はじめに
2025年3月27日及び同年4月2日、インド連邦議会下院及び上院は、外国人の入国・滞在・退去に関する制度を一本化するために、2025年インド入国管理及び外国人法(The Immigration and Foreigners Act, 2025(注1)。以下「新法」という。)を可決した。新法は、同年4月4日に大統領の承認を経て、同年9月1日に施行された。また、下位法規として、2025年インド入国管理及び外国人規則(The Immigration and Foreigners Rules, 2025(注2)。以下「新規則」という。)並びに2025年インド入国管理及び外国人施行令(The Immigration and Foreigners Order, 2025(注3))も新法と併せて制定・施行されている(以下、これら下位法規と新法を併せて「新制度」という。)。外国資本による投資に前向きな経済政策を打ち出すモディ政権下において、世界各国が積極的にインド市場を目指す中、インド国内への入国及び滞在に関連する新法の施行は日本企業にとっても理解しておくべき重要なテーマであるため、本稿ではその経緯や内容を概観したい。
1.概要
新法は、入国管理や外国人に関連して、長年運用されてきた以下の4つの旧法を廃止し、それらの内容を統合した包括的な枠組みとして制定された法律である。
- Passport (Entry into India) Act, 1920
- Registration of Foreigners Act, 1939
- Foreigners Act, 1946
- Immigration (Carriers’ Liability) Act, 2000
これらの旧法には英領時代に制定された法令も含まれることから、法文自体に重複する内容も多いほか、管轄省庁における権限重複も見られ、情報共有の遅滞や手続の煩雑さを来す要因となっていた。そこで新法は、法体系を統合して移民管理の近代化を目指しつつ、不法入国を防止する安全保障、及び外国人駐在員・留学生・技能者・投資家など合法的な外国人流入の円滑化のバランスを図って制定された。
また、新制度では、従来の紙媒体による登録や報告手続を一新し、デジタル管理システムを中心とした入国管理制度を導入しつつ、従来は複数の省庁に分散していた権限を整理し、外国人管理に関する管轄権を内務省(Ministry of Home Affairs)に一元化することで、手続の透明性と実務上の利便性を高めている。
2.日本企業における留意点
新法においては、違反行為に対する罰則が厳格化されている。例えば、新法は、①不法入国した外国人に対し、5年以下の懲役若しくは50万ルピー以下の罰金又はその両方を(新法第21条)、②偽造又は不正取得されたパスポート、ビザ、その他の旅行書類を使用又は供給した者に対し、2年以上7年以下の懲役若しくは10万ルピー以上100万ルピー以下の罰金又はその両方を(同第22条)、③ビザの有効期間を超えて滞在した外国人に対し、3年以下の懲役若しくは30万ルピー以下の罰金又はその両方を(同第23条)、それぞれ科すと規定している。
また、180日以上滞在する外国人は、到着後14日以内に外国人地域登録事務所(Foreigners' Regional Registration Office/FRRO)に登録する義務があるので(新法第6条及び新規則第12条)、インドに駐在員を派遣する場合は留意する必要がある。
なお、宿泊施設、大学、教育機関、病院、療養施設等は、滞在又は訪問する外国人の情報を政府へ報告しなければならず(新法第8条乃至第10条)、また国際旅客運送会社は、到着前に乗客及び乗務員の事前情報を提出することが義務付けられている(新法第17条)。これらは在留期間を超えた不法滞在や、不法入国を容易に発見するために設けられた義務である。
このように、新制度下においては、不法滞在や不法入国に関する管理が徹底され容易に違反行為が発見されやすくなっており、また厳罰化がなされていることから、インド駐在員の滞在期間、居住地その他滞在状況について、日本側での管理もより徹底する必要がある。
3.むすび
新法の施行と併せて、2025年9月5日、日印両政府が両国間の人的交流を促進するための新たな行動計画として「日印人材交流イニシアティブ」が公表された(注4)。同計画においては、インドから日本への専門人材5万人を含め、日印双方向において5年間で50万人以上の人材交流を目指す内容となっている。
インド経済の発展状況及び将来的な発展の見込みを踏まえれば、日本企業によるインドへの人材派遣は引き続き増加していくことが予想される。インド国内に人材派遣を現に行い又は将来的な人材派遣を検討している日系企業その他の外国企業においては、インドにおける入国管理に係る新制度施行後の運用状況は関心事であり、新制度の実務動向を注視していく必要がある。
注1 Immigration and Foreigners Act, 2025
https://www.mha.gov.in/sites/default/files/2025-09/Immigration_and_Foreigners_Act_2025_16092025.pdf
注2 Immigration and Foreigners Rules, 2025
https://www.mha.gov.in/sites/default/files/2025-09/Immigration_and_Foreigners_Rules_2025_16092025.pdf
注3 Immigration and Foreigners Order, 2025
https://www.mha.gov.in/sites/default/files/2025-09/4merged_16092025.pdf
注4 日印人材交流イニシアティブ(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/in/pagew_000001_01912.html
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/奥村文彦/呉竹 辰
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