はじめに
2025年度のインドの財政方針が提示される2025年財政法案(The Finance Bill, 2025)において、非居住者が電子機器製造施設へのサービス提供等を行う場合における、非居住者に対するみなし課税制度(以下、「本制度」という。)を導入する規定が盛り込まれていたところ、同法案は2025年3月27日にインド連邦議会の承認を受け、2025年財政法(The Finance Act, 2025)として正式に成立した。本制度は日本企業も利用可能であり、本制度の適用によって税制上の取扱いが有利になる可能性がある。本号では、本制度の内容について概説し、日本企業への影響及び今後の課題について説明する。
2025年財政法/The Finance Act, 2025
https://incometaxindia.gov.in/Documents/Act/Finance-Act-2025.pdf
1.本制度の内容
本制度の概要は次のとおりである。
(1)適用対象者
- 電子機器製造施設を設立する目的で又は電子機器の製造若しくは生産に関連して、
- 電子情報技術省(Ministry of Electronics and Information Technology)が告示する制度に基づき、インドにおいて電子機器製造施設又は電子機器の製造又は生産を行う関連施設を設立する又は運営するインド居住者企業に対して、
- インドで「サービス」又は「技術(technology)」を提供する事業に従事するインド非居住者
ただし、サービス又は技術の提供を受けるインド居住者企業側も所定の条件を遵守する必要がある。
(2)所得金額の推定
適用対象者にサービス又は技術の提供の対価として支払われた金額の25%が、当該事業による課税所得金額とみなされる。ただし、未償却減価償却費及び繰越欠損金は、当該所得金額から控除することはできない。
例えば、総所得が1億ルピーを超えるインド非居住者企業の所得に適用される実効税率は38.22%であるから(後述のロイヤリティ又は技術役務の使用料に対する21.84%の税率は選択できない)、本制度を適用することによって総収入に対する実効税率は単純計算で約9.6%となる。
(3)適用時期
本制度は2026年4月1日(すなわち、2026年4月1日から2027年3月31日までの会計年度)から適用される。
2.日本企業への影響及び今後の課題
日本企業がインド企業からロイヤリティ又は技術役務の使用料を受け取る場合、インド国内法に基づいて納税することも可能だが、日印租税条約に基づく課税を選択することも可能である。2023年にインド国内法上の実効税率が10.92%から21.84%に引き上げられたため、日印租税条約に基づく10%の税率の適用を選択する方が有利な状態となった。しかし、日印租税条約を適用する条件としてインドで課される条件(インドの納税者番号(PAN)の取得、インドで税務申告を行うこと等)のハードルが高く、どちらの課税処理を選択するのかについて慎重な検討が必要となっていた。
本制度上を利用する場合もインドでのPANの取得や税務申告を行うこと等の条件が課されると考えられるが、本制度の導入により、日本企業は、電子機器製造施設へのサービス提供等に関する範囲ではインド税務上の取扱いが有利になる可能性があるため、インド国内法に基づく課税を選択することも十分視野に入ってくると思われる。
本制度の適用に関して、適用対象者の要件である「サービス」や「技術」の範囲等が問題となりうるため、今後の政府による説明や実務の動向を注視していく必要がある。また、「サービス」又は「技術」の提供を受けるインド居住者企業側が満たすべき条件については現時点で明らかにされていないため、今後定められる下位規則の動向にも注意が必要となる。
インドにおいて電子機器製造施設又は電子機器の製造又は生産を行う関連施設に対してサービス提供を現に行い、また今後行うことを検討している日本企業においては、本制度が来期から導入される見込みであることから、インドにおけるサービス提供に際して本制度の適用を目指すことも十分検討に値すると思われ、今後も最新の法令及び実務運用に関する情報をタイムリーに収集し、本制度の適用の可否の具体的な検討を進めておくことが望ましい。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/奥村文彦/本間洵(本号執筆の時点でインドのTrilegalに出向中)
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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