どのような制度変更が行われようとしているか
オーストラリアにおいては、買収取引を行う際の企業結合届出が「任意」であったところ、2026年1月1日より、一定の金額等の基準に達する取引については届出が義務化されます。
以下でご紹介する情報は2025年3月に公表されたガイドラインの草案やこれまでにオーストラリア政府から公表された情報に基づく制度変更の概要ですが、2025年7月までに変更される可能性がありますので、ご留意ください。
どのような取引が規制対象か
まず、原則的に、株式(unit trustにおけるunit、management investment schemeにおけるinterestを含みます。)の「支配的」な利益の譲渡と資産譲渡がこの規制の対象となっていますので、これらに該当する場合には金額等の基準に達するかを検討する必要があります。なお、組織内再編は対象外とされています。
株式等の譲渡における「支配的」な利益を取得したかどうかは、会社法上の定義に従い、対象会社の財務や事業に関する方針を左右し得る能力を獲得したかどうかで判断されます。この点、非上場会社については、買収の結果20%超の議決権を獲得する場合は規制対象であるとされ、次に金額等の基準に達するかを検討する必要があります。
他方、上場会社や非上場会社のうち株主が50名を超える会社については、20%の議決権の獲得に達しない買収については対象外とされました。
届出が必要となる金額等の基準(案)
まだ最終化されていませんが、現在連邦政府から提案されている基準案は、概要、以下の3つの基準のいずれかを充たし、かつ、対象会社がオーストラリアと「material connection」がある場合に届出を必要とする、というものです。「material connection」は、オーストラリアで事業を行っている(carry on business in Australia)か、その計画があれば要件を充たすとされています。
- 通常の基準
対象会社と買収者のそれぞれのグループ(売主は除く)のオーストラリアでの売上の合計額が200百万豪ドル以上であり、かつ、i) 対象会社(及びそのグループ。売主は除く)のオーストラリアでの売上が50百万豪ドル以上であるか、または、ii) 当該買収の市場取引価額(国内外問わず)が250百万豪ドル以上であること - 大規模買収者向けの基準
買収者(グループ)のオーストラリアでの売上額が500百万豪ドルであり、かつ、対象会社(及びそのグループ。売主は除く)のオーストラリアでの売上額が10百万豪ドル以上であること - 過去3年間の複数の買収にかかる「振返り」(look back)基準
以下のいずれかを充たす場合
・対象会社と買収者のそれぞれのグループ(売主は除く)のオーストラリアでの売上の合計額が200百万豪ドル以上であり、かつ、 買収者の過去3年間の同じ(または代替可能な)商品・役務の買収(対象会社グループ、売主は除く)から獲得した(各買収契約時の)オーストラリアでの売上額が累計50百万豪ドル以上であること(但し、オーストラリアでの売上額が2百万豪ドル未満の対象会社グループの買収は過去分も含め算定や届出対象から除外)
・買収者(グループ)のオーストラリアでの売上額が500百万豪ドル以上であり、かつ、 買収者(グループ)の過去3年間の同じ(または代替可能な)商品・役務の買収(対象会社グループ、売主は除く)から獲得した(各買収契約時の)オーストラリアでの売上額が累計10百万豪ドル以上であること(但し、オーストラリアでの売上額が2百万豪ドル未満の対象会社グループの買収は過去分も含め算定や届出対象から除外)
なお、居住用不動産開発関連の不動産買収や、不動産業者による不動産買収であって当該不動産で事業を行う以外の目的の場合については、上記基準を満たしても対象外とされる方針が示されています。但し、競争法上のリスクが高いとされる業界や市場等に関して別途定められる金額基準に該当する場合には届出が必要になる場合があります。
審査のプロセスはどのようなものか
豪州競争法当局(ACCC)の審査プロセスは概ね次のようになります。
- ACCCに届出前に事前相談(ACCCは推奨)
- 届出(ACCCに対する申請手数料とともに)、Acquisitions Registerに公表
- Phase 1(30営業日内の初期審査):ACCCは、15営業日以内の早期承認、30日営業日以内の承認、または、Phase 2への移行のいずれかを判断
- Phase 2(90営業日以内の本格審査):申請者は追加申請手数料を支払い、25営業日内にACCCが懸念点を通知し、その後25営業日以内に当事者がACCCに回答し、90営業日以内にACCCが承認・不承認を判断
- Public Benefits Phase(50営業日以内の判断):Phase 2で不承認またはPhase1か2で条件付承認となった場合、当事者が申請し、買収が公益に資する旨または公益が競争法上の悪影響を上回る旨を主張可能(任意)
なお、Phase1、Phase 2またはPublic Benefits PhaseのACCCの判断に不服がある場合には、Australian Competition Tribunalに不服申立てが可能です。第三者の不服申立期間を確保するため、ACCCによるクリアランスが出てから14日間は待期期間となっており、待期期間が経過するまでクロージングできません。
今後について
この新制度は2026年1月1日から強制適用されますが、事業者は2025年7月1日以降は任意に新制度で届出をすることが可能となっています。このため、基準等も同日までにはファイナライズされることになっています。現行制度の下で申請をしたにもかかわらずもし2025年12月31日までにACCCの判断が得られなかった場合、または、現行制度で2025年7月1日より前にクリアランスを得ていても2025年12月31日までクロージングしなかった場合には、新制度の下で再届出を義務付けられる点には注意が必要です。
また、今般の制度変更は、最終的に承認が出るかどうかの結論には大きな影響は与えないと考えられますが、より多くの買収取引を審査対象にし、特に、過去3年間の取引も確認しなければならなくなる場合がありますので、買収スケジュールには影響を与える場合が増えるでしょう。また、より早い段階で専門家に相談したり、過去の取引に関する資料を適切に管理したりすることが必要になるため、当事者にとってより多くの負担が生じることになり得る制度変更と言えます。