実の開示を行ってCCIが一応の見解を形成できるよう導いた場合、当該申請者は、第2のカルテルの課徴金について最大100%の減免を受けられるのみならず、第1のカルテルの課徴金についても最大30%の追加的な減額を受けることを認めるものである。
(2) 本制度の適用を受けるための前提条件
申請者が、本制度による課徴金減免を受けるための前提条件は次のとおりである。
- 既にCCIに開示した第1のカルテルについて、CCIの調査が継続していること。
- 第2のカルテルについて開示した時から、当該カルテルへの参加を中止すること。
- CCIが第2のカルテルについて一応の見解を形成することができる程度に十分な開示を行うこと。
- CCIが要求するすべての関連文書、情報及び証拠を提供すること。
- CCIの調査全体を通じて、誠実に(genuinely)、全面的に(fully)、かつ迅速に(expeditiously)協力すること。
(3) 申請が競合する場合の取扱い
本制度に基づいて新たに開示された第2のカルテルについて、複数の課徴金減免申請者がいる場合、CCIは、最初の申請者による申請についてのみ審査を行い、当該申請が却下された場合には、順次その後の申請者による申請を審査する。
なお、CCIが課徴金減免申請を却下する場合には、事前に当該申請者に意見聴取の機会を与えることが義務付けられている。
(4) 申請の撤回
申請者が申請を撤回するには、委員会事務局(Director General。以下「DG」という。)からCCIに調査報告書が提出される前までに行わなければならない。
ただし、申請の撤回が行われた場合であっても、DG及びCCIは、申請者が提出した情報、証拠又は書類(申請者の自認を除く。)を自由に使用することができる。
総括
カルテルは通常水面下で進行するものであり、業界内での信用を維持する等の目的で隠匿されることも少なくない。本制度は従来の課徴金減免制度を大幅に強化するものであり、カルテルの摘発がより促進されることが期待される。
本制度における課徴金の減額率は最大30%とされているが、その具体的な適用に関してはCCIの広範な裁量に委ねられているため、この点に関するガイドラインの早期の策定が望まれる。
インドにおいて日系企業がカルテル等の不祥事に巻き込まれるリスクがあることは否定できない。本制度は日系企業も利用することができるため、インドで事業を行い又は行うことを検討している日系企業においては、本制度を含めた最新法令を常に把握し、必要に応じて危機管理マニュアル等の社内ルールの整備・見直しを行うなどして、有事の場面で適切な行動を選択できる体制を整えておくことが重要と思われる。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/奥村文彦/本間洵
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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