はじめに
2024年3月15日、インド商工省産業国内取引促進局(Department for Promotion of Industry and Internal Trade:DPIIT)は、2003年特許規則(「旧特許規則」)を改正する2024年改正特許規則(「改正特許規則」)を公表した。なお、改正特許規則は既に施行されている。
改正特許規則は旧特許規則を相当程度変更するものではあるが、基本的には特許出願人や特許権者の手続を簡素化し、当局による迅速な処理を目指す改正となっている。
以下では、改正特許規則による主な改正点を概観する。
なお、改正特許規則の内容は以下のウェブページから確認することができる。
https://www.ipindia.gov.in/rules-patents.htm
主な改正点
(1) 外国出願に関する情報の提出
特許出願人がインド以外の国で同一又は実質的に同一の発明について特許出願中である場合、特許出願人はForm 3を提出する必要がある。また、従前は、外国出願の詳細を当局に知らせるために、当該外国出願から6か月は、追加のForm 3で継続的に当該外国出願の状況を当局に報告する必要があった。改正特許規則により、この継続的な情報の提出の要件は緩和され、かかる追加のForm 3による当局への報告は最初の拒絶理由通知書の発行の日から3か月間のみとされた。
(2) 審査請求の期限
インド特許法第11条Bに基づく審査請求は、旧特許規則においては、出願の優先日又は出願日のいずれか早い日から48か月以内に行わなければならないとされていたが、改正特許規則によりこの期限が短縮され、48か月ではなく31か月以内に行わなければならないとされた。なお、2024年3月15日以前に提出された出願には、引き続き48か月の期限が適用される。
(3) 分割出願
改正特許規則13(2A)は、分割出願の範囲を明確化した。これによれば、特許出願人は、仮明細書、完全明細書又は既に提出された分割出願で開示された発明について、インド特許法第16条に基づく分割出願を提出することができる。
(4) 最初の拒絶理由通知書への応答の提出期限の延長
旧特許規則では、最初の拒絶理由通知書の応当期限(6か月)前に、Form 4によりその延長を要求する必要があった。改正特許規則により、この6か月以内に延長を要求する点が緩和され、最初の拒絶理由通知書の発行日から9か月の期間内であれば、延長を要求することができることとされた。
(5) 審査前の異議申立
特許出願の公開後、特許が付与される前であれば、誰でも付与前異議申立を請求することができる(インド特許法第25条)。この付与前異議申立について改正特許規則に以下の事項が追加された。
・審査管理官は、申立を審査するに際して、
(a) 申立に一見して理由がない場合、審査管理官はその旨を異議申立人に通知し、
-
- 異議申立人がこの問題についての聴聞を求めない限り、審査管理官はその通知の日から1か月以内に、申立の拒絶理由を記録した命令を発行する。
- 異議申立人が聴聞を求めた場合、審査管理官は、異議申立人に聴聞の機会を与えた後、聴聞の日から1か月以内に申立の拒絶又は申立の疎明の受理の理由の記録した命令を発し、その旨を特許出願人に通知する。
(b) 申立に一見して理由がある場合、審査管理官は、申立から1か月以内に、その理由を記録した命令を発し、その旨を特許出願人に通知する。
また、特許出願人は上記通知を受領した際には、希望する場合は、当該通知の日付の日から3か月以内に自己の意見書及び出願を支持する証拠(もしあれば)を異議申立人への写しを添えて提出しなければならないとされていたが、改正特許規則によりこの3か月が2か月に短縮された(なお、審査後の異議申立についても同様の期間短縮の変更が加えられた。)。
(6) 発明者証明書
発明者は、手数料を支払いForm 8Aに基づき請求することにより、発明者証明書を取得できるようになった。
(7) 特許発明の実施状況の報告
旧特許規則では、特許権者は会計年度ごとにForm 27に基づき特許発明の実施状況を報告する必要があった。改正特許規則により、このForm 27に基づく実施状況の報告は3年ごとに行うことでよいとされた。このForm 27は会計年度の終了後6か月以内に提出する必要がある。
また、Form 27自体の改正も行われており、特許発明の製造・輸入により特許権者に発生した収益・価値を記載する必要はなくなった一方で、特許がライセンス提供可能かを記載することとなるなどの変更が加えられている。
おわりに
改正特許規則が施行されたことで、日本企業にとっても特許権の管理において重要な変化が生じることが予想される。基本的に改正特許規則は既存の手続の簡略化・迅速化を図るものであるが、特許出願や異議申立の手続に変化が生じている。
インド市場への進出においては、特許権の保護と活用が競争優位性を高める鍵となるため、戦略的な知的財産管理が求められる。そのため、日本企業の特許権の管理を行う部門においては、今後の運用も含めて改正特許規則の内容を把握しておく必要があると考えられる。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/白井紀充/清水一平
info.indiapractice@tmi.gr.jp
本記事は、一般的なマーケット情報を日本および非インド顧客向けに提供するものであり、インド法に関する助言を行うものではありません。