※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2018年9月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
自社製品の販売拡大に販売代理店の利用は不可欠であろう。特にブラジルは国土が広く、地域によって商慣習が異なることもあるため、地域に密着した販売代理店を利用することで、販売チャネルの確保や顧客対応がスムーズになる。ブラジルでは、日本と異なり、販売代理契約に関する特別の法律が存在する。そこで、本稿では、販売代理契約を締結するにあたり留意すべきポイントについて解説する。
1.販売代理契約の形態
「販売代理」には、エージェントと呼ばれる形態とディストリビューターと呼ばれる2種類の形態が存在する。エージェントは、製品販売の仲介のみを行い、成約した場合のコミッションを受け取る形態である。ディストリビューターは、販売代理店が自己のリスクで製品をメーカーから買い取り、それを顧客に再販売して、購入価格と再販売価格の差額を収得する形態である。日本では、法的な観点でこの両者を区別する意味はそれほどないが、ブラジルでは、形態によって適用される法律が異なる。
2.適用される法律
販売代理に適用される法律は、以下のとおり、形態及び取扱い製品により異なる。なお、下記の2つの特別法と民法の関係は明確ではないため、実務的には、特別法が適用される場合でも、民法(2002年10406号)の条文も念頭に置いて対処している。
形態/取扱い製品 |
適用される法律 |
エージェント |
1965年法4886号、民法 |
ディストリビューター(自動車以外) |
民法 |
ディストリビューター(自動車) |
1979年法6729号、民法 |
3.独占権・独占義務
エージェントであってもディストリビューターであっても、製品の販売に関して独占権を付与するか、また、独占義務を課すかは重要な点である。いずれも交渉によって決定する事項であるが、独占の有無を決定した場合は必ず契約書に規定すべきである。仮に契約書に規定がない場合は、法律に従い処理される。
民法 |
法4886号 |
法6729号 |
契約書に定めのない限り、同じ業務・同じ地域において複数の代理人を使用してはならない。 代理人側も、契約書に定めのない限り、委託者の業務と同様の業務を他者のために扱ってはならない。 |
契約書に記載がない限り、独占権は付与されない。 |
規定なし。なお、複数のディーラーがいる場合、ディーラー間の最低距離を定める。 |
4.契約期間
以下のとおり、特別法には契約期間についての特別の定めがあるため、特別法が適用される場合には、契約期間の取扱いには留意が必要である。なお、契約期間の定めの有無によって、契約の解除方法及び契約解除時の補償金の計算方法が異なる。
民法 |
法4886号 |
法6729号 |
規定なし |
以下の場合は、期間の定めのない契約となる。 |
1回目の契約期間のみ期間限定可能(ただし、5年以上)。更新した場合、契約期間の定めのない契約となる。 |
5.契約の解除
以下のとおり、各法律に契約解除について定めがある。民法と法4886号で、契約期間の定めのない契約の解除に関して、事前予告期間が30日と90日と違いがある。上述のとおり、民法と特別法の関係が不明確であるため、将来的に争われるリスクを回避するためには90日の事前予告期間を設ける方が安全である。
民法 |
法4886号 |
法6729号 |
契約期間の定めのない契約の場合、90日前の通知が必要。ただし、他方の当事者が当該契約のために投資を行っているのであれば、契約の性質を考慮して、当該投資を回収するために十分な期間が経過している場合にのみ解除可能。 |
契約期間の定めのない契約又は6か月以上経過した契約を正当な事由なく解除する場合、30日前の通知又は解除日から遡って3か月間に受領したコミッションの3分の1を支払うことで解除可能。 |
契約期間の定めのある契約を更新しない場合、180日前に通知する必要がある。180日前までに通知しないと契約期間は無期限になる。 |
6.解除時の補償
以下のとおり、特別法には解除時の補償についての特別の定めがある。
民法 |
法4886号 |
法6729号 |
特別の条項なし(損害賠償請求となる) |
契約期間の定めのない契約の解除の場合、代理人に対する補償金額は契約期間中に支払った全コミッションの12分の1を下回ってはならない。 契約期間の定めのある契約の解除の場合、「契約の残期間×契約期間中の平均コミッション額×2分の1」の補償金を支払う。 |
契約期間の定めのある契約を更新しない場合、ディーラーに販売した自動車・純正部品を買取時のディーラーへの販売価格で買い戻す。 契約期間の定めのない契約を解除した場合、ディーラーに販売した自動車・純正部品を買取時の最終消費者への販売価格で買い戻す。また、「(12か月+3か月/5年)×想定売上の4%」を支払う。 |