1.はじめに
インドの日弁連(日本弁護士連合会)に相当するThe Bar Council of India(以下「インド法曹評議会」という。)は、2023年3月10日、外国人弁護士及び外国法律事務所(以下総称して「外国人弁護士等」という。)のインドでの活動を一定の範囲で認める旨の規則(“Bar Council of India Rules for Registration and Regulation of Foreign Lawyers and Foreign Law” (以下「外国弁護士規則」という。))を公表した。
外国弁護士規則は、外国人弁護士等のインドでの活動を厳格に禁止するという、これまでのインド法曹評議会の立場を大きく変更するものであり、日本の法曹業界においても大きな話題となった。
本号では、外国人弁護士等への従前の規制及び外国弁護士規則による規制緩和の内容を概観し、その影響について紹介する。
2.従前の外国人弁護士等のインドにおける活動
まず、1961年弁護士法(“The Advocates Act, 1961”(以下「弁護士法」という。))は、インド法曹協議会に登録した弁護士のみが法律業務を行うことができる旨規定している。欧米の大手法律事務所を中心に一部の外国人弁護士等は、以前、上記規制の対象は、主に訴訟事件に限られ、契約書の作成やM&Aのリーガルアドバイザー業務といった非訴訟的な活動は、対象外であるとの理解のもと、インドに拠点を設けていた。
その後、2010年頃、インド法曹評議会は、こうした外国人弁護士等の活動は、弁護士法に反するという立場をとるようになり、複数の訴訟が係属する事態となった。
これに終止符を打ったのが、2018年3月13日付けインド最高裁判決であり、外国人弁護士等は、インド法曹協議会に登録しない限り、訴訟事件、非訴訟事件を問わず、インド国内で法律業務を行うことはできないと判示した。
これにより、外国人弁護士等は、年間60日を超えない範囲の“Fly-in and Fly-out”ベースで、インドを訪問し活動することが認められるに留まることとなった。
3.国際化による方向転換と外国弁護士規則
(1) 国際化による方向転換
一方で、昨今、ビジネスの国際化がこれまでにないスピードで進み、発展するにつれて、インドにおいても、リーガルサービスの質及びスピード等を国際的水準に引き上げることが迫られる状況になってきた。また、インドの法曹業界において、国際的なビジネス紛争の解決地としてインドが選ばれなくなるといった危機感も強くなり、外国人弁護士等へ門戸を開くことへの機運が高まっていた。こうした状況を踏まえ、インド法曹協議会は、外国弁護士規則を整備することで外国人弁護士等の受け入れに大きく舵を切った。
(2) 外国弁護士規則の内容
外国弁護士規則は、外国人弁護士等の資格及び登録基準を定め、外国人弁護士等が所定の登録(以下「外国人弁護士登録」という。)を受けることが、インドを拠点として法律業務を実施する条件としている。外国人弁護士登録が認められるためには、外国人弁護士等の原資格国において、インド弁護士が同等の条件で、登録し活動することが認められていること、すなわち、相互主義を採用することが要件となる。外国法事務弁護士の登録制度を有する日本は、これに該当すると思われる。
他方、外国人弁護士登録を受けない場合は、前述と同様の“Fly-in and Fly-out”ベースでの活動のみが許容されるに留まる。
なお、外国人弁護士登録を受けた場合でも、実施できるのは非訴訟業務に限られ、例えば、インドの裁判所で弁論するといったことは認められない。
一方、インド国内の法律事務所や弁護士に課されている、宣伝広告及び成功報酬を制限する旨のインド法曹評議会の規制がそのまま外国弁護士等にも適用されるのか、インド国内の法律事務所と外国弁護士等の間のジョイントベンチャーが認められるか等不明な点も多い。今後の下位規則やガイドラインの制定等で明らかになっていくものと思われる。
4.コメント
以上のとおり、外国人弁護士等におけるインドでの活動は、これまで限定的なものであったが、国際化の流れを受けた外国弁護士規則の制定により、一定程度緩和された。
外国弁護士規則により、実際に海外の法律事務所や弁護士のインド進出がどの程度進むかは未知数であるが、これによりインドにおける法曹業界全体が国際競争により底上げされることは期待でき、インドに進出する日系企業を含む外資企業にとっては歓迎すべき変化であるといえそうだ。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
平野正弥/小川聡/鈴木基浩
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