本項では、日本企業が豪州の子会社において新規雇用を行う場合を想定して、その留意点の概要をご説明いたします。なお、本項の内容は2026年6月23日現在の情報や法律に基づいています。
新規雇用の前提として確認・留意すべき事項
まず、新規に雇用を検討いただく上で、前提として確認・留意すべき事項として、以下が考えられます。
- 雇用対象となる従業員の職務、就業場所、労働時間、報酬等の労働条件
→近年整理解雇(redundancies)を行った従業員と同じ職務の場合、当該整理解雇の有効性が問われる恐れがあります。 - 従業員を募集する際に、その採用広告や採用活動を行う上で差別的な言動や情報収集を行わないこと
- 採用対象となる従業員が豪州で就労できること
→ 豪州国籍保有者、永住ビザ保有者または短期就労ビザ保有者(派遣する日本企業においてビザスポンサーになる等)であるかを確認してください。
労働条件を検討する上で留意すべき点
次に、新規に雇用する従業員の労働条件を検討する上で、以下の点にご留意ください。
- 雇用ではなく業務委託(independent contractor)の法形式とするには慎重であるべき
→ 業務委託の形式で契約したとしても、実質的に見て雇用関係にあると判断される場合には雇用とみなされ、sham contracting(偽装契約:実質的には雇用であるのに業務委託に偽装)として罰則の対象となるほか、雇用を前提とした残業代等の未払いリスクが生じます。特に単独の業務委託者(日本企業の豪州子会社など)を設定し、個人が専ら当該業務委託者に対してのみ委託業務を行うという場合はリスクが高いと言えます。2024年に規制が強化され、豪州では罰則が重いだけではなく、法執行も積極的になされる傾向にある点にも留意が必要です。 - 期間雇用に対する規制がある点にも留意
→ 期間雇用についても、2023年12月に施行された規制があります。所定の説明書を交付することが義務付けられているほか、期間は延長や更新を含めて2年までに制限されています(新しい期間雇用の場合でも、従前の期間雇用と実質的に同職務の場合は2年間の制限にカウントされます。)。なお、高額所得者、特別な技術を要する職種、及び研修生等についてはこの規制から除外されていますので、この除外に該当するかどうかも個別に検討すべき場合があります。
- 参照すべき法規制が多岐に亘って複雑であること
→ 雇用契約に規定する労働条件については、以下をそれぞれ参照する必要があります。
► 毎年定められる最低賃金額(2026年7月1日より、時給26.44豪ドル、税込み)
► Fair Work Act 2009 (Cth)に規定されているNational Employment Standards (NES)(日本の労働基準法に相当するもの)
► Modern Awardsと呼ばれるセクターや職務毎の最低労働条件・賃金等(但し、高額所得者や経営側の職務についている場合等は除外)
→ 一般に、NESよりもModern Awardの方が労働基準は高くなっています。現状122種あるModern Awardのうちどれが新規雇用する従業員に適用されるかについては、役職名・ポジション名に左右されることなく、担当する実際の職務によって決まります。複数の職務に従事する場合などにおいてはどれを適用すべきかを慎重に検討すべきことになります。正しいModern Awardを適用しないと、賃金の過少支払いや残業代の不払い等のリスクが生じることになりますので、この論点は非常に重要です。
► enterprise agreement(企業によっては、労使間で締結されている場合あり
→ これらはmodern awardよりも概して高い労働条件となっています。
► その他の連邦・各州法
→ long service leave(永年勤続休暇)、労働安全衛生制度、差別禁止法、労災補償制度、退職年金制度などが定められています。
- 一旦雇用を開始すれば、一般に解雇は容易ではないこと
→ 豪州では、米国のemployment at willのように解雇が容易な法制は採用されていません。むしろ、労働者の保護に手厚い法制になっていますので、一旦雇用を開始すれば、解雇を行うことは一般に容易とは言えません。したがって、以下のような各手段を取ることが検討に値するところです。
► 正式採用の前に適法な形式で調査を行うこと(レファレンスを取ったり、資料の提出を求めるなど)で適切にスクリーニングを行うこと
► 試用期間を設けて適切に活用すること
► 適法な範囲で不当解雇(unfair dismissal)制度を利用できないように労働条件を設定すること
► 職務範囲・責務・KPIなどを明確に設定し、適時にパフォーマンスの状況をモニタリングし、適宜改善の措置を採ること
► ハラスメント防止や情報管理に関するポリシーなど、適切な職場環境を維持するためのポリシーを整備し、周知し、定期的にトレーニングを行うこと
新規雇用を行う上で行うべき手続き
労働条件が決まりましたら、会計事務所や法律事務所といった専門家の支援を受けながら、雇用開始・給与支払いまでに、概要、以下の手続きを踏む必要があります。
- 雇用契約の締結
- 労災保険への加入
- 給与に対する源泉所得税についての税務当局の手続き(税務番号の登録等)
- Superannuation(退職年金)の拠出金(賃金の12%)を、雇用者から直接、給与支払いと同じタイミングで、従業員が指定する年金基金に対して支払うための登録や手続
- 給与計算・給与支払い(源泉税の控除と退職年金拠出金の基金への支払いを含む)
- 源泉税等の税金の支払いや税務報告
- 休暇期間(残存日数及び消化日数)及びpayslipの記録・保管
最後に
上記で検討してきましたように、豪州では労働者側の権利は年々強化される傾向にあり、新規雇用の際にも期限の定めのない通常雇用を原則的な雇用形態として検討しなければならない傾向にあります。また、通常雇用においても労働条件が労働者側に手厚くなっており、毎年のように変更される細かい法規制や手続きを確認していく必要があります。また、通常雇用においても労働条件が労働者側に手厚くなっており、毎年のように変更される細かい法規制や手続きを確認していく必要がある点にご留意ください。