※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2026年1月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.データセンター事業の成長
ブラジルのデジタルインフラ市場は急速に拡大しており、その中心となっているのがデータセンターである。2025年6月時点の調査によれば、ラテンアメリカには368のデータセンターが存在し、そのうち175がブラジルに所在する。ブラジルは世界の淡水資源の約12%を保有し、電力の約85%を再生可能エネルギーで賄うなど、データセンターに不可欠な水・電力インフラが極めて充実している。これらの条件は、環境負荷を抑えつつ大規模処理能力を確保したい事業者にとって魅力的な投資環境となっている。
AI 技術の普及に伴い、高性能処理能力への需要が増す中、ブラジル政府はデータセンターを国家戦略インフラとして位置づける姿勢を強めている。現在審議中の AI データセンター法案は、AI に関する包括法案及びサイバーセキュリティ法制の議論の中で、AI 処理を行うデータセンターを国家戦略インフラとして位置づける方向性が示されている。また政府は REDATA(Regime Especial de Tributação para Data Centers)の導入を進めており、再生可能エネルギーの利用、国内需要向け処理能力10%の割当、デジタル開発基金への収益2%の拠出などの要件を満たす事業者に対し、PIS/CofinsやIPIの免除を認める制度を設計している(暫定措置のため今後内容が変更される可能性がある)。この枠組みは、ブラジルのデータセンターをさらに発展させるために重要な施策である。
以下ではデータセンター事業に関わる主要な法規制を整理する。
2.データセンター事業に関する法規制
(1) 一般データ保護法
データセンターの運営は個人情報を含むデジタル情報の保存・処理を伴うため、一般データ保護法(Lei Geral de Proteção de Dados)への遵守は不可欠である。違反時には多額の罰金が科せられる可能性があるため、事業者には、プライバシー・バイ・デザインの採用、データ保護責任者(DPO)の選任、データライフサイクル管理、情報セキュリティ事故への対応計画など、内部ガバナンス体制の整備が求められる。
(2) 通信規制、インターネット法
データセンターが施設間ネットワークを自営する場合や顧客敷地から接続ポイントへの通信を提供する場合、国家電気通信庁(Agência Nacional de Telecomunicações)から対応する免許(SLPやSCM)を取得する必要が生じる可能性がある。国家電気通信庁は、免許の取得の要否については、サービスの提供形態や技術的実態に即してケースバイケースで判断する方針を明確にしている。また、インターネット法(Marco Civil da Internet)の通信継続性、ログ管理、ネットワーク中立性などの規定はデータセンターが通信サービスやアプリケーションの提供に該当する機能を有する場合には適用される。なお、AI データセンターについては、国家戦略と連動して追加的なサイバーセキュリティ基準を課す議論が進んでいる。
(3) 税制
データセンター事業には、PIS(社会統合基金)・Cofins(社会保険融資負担金)、IRPJ(法人所得税)、CSLL(社会負担金)が課され、さらにデータ処理サービスを提供する場合にはISS(サービス税)が適用される。他方、州税である ICMS(商品流通サービス税)は、通常のデータセンター事業には直接適用されないが、通信サービスを提供する場合には課税対象となり得る。もっとも、2026 年以降の税制改革では ICMS・ISS・PIS/Cofins が統合され、IBS(財・サービス税)及び CBS(財サービス負担金)が段階的に導入される予定である。データセンターは設備投資と電力消費が大きく、仕入控除の仕組みや課税地点の変更は事業コストに直結するため、制度移行に伴う影響分析が重要となる。また、REDATA では、上述のとおり、一定の要件を満たす事業者に対し、PIS/Cofins・IPI(工業製品税)の免除が認められる。
(4) 不動産・建設許認可・外国資本規制
データセンター開発には、建設許可、消防許可、環境ライセンス、不動産権利の確認が必要となる。また、外資企業による農地(imóvel rural)や国境から150km以内の地域の土地の取得・賃借には制限があるため、立地選定に際してはこの外資規制を念頭に置く必要がある。
(5) データセンター契約
上述の法的規制のほかに重要となるのがデータセンターに関する契約である。同契約では、可用性、停電時のバックアップ電源確保、冗長化設計、サイバーセキュリティ、障害時の責任分担、サービスレベル(SLA)などを詳細に定める必要がある。
3.おわりに
ブラジルは自然資源、政策支援、AI 需要拡大を背景に、データセンター市場で存在感を強めている。他方で、一般データ保護法、通信免許制度、税制改革、土地規制など多層的な法制度が交錯するため、事業計画には継続的な法制度モニタリングが不可欠である。特に REDATA や AI データセンター法案は審議が進行中であり、規制動向は投資判断に直接影響を及ぼす。事業者には、技術要件と法制度を両面から捉えた慎重な戦略構築が求められる。