1.はじめに
2021年4月20日、インド最高裁判所(Supreme Court of India、以下「最高裁判所」という。)は、インドにおける国際仲裁に関する重要な判決(以下「本判決」という。)を下した。両当事者がインド人又はインド企業である場合にインド国外を仲裁地(Seat of Arbitration)とする仲裁合意は有効かという点については、長年に亘り議論が続いており、一部の裁判所は、無効であるとの判断を下していた。そうした中、最高裁判所は、本判決において、両当事者がインド人又はインド企業の場合であっても、インド国外を仲裁地とする仲裁合意が有効であることを明確に判断し、長年の議論に終止符を打った。
本号では、本判決の概要を紹介するとともに、本判決の実務的な影響について解説する。
2.本判決の内容
(1)事案の概要
本件の当事者は、インド法人であるPASL Wind Solutions Private Limited(以下「PASL」という。)とフランス法人のインド子会社であるGE Power Conversion India Private Limited(以下「GE」という。)である。PASLとGEは、準拠法をインド法、また、紛争解決をスイス・チューリッヒでの仲裁とする和解契約を締結していた。
和解契約に関する紛争が生じ、仲裁が申し立てられ、PASLに対して弁護士費用等の支払を命じる仲裁判断が下された。GEは、仲裁判断に基づき、グジャラート州高等裁判所(以下「高等裁判所」という。)に対して執行を申し立てたところ、仲裁合意の有効性が争われ、高等裁判所は有効性を肯定し、最高裁判所も仲裁合意の有効性を認めた。
(2)判決の内容
PASLは、両当事者がインド企業の場合におけるインド国外を仲裁地とする仲裁合意は、インド契約法(Indian Contract Act, 1872)及びインド仲裁法(Arbitration and Conciliation Act, 1996)に反し、無効であると主張した。これに対し、最高裁判所は、上記仲裁合意は、インド契約法とインド仲裁法のいずれにも反さず、また、当事者自治の観点から、有効であると判断した。
3.最高裁判決の影響とまとめ
インドおける主要な紛争解決手段として、裁判と仲裁があるところ、インドの裁判は、度重なる期日の変更・延期、裁判官不足等が要因となって遅延・長期化が大きな問題となっていた。そのため、以前からインド企業との商事契約の紛争解決手段として仲裁が好まれる傾向にあった。
本判決により、日系企業のインド子会社を含むインド企業同士であっても、インド国外の仲裁地を選択することの有効性が明確に認められたことから、より一層、仲裁を選択する日系企業が増えると考えられる。特に、インド企業と日系企業の現地法人間の契約で多数選択されていたシンガポール国際仲裁センター(SIAC)の重要性が増すことが予想される。
コロナ禍の影響も重なり、紛争に巻き込まれる日系企業も増加しており、本判決は、日系企業の紛争解決に大きな影響をもたらすものと考えられる。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
平野正弥/小川聡/山本鋼
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