※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2022年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
暗号資産に関する法規制はない
ブラジルにおいても、近年、ビットコインなどの仮想通貨やデジタルアートなどのNFT(Non-Fungible Token)の取引が活発化している(本稿では、これらブロックチェーン技術を利用した資産を「暗号資産」と総称する)が、ブラジルでは、暗号資産を正面から規制する法令は本稿執筆時点では存在しない。もっとも、本稿執筆時点で暗号資産に関する法案が国会で審議されているため(2022年4月に2021年法案4401号が上院で承認されている)、近い将来、暗号資産の取引が行われる取引所の設置・運用や暗号資産の取引に何らかの規制が課せられる可能性は高い。本稿では、暗号資産に関する法的論点について、本稿執筆時点で存在する法令等との関係で解説する。
暗号資産及び取引所の定義
上述のとおり、暗号資産を規制する法律は存在しないが、2019年5月に連邦国税庁(Receita Federal do Brasil)が公表したInstrução Normativa RFB 1888/2019という通達で、初めて暗号資産(Criptoativo)及び取引所(Exchange de Criptoativo)の定義が規定された。同通達は、暗号資産を「独自の単位で表示される価値のデジタル表象であり、その価格を現地通貨又は外国通貨で表すことができ、暗号技術と分散登録技術を使用して電子的に取引され、投資、価値移転手段又はサービスへのアクセスの形態として使用され、法定通貨として認識されないもの」と定義し、取引所を「金融機関か否かを問わず、仲介、取引、保管など、暗号資産の取引に関するサービスを提供し、他の暗号資産を含むあらゆる支払手段を受け入れる法人」と定義している。
連邦国税庁への情報提供義務
上記連邦国税庁の通達は、①ブラジルに所在する暗号資産の取引所及び②外国の取引所を介して、又は、取引所を介さずに月額30,000レアルを超える暗号資産の取引を行ったブラジル所在の個人及び法人に、当該取引に関する情報を連邦国税庁に提供する義務を課している。
キャピタルゲイン課税
暗号資産の売買等により得たキャピタルゲインは課税の対象である。もっとも、個人の場合は、連邦国税庁が2021年12月20日に公表した文書(Solução de Consulta Cosit nº 214, de 20 de dezembro de 2021)により、月額の取引額合計が35,000レアルを超えない限り課税されない。
有価証券に該当する場合
証券取引委員会(Comissão de Valores Mobiliários)は、2017年10月、ICO(Initial Coin Offering)に関して、ICOの経済的条件や投資家に付与される権利によっては証券取引法により規制される有価証券(Valor Mobiliário)に該当し得ること、有価証券に該当する場合には、その発行に際して証券取引法や証券取引委員会の規則に従う必要があるとのコメントを出した。かかるコメントを踏まえれば、暗号資産についても、有価証券に該当する場合には、発行に際して証券取引法等の規則に従う必要がある。なお、実際に、証券取引委員会は、2020年10月に、証券取引法等の規則に従わずにICOを発行した企業に対して罰金を科している。
マネーロンダリング
マネーロンダリング法(1998年法9613号:Lei de Lavagem de Dinheiro)は、金融機関等に対して、マネーロンダリングのリスクを誘発する可能性のある取引について金融活動管理審議会(Conselho de Controle de Atividades Financeiras:COAF)に報告する義務を課している。そのため、同法の要件に該当する場合には、暗号資産の取引所も同義務を負う。
NFTの保有者が得る権利
NFTは、ビットコインなどの代替性トークンと異なり、非代替資産であるがゆえに、それを保有すること自体に価値があり、また、非常に高額な価格で取引されることもある。一方、非代替資産であっても、デジタルデータには変わりがないためその複製は容易である。そこで、NFTの保有者が、NFTを使って何らかのビジネス(NFTの展示など)を行うことができるのかやNFTの無断複製に対して何らかの権利行使をできるかは重要なテーマである。この点、NFTなど暗号資産を正面から扱った法令は存在しないため、NFT保有者の権利については民法などの一般法やNFTを購入した取引所の契約(利用規約)に従うことになる。取引所の利用規約においては、NFTの取得者はNFTの著作権を取得せず、NFTに関するデジタルデータの保有権を取得するだけであることが多い。つまり、NFTの保有者は、NFTの著作権者の承諾を得なければNFTを複製したり配信したりすることはできず、取引所の利用規約に従い転売等ができるのみであることが多い。そして、NFTの保有者は著作権者ではないため、第三者がNFTを無断複製等しても、NFTの保有者がその第三者に対して差止請求や損害賠償請求を行うことはできない。また、NFTが第三者の権利を侵害している場合、NFTの利用ができずNFTは無価値となる可能性があるが、一般的には取引所はこのような場合に免責されることが利用規約に規定されているため、取引所に責任追及することは難しい。
マイニング
ビットコイン等のマイニング事業に関する規制はない。なお、マイニング事業を誘致するための施策(マイニング機器の輸入にかかる免税など)が本稿執筆時点で議論されている。