はじめに
前回のブログでは、主にCompanies House の権限強化及びそのスケジュールを御紹介しました。今回は、ECCTAで新たに導入される取締役等の本人確認義務及び日本企業が今後取るべき対応を御説明します。
誰について本人確認義が必要か
まず、ECCTAでは、英国の企業構造の悪用を防ぎ、経済犯罪に対処することを目的としており、企業の透明性を高めるため、企業の取締役等について本人確認(Identity Verification, IDV)義務が導入されました。
本人確認義務の対象者は広範に及びますが、大要、以下の人物について、本人確認を行うことが必要です。
- 企業の取締役
- 取締役と同等の地位にある者(例えばLLPの組合員、ジェネラルパートナー等)
- 企業の実質的支配者(Person with Significant Control, PSC)
なお、英国企業ではなくても、英国に支店等(UK establishment)を有する外国会社(overseas companies)についても取締役等の本人確認が義務付けられています。したがって、英国に支店等(英国支店、英国駐在員事務所などと呼ぶことが多いかと存じます。)を有する日本の会社(本社側)の取締役等が変更した場合、Companies Houseで変更登記をするためにはECCTAに基づき本人確認を実施する必要があります。従前から日本の本社側の取締役に変動があった場合は、Companies Houseで所定の期間内に変更登記が必要でしたが、今後はその際に本人確認手続を実施することが必要となります。
いつから本人確認をする必要があるのか
本人確認手続自体は2025年4月8日から既に自発的な任意の制度として開始しています。2025年秋以降(現時点で具体的な日程は公表されておりません。)、新会社の設立時及び既存会社では新規選任時に本人確認が義務付けられています。2025年秋時点で選任済みの取締役に関しては、12ヶ月間の経過措置期間内に本人確認を完了する必要があります。具体的には、ECCTAの関連規則の施行後、最初のConfirmation Statementを提出する際に本人確認が完了している証拠を提供する必要があります。
本人確認の方法は
本人確認は、以下のいずれかの方法で行われます。
- 個人が直接Companies Houseを通じて行う
- Authorised Corporate Service Provider (ACSP)を通じて間接的に行う
ACSPは、企業に代わり本人確認手続を行うもので、法律事務所等Companies Houseに予め登録した一定の規制下(アンチ・マネー・ロンダリング)にある事業体を指します。なお、弊所は、ACSPに申請予定です。
本人確認義務を怠った場合のペナルティは
期限内に本人確認義務を遵守しない場合、以下のペナルティなどが課せられるおそれがあります。
- 本人確認が完了していない取締役は、取締役として活動することが禁止されます。
- 本人確認義務の懈怠は犯罪となるため刑事訴追・罰金が科せられる可能性があります。
- 本人確認義務を含む、一定の義務の不履行を3回行ったと認定された場合、取締役就任の欠格事由となります。
- 企業についても、本人確認未了の人物が取締役として活動することを防ぐ義務があり、違反した場合、会社及び全ての役員が刑事訴追・罰金の対象となる可能性があります。
日本企業において必要な対応
英国に子会社(英国法人)または英国支店等(UK establishment)を有する日系企業は、今後、取締役等について所定の方式及び書類に基づく本人確認手続を完了させる必要があります。全ての英国子会社又は英国支店等を有する日本企業において必ず対応が必要になる点が、ECCTAで別途導入される詐欺防止不履行罪とは異なります(詐欺防止不履行罪については次回のブログで解説します。)。
特に新たに選任される取締役に限らず、既存の取締役についても移行期間内に本人確認を完了させなければならない点、さらに英国支店等に関しては、日本の本社側の取締役についても本人確認が求められる点にも留意が必要です。
会社の規模によっては取締役の人数が多く、また、取締役個人が自ら英国政府及びCompanies Houseの公表するガイダンスを十分に理解した上で本人確認義務を履行することは、現実的には難しい場合もあります。したがって、日本企業としては本人確認手続の内容を的確に把握し、事前に取締役に対して十分な説明を行った上で、本人確認義務を円滑に履行するために、外部のACSPの活用などを検討すべきと考えられます。