※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2026年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. 新法の概要
(1) 新法の目的と規制概要
2026年3月17日、ブラジルにおいて、デジタル環境における児童及び青少年(18歳未満の者)の保護を目的とする包括的な法律(Lei 15.211/2025)が施行された。ブラジルにはもともと ECA(Estatuto da Criança e do Adolescente:児童・青少年憲章)という基本法があるが、これをデジタル空間(SNS、オンラインゲーム等)に拡張させた法律である。そのため、新法はECA Digitalと呼称されている。当該新法は、「児童及び青少年の最善の利益」を守ることを目的としており、以下の規制が新たに規定された。
① ブラジル国内において、児童及び青少年に対するいわゆるガチャ(課金してランダムにアイテムが提供される仕組み)の提供の禁止
② 不適切・違法コンテンツ等へのアクセス禁止
③ 年齢保証メカニズムの導入義務
上記のとおり、新法は児童及び青少年を対象とするゲームを提供する事業者に多くの義務を課しているほか、後述のとおり、当該義務違反について罰則を定めている。特に、全世界的な潮流ではあるものの、児童及び青少年に対するガチャの提供を全面的に禁止した点は注目に値する。
(2) 域外適用の有無
新法における規制や義務は、ブラジル国内の児童及び青少年を対象とする、又はブラジル国内児童及び青少年によるアクセスが見込まれる情報技術に係るすべての製品又はサービスに適用され、当該製品又はサービスの所在地、開発地、製造地、提供地、販売地及び運営地を問わない。
したがって、ブラジル国内に拠点を有しない企業であっても、ブラジル国内ユーザー向けにサービス(オンラインゲーム等)の提供を行っている企業は新法の義務を遵守する必要がある。
2. 児童及び青少年に対するガチャの提供の禁止
新法は、児童及び青少年を対象とする電子ゲーム、又は、当該ゲームの年齢区分に照らして児童及び青少年によるアクセスが見込まれる電子ゲームにおいて、いわゆるガチャを禁止した。
なお、新法の目的上、児童及び青少年によるアクセスが見込まれる場合とは、以下の状況をいう。
① 児童及び青少年による利用可能性及び誘引性が十分に認められる場合
② 児童及び青少年による電子ゲームへのアクセス及び利用が相当程度容易である場合
③ 児童及び青少年のプライバシー、安全又は生物心理社会的発達に対するリスクの程度が重大である場合(特に、デジタル環境においてユーザー間の社会的交流及び大規模な情報共有を可能にすることを目的とする製品又はサービス)
日本のアプリゲームなどで提供されるような一般的なガチャは、新法で禁止される課金してランダムにアイテムが提供される仕組みに該当すると考えられることから、児童及び青少年に対するそのようなサービスの提供は禁止されることとなる。
3. 不適切・違法コンテンツ等へのアクセス禁止
新法は、以下のコンテンツへの児童及び青少年によるアクセスや児童及び青少年がこれらのコンテンツに触れるリスクを軽減する合理的な措置を講じる義務を定めている。
① 性的搾取、虐待
② 身体的暴力、組織的なオンライン上の脅迫及び嫌がらせ
③ 指示や指導を通じて、他の児童及び青少年に対する身体的暴力や心理的嫌がらせ、化学的又は心理的依存を引き起こす物質の使用、自己診断や自己投薬、自傷行為、自殺など、児童及び青少年の身体的又は精神的健康に害を及ぼす行為や行動を誘発、扇動、唆す、又は幇助するもの
④ ギャンブル、固定オッズ賭博、宝くじ、タバコ製品、アルコール飲料、麻薬又は児童及び青少年への販売が禁止されている製品の宣伝広告
⑤ 略奪的、不当若しくは誤解を招く広告行為又は児童及び青少年に経済的損害を与えることが知られているその他の行為
⑥ ポルノコンテンツ
また、事業者は、児童及び青少年に対する権利侵害を通報するための仕組みを提供しなければならず、仮に不適切・違法コンテンツについて被害者等から通知を受けた場合、裁判所の命令なく削除する義務を負うほか、当局への報告義務を負う。
4. 年齢確認
新法は児童及び青少年に年齢に応じた安全なデジタル体験を提供するため、年齢確認の仕組みを重視している。事業者が、不適切・違法コンテンツを提供する場合、アクセスの都度、信頼できる年齢確認措置を講じる必要があり、未成年者による自己申告による年齢確認は認められない。
5. 罰則
新法に違反した場合、グループ会社の直近会計年度におけるブラジル国内売上高の10%を上限とする単純罰金、又は、売上高がない場合には、登録ユーザー1人当たり10レアル以上1,000レアル以下の罰金が課される可能性がある(ただし、1違反あたり5,000万レアルを上限とする)。なお、外国企業の場合、ブラジル国内に所在する支店、子会社又は事業所が、罰金の支払いについて連帯責任を負う。
新法の執行機関は国家データ保護局(ANPD)であり、同局が制裁手続を担う。
以上