はじめに
2025年5月13日、The Bar Council of India(以下「インド法曹評議会」という。)は、外国弁護士および外国法律事務所(以下総称して「外国弁護士等」という。)によるインドでの活動に係る規則「Bar Council of India Rules for Registration and Regulation of Foreign Lawyers and Foreign Law Firms in India, 2022(以下「2022年外国弁護士等規則」という。インド最新法令情報(2023年3月号)参照)」を改正したことを公表した。
近年、インドはビジネスの国際化と経済発展に伴い、世界経済の中でその存在感を急速に高めている。こうした流れの中で、インド弁護士の利益を守りつつ、一定の条件下で外国弁護士等の参入を部分的に認めるという規制緩和の方向性が継続して打ち出されてきた。今回公表された2025年規則も、これまでの姿勢を踏襲しつつ、不明確であった論点を整理する内容を含んでおり、世界の法曹界において大きな注目を集めている。
本号では、今般改正された外国弁護士等規則(以下、改正後の2022年外国弁護士等規則を便宜上「2025年規則」という。)の内容を概観する。
2025年規則の内容および2022年外国弁護士等規則からの主な変更点
2025年規則は、(i) 外国弁護士等がインドにおいて活動するためにはインド法曹評議会への登録を必要とすること、(ii) 年間60日を超えない範囲の“Fly-in and Fly-out”ベースであれば、外国弁護士等は、登録無しでもインドを訪問し活動を行うことができること、(iii) 外国法弁護士等は、インド法について助言できず、インド国内の訴訟で弁論を行うといったことは認められないこと、といった2022年外国弁護士等規則の骨格を維持している。
もっとも、2025年規則では、以下の各点において重要な変更がなされている。
(1)定義の精緻化と新設
従前は簡潔な記載であった「外国弁護士」、「外国法律事務所」、「インド弁護士」といった定義が精緻な内容になるとともに、インドの現地法律事務所が外国法に関する助言を行う場合を想定した「インド-外国法律事務所(Indian-Foreign Law Firm)」という新しい概念が創設された。
(2)外国弁護士との連携関係の明確化
外国弁護士等とインド弁護士(法律事務所)との提携や外国弁護士等によるインド人弁護士の雇用に係る定めが新設された。
(3)仲裁手続における代理権限の整理
外国法または国際法が関係するインドを仲裁地とする国際仲裁において、外国弁護士等がクライアントを代理できることが明確化された。(従前は、代理の可否を巡って解釈上の不確実性があったが、その点が解消された形となる。)
(4)“Fly-in and Fly-out”活動への新たな申告義務等
“Fly-in and Fly-out”ベースでインドを訪問し活動を行う際には、事前にインド法曹評議会へ申告を行うことが義務付けられた。申告内容として、業務内容・クライアントに係る詳細・訪問目的などを示すことが求められ、あわせて申告手数料(外国弁護士が個人であれば3,000米ドル、外国法律事務所であれば6,000米ドル)を支払う必要があるなど、従来より厳格化されている。
総括
2025年規則は、従来不明確さが残っていた点について、定義規定や規律する条項を整備するなどして、外国弁護士等がインドで活動するに際しての不確実性を低下させるものである。しかし一方では、上述の通り、外国弁護士等による“Fly-in and Fly-out”ベースの活動に対して申告義務や手数料が新設されるなど、インド弁護士の利益への配慮を重視した、保護主義的な色彩も見てとれるものとなっており、実務上は窮屈な側面があることも否めない。
このような改正内容をどう評価するかは難しいが、一般的に既得権益者への配慮無くして規制改革が実現不可能なことに鑑みれば、不完全な面があったとしても、様々な形で外国弁護士等のインド進出に係る不確実性を低下させた2025年規則については、ひとまず肯定的に捉えても良いものと思われる。
外国弁護士等のインド進出については、未だインド弁護士法との関係で未解決の論点も残っているが、多くの国の法律事務所がインド進出を検討している現在、2025年規則はそれらの事務所にとってインド進出の後押しとなることは間違いない。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/白井紀充/國井耕太郎
info.indiapractice@tmi.gr.jp
インドにおける現行規制下では、外国法律事務所によるインド市場への参入やインド法に関する助言は禁止されております。本記事は、一般的なマーケット情報を日本および非インド顧客向けに提供するものであり、インド法に関する助言を行うものではありません。