はじめに
オーストラリアでの不動産に対する投資は活況を呈しています。2024年の総取引量及び取引額は2023年に比べて増加しており、オーストラリア全体での取引額は合計300億豪ドルに達しました。本稿では、オーストラリアの不動産投資における典型的な投資ビークルであるユニット・トラストについて、その概要を解説いたします。
一般的な不動産投資ビークル:ユニット・トラスト
オーストラリアで不動産投資に用いられている投資ビークルには様々なものがありますが、最も一般的に用いられているのはユニット・トラスト(unit trust)です。特に不動産投資分野においては、開発した不動産の賃料から継続的にリターンを得ようとする場合に、投資ファンドを組成するために用いられます。
ユニット・トラストは、一般に、信託を設立する文書(trust deed)によって設立され、ある会社を信託受託者(trustee、一般には、投資ファンド専門の受託会社)として選任し、信託受託会社の取締役がユニット・トラストを運営します。信託設立文書は、信託受託会社が投資家に対して発行するユニットの権利など、ユニット・トラストを規律するルールを定め、株式会社における定款と同様に機能します。
発行されたユニットは、しばしば、株式会社における株式に相当するものと例えられます。ユニットの保有者(unitholder)は、信託財産から発生する財産的利益の分配を受ける権利を持ちますので、全ての信託財産については、信託受託会社が広範な裁量権を持ち、ユニット保有者の利益のために信託保有します。
限られた数の投資家にしかユニットを発行しない場合には、ユニット保有者間契約(unitholders’ agreement)を締結し、追加的なルールを定めたり、特定の議決事項についてユニット保有者や投資委員会が意思決定に関与できるようにするのが一般的です。信託財産の売買についてユニット保有者が関与できるようにしても、後述するManaged Investment Scheme (MIS)の日常的な運営への支配権を持つものではないと考えられています。
なお、ユニット・トラストは法的主体ではないため、一般に、ユニット・トラスト自体は課税対象にならず(パススルー)、ユニット保有者がその保有する割合に応じて取得するユニット・トラストの収益に対して課税されます。
外国投資家に対するユニット・トラストに関する税制優遇
ユニット・トラストが税法上のmanaged investment trust(MIT)の要件を満たす場合には、外国投資家は、オーストラリアを源泉とする所得及びオーストラリアにおける課税資産のキャピタルゲインについて、税率が15%(日本のようにオーストラリアとtax information exchange agreementを締結している国の居住者であるユニット保有者に対して分配した場合)となるなどの優遇を受けられる可能性があります。
MITにするために、一般には、概要次の各要件を満たすようにスキームを構築します。具体的な適用可否については個別の事情を踏まえ確認する必要があります。
- ユニット・トラストがオーストラリアの居住者であるか、または、その運営者か支配者がオーストラリア国内に所在していること
- 投資運営行為の実質的な部分がオーストラリア国内で行われていること
- ユニット・トラストが、豪州会社法上のmanaged investment scheme(MIS)であること(後述)
- ユニット・トラストがwidely-held(広く開かれた投資家により保有されている)の要件を満たすこと (25名以上のユニット保有者がいること。但し、このカウントの仕方についてはやや複雑な規定があります)
- ユニット・トラストがnot closely-held (閉鎖的に保有されていない)の要件を満たすこと(10名以下の投資家が合計で75%以上の権益を保有していないこと、かつ、海外居住の自然人が直接または間接に10%以上のユニットを保有していないこと。このうち、「10名以下が75%保有」のカウントの仕方についてもやや複雑な規定があります)
- ユニット・トラストが trading trustではないこと。例として、活動内容が一定の要件を満たす必要があり、不動産投資目的のユニット・トラストの場合には、通常、賃料を取得することを主目的として土地を長期保有する意思があること
- ユニット・トラストが金融サービスライセンス(AFSL)保有者により管理運営されていること
豪州会社法上のManaged Investment Scheme(MIS)の定義
上記のとおり、MITの要件を満たすためには、ユニット・トラストが豪州会社法上のMISの定義も満たすようにスキームを構築する必要がありますが、その定義の概要は次のとおりです。
- スキームが作り出す利益を取得する権利の対価として、投資家が金銭または金銭代替物を拠出すること(権利は現実に発生しているものであるか、将来発生するものであるか、あるいは条件成就にかかるものであるか、さらには執行可能なものであるか否かを問わない)
- 拠出金や拠出物は、経済的利益や財産的権益から構成される便益を生み出させるために、スキームに権益を保有する構成員(ユニット保有者)のために、プールされ、または、共通の事業のために利用される(なお、ユニット保有者は、スキームに拠出した者であるか、他の保有者から権益を取得したものであるかを問わない)
- 構成員(ユニット保有者)は、スキームの日常的な運営に対する支配権を持たない(協議を受ける権利があるか、指示をする権利があるかなどを問わない)
- ユニット・トラストは、豪州会社法が定める特定のカテゴリーに属するものであってはならず、特に、全構成員が相互に関連する法人であり、かつ、スキームの発起人である法人との関連法人であってはならない。
なお、構成員(ユニット保有者)が20名以上いる場合等にはMISをASIC(法務当局)に登録しなければならない旨の規定がありますが、ユニット保有者をいわゆる機関投資家に限定することによって例外的に登録不要である旨の規定に該当させるようにするのが通常です。
最後に
以上が概要となりますが、外国投資家がMITにより税制上の優遇を受けるためには複雑な要件を満たさなければなりませんので、一見すると簡単ではないようにも見えます。しかしながら、経験のあるオーストラリアのアセットマネージャーなどをパートナーとして選んだり、機関投資家を招いたりすることなどによって、無理のない形でスキームを構築していくことは十分に可能です。また、オーストラリアにおいては、業界に通じた法律事務所などの専門家が投資家やパートナーとなるプレーヤーを紹介することもよく行われていますので、まずは専門家に相談してみることも一つの方法です。