1.はじめに
2026年1月13日、インド準備銀行(Reserve Bank of India。以下「RBI」という。)は、Foreign Exchange Management (Export and Import of Goods and Services) Regulations, 2026(Notification No. FEMA 23(R)/2026-RB。以下「本規則」という。)を公布した。本規則は2026年10月1日に施行予定であり、施行に伴い、旧規則であるForeign Exchange Management (Export of Goods & Services) Regulations, 2015はFEMA 23(R)/2026-RBにより廃止される。また、これに関連し、Master Direction – Export of Goods and Services及びMaster Direction – Import of Goods and Servicesの両Master Direction並びに別紙に掲げる輸出関連96件及び輸入関連71件(計167件)の通達が廃止される。
本規則の公布は、二度にわたるパブリックコンサルテーションを経たものであり、RBIの貿易関連外為規制を構造的に修正するものである。従来、輸出と輸入の規制は別個の法的枠組みの下に置かれ、多数の通達やMaster Directionに規定が分散していた。本規則は、物品、サービス及びソフトウェアの輸出入を単一の規制枠組みの下に統合し、原則ベース(principle-based)のアプローチを採用することで、規制の断片化を解消し、取引の容易性の向上を企図している。
なお、本規則は2026年9月22日付Notification No. FEMA 23(R)/(1)/2026-RBにより、施行直前に一部改正されている。本稿では、改正後の内容を反映した本規則の主要な変更点を整理し、日系企業への実務的な影響を解説する。
2.本規則の主要な変更点
(1)統一輸出申告様式(EDF)の導入
旧規則においては、物品の輸出にはExport Declaration Form(以下「EDF」という。)、ソフトウェアの輸出にはSOFTEXと、複数の報告様式が併存していた。本規則はこれを統一し、物品・サービス・ソフトウェアの全ての輸出について単一のEDFでの報告を義務付けた(Regulation 3)。特に重要な変更として、旧規則下では申告義務が課されていなかったサービス輸出事業者についても、請求書発行月の末日から30日以内にEDFを提出する義務が新設された。同一月内に複数の海外取引先にサービスを輸出した場合には、一括報告も認められている。
(2)輸出代金回収期限の変更
輸出代金回収期限は、旧規則の下でも複数回の改正が行われ、施行直前時点では9か月とされていた。
本規則も公布後に改正され、施行時点では以下の表のとおりとなる。
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輸出の態様 |
旧規則 (2026年9月30日まで) |
本規則公布時 (2026年1月13日) |
本規則改正後 (2026年10月1日施行予定) |
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物品の輸出 |
船積日から9か月 |
船積日から15か月 |
船積日から9か月 |
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倉庫からの輸出 |
船積日から15か月 |
倉庫からの販売日から15か月 |
倉庫からの販売日から9か月 |
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サービスの輸出 |
輸出日から9か月 |
請求書発行日から15か月 |
請求書発行日から9か月 |
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インド・ルピー建ての輸出 |
―(区分なし) |
18か月 |
12か月 |
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プロジェクト輸出 |
別途規定 |
契約条件に従う |
同左 |
上記のとおり、通常の物品輸出及びサービス輸出については、旧規則(施行直前)と本規則(改正後)のいずれも9か月とされており、期限自体に変更はない。他方、倉庫からの輸出については、旧規則では船積日から15か月、本規則公布時には倉庫からの販売日から15か月、改正後は同販売日から9か月とされた。また、本規則は新たにルピー建て輸出について外貨建てより3か月長い12か月の期限を設けており、インドのルピー国際化政策を反映した新たな区分と解される。加えて、プロジェクト輸出については、旧規則では別途の通達に委ねられていたが、本規則では契約条件に従うものとして規則本体に統合された。
なお、Authorised Dealer(以下「AD銀行」という。)は、輸出者からの申請に基づき、遅延の理由に応じて回収期限の延長を認めることができる。
(3)輸入代金支払期限の柔軟化及び輸出債権・輸入債務の相殺
旧制度の下では、輸入代金の支払は原則として船積日から6か月以内とされていたが、本規則はこの固定的な期限を廃止し、輸入代金の支払期限を当該輸入に係る契約条件に委ねることとした(Regulation 9)。
また、同一の海外取引先(そのグループ会社及び関連会社を含む。)に対する輸出債権と輸入債務の相殺がAD銀行の許可により認められている(Regulation 7)。新制度の主な柔軟化は、同一暦年内に完了させる要件及び相殺に関する合意書の要件が撤廃され、物品とサービスとの間の相殺も認められた点にある。相殺は、所定の輸出代金回収期限(延長後を含む。)内に行うことができる。
(4)未回収輸出代金及び輸入不実現に対する措置
本規則は、輸出代金の未回収や輸入の不実現に対する措置を明確化している。輸出代金が回収期限から1年を超えて未回収の場合、当該輸出者の今後の輸出は全額前受金又は取消不能信用状を条件とする場合に限られる(Regulation 13)。また、輸入が実現しなかった場合には前払金の回収義務が生じ、これが履行されない場合には将来の輸入前払いに銀行保証等が要求される(Regulation 12(2))。
(5)AD銀行の役割の強化
本規則は、AD銀行を外為コンプライアンスの中核的な主体として位置付け、輸出入取引に関する内部規程等の整備・公開義務を課している(Regulation 19)。
このほか、本規則は、仲介貿易取引(Merchanting Trade Transactions)の直接的な規定化(Regulation 16)及びルピー建て国際貿易決済の正式な枠組みへの統合(Regulation 17)等の変更も含んでいる。
3.日系企業への示唆
本規則の施行は、インドで国際取引を行う日系企業に以下の実務上の影響を及ぼし得る。
本規則により輸出入規制が統合され、参照資料が整理・集約される点はコンプライアンス体制の簡素化に資する。他方、原則ベースのアプローチの採用により、AD銀行ごとに実務上の取扱いが異なる可能性がある点には留意が必要である。
日系企業にとって特に影響が大きいのは、サービス輸出事業者に対するEDF報告義務の新設であり、在インド子会社においては業務フローへの影響を確認することが重要である。輸出代金回収期限については、通常の物品・サービス輸出では旧規則と同じ9か月であるが、倉庫輸出は起算日が販売日に変更され期間も短縮されたため、別途確認が必要である。また、輸出債権と輸入債務の相殺要件の緩和は、グループ内資金管理の観点から有益な改正といえる。
本規則は2026年10月1日に施行予定であり、AD銀行の内部規程の整備状況やRBIによる追加の通達・ガイダンスの動向を引き続き注視することが望ましい。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/小川 聡/清水一平
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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