2025年3月19日、フランス破毀院社会部は判決(22-17.315号)において、従業員が自宅を業務のために使用することに対して支払われる「テレワーク手当(自宅使用補償)」について新たな見解を示しました。本稿では、以下の三点を中心にこの判決の意義を解説します。
- テレワーク手当の発生要件
- テレワーク手当の法的性質
- 適用される消滅時効の期間
テレワーク手当の発生要件
労働法典第L.1222-9条は、テレワークを「本来は使用者の事業所で行うことができる業務を、労働者が自発的に、情報通信技術を利用して事業所外で行う勤務形態」と定義しています。
従来の判例(破毀院社会部 2010年4月7日判決 08-44.865号)では、会社がオフィスを提供できない場合や、会社の指示により従業員がテレワークを承諾した場合に限り、テレワーク手当の支払い義務が認められていました。
今回の判決では、「従業員が自宅を業務のために使用すること自体が私生活への介入である」とする従来の考え方を踏襲しつつ、労使合意に基づくテレワークであっても補償の対象となることを明示しました。つまり、オフィスが実際に提供されている場合でも、従業員の申し出によりテレワークが合意されていれば、会社には手当の支払い義務が生じると判断された点が画期的です。
テレワーク手当の法的性質
テレワーク手当の法的性質を明確にすることは、消滅時効の適用において重要です。
判例は、テレワーク手当を「業務遂行の一形態に伴う負担を補償するもの」と位置づけており、給与でも単なる費用補填でもないとしています。これは、労働そのものの対価ではなく、自宅を業務に使用することによる私生活への侵害を補う補償であり、民法上の一般的な損害賠償とも異なる性質を持つものです。
テレワーク手当の消滅時効
控訴審では、テレワーク手当を私生活への侵害に対する損害賠償と位置づけ、民法典第2224条に基づき、過去5年間に遡って請求可能と判断しました。
しかし、破毀院はこれを覆し、テレワーク手当は労働契約の履行に関連するものであると認定し、労働法典第L.1471-1条に基づき、2年の短縮時効を適用すべきと判断しました。これにより、従業員が請求できる期間は、請求日から遡って2年間に限定されることとなり、控訴審の判断は否定されました。
まとめと企業へのアドバイス
本判決の意義は以下の二点に集約されます。
- テレワーク手当の発生要件の明確化
オフィスが提供されていない場合に限らず、労使間で在宅勤務が合意されている場合(提案者が使用者か従業員かを問わず)にも、テレワーク手当が発生し得ることが明示されました。
- 法的性質と時効の確定
テレワーク手当は給与でも民法上の一般的な損害賠償でもなく、労働契約履行に伴う特別な負担への補償であるため、労働法上の2年の消滅時効が適用されます。
企業にとっては、請求可能期間が短縮された点は朗報ですが、在宅勤務の合意があれば補償義務が生じるという新たなリスクも浮上しました。今後は、労使協定やテレワーク規程において、手当の取り扱いを明確に定めておくことが望まれます。