1.はじめに
本号では、インド競争委員会(Competition Commission of India、以下「CCI」という。)による判断として注目される近時の事例として、Maruti Suzuki India limited(以下「MSIL」という。)に対して20億ルピーの罰金を課した事例を取り上げる。
2.本事案の概要(2021年8月23日付け命令)
(1)概要
本事案において、CCIは、インドの国内乗用車販売の約5割のシェアを占めているMSILに対して、販売店に対するディスカウント制限ポリシー(Discount Control Policy、以下「DCP」という。)を実施することにより、再販売価格を維持し反競争的な行為を行ったとして、20億ルピー(約30億円)の罰金を課す命令を行った。
(2)CCIの判断
CCIは、MSILが販売店との間で、販売店が顧客に対してMSILの定める以上のディスカウントを提供する場合には、MSILの事前承諾を得るものとし、これに違反した販売店及びその従業員等に対してペナルティを課すというDCPにより、販売店によるディスカウントの提供を制限したと認めた。
また、CCIは、MSILがDCPを実施するため、覆面調査員(Mystery Shopping Agencies)を起用して販売店を装って追加のディスカウントの提供を行っていないかの調査を行い、追加のディスカウントを行った販売店及びその従業員に対して罰金を課していたものであり、これがインドにおける競争に悪影響を与えたものと認定した。
以上のとおり、CCIは、MSILが販売店に対してDCPを適用したことに加えて、覆面調査員を利用してその遵守状況をモニタリングし、違反者に対して罰則を課すとともに供給停止を示すという対応について、インドでの競争に悪影響を与えるものとして、インド競争法に違反するものと認定し、MSILに対して20億ルピーの罰金を課した。
3.コメント
本事案において、CCIは、「合意」の定義は、契約法におけるそれとは異なり、広くすべての契約、アレンジメント、理解を含むものであり、かつ、書面によるものだけではなく、黙示の場合や非公式のものも含むとした。その上で、書面による合意に該当条項がなくとも、実務的な運用が存在すれば、それをもって合意の存在が認められ得るとした。このような考え方を前提として、CCIは、MSILと販売店の間のメールのやりとりを調査し、DCPに関する合意の存在を認定している。
本事案において課された高額な罰金額を考慮し、インドにおいて販売代理店を通じて製品を販売する企業においては、販売代理店に対する販売価格の制限の有無について、書面により締結された契約だけでなく、黙示的な合意や実務運用により、DCPに関する合意があると認定される恐れがないかについても、改めて確認することが望ましい。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
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