1.はじめに
2021年12月8日、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs。以下「企業省」という。)は、2022年6月30日までの間、定時株主総会及び臨時株主総会をビデオ会議方式によって開催できる旨並びに臨時株主総会において緊急の決議事項を郵便投票により決議できる旨の通達(以下「本通達」という。)を発布した。本通達は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた従前の特例措置を延長するものである。
なお、本通達の原文には、以下のリンク先からアクセスすることができる。
General Circular No. 19/2021
https://www.mca.gov.in/bin/dms/getdocument?mds=LzJdfoYrL7zlnxT8HWRv5Q%253D%253D&type=open
General Circular No. 20/2021
https://www.mca.gov.in/bin/dms/getdocument?mds=FNEhC2FrbKO7ANLDeiQ01A%253D%253D&type=open
本号では、本通達に至る経緯を概説したうえで、本通達が日系企業に対して与えうる影響を検討する。
2.本通達に至る経緯
2013年インド会社法(Companies Act, 2013)は、ビデオ会議方式による株主総会を許容していない。
しかしながら、今般の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年4月8日、企業省は、2020年6月30日までに開催される臨時株主総会に限り、ビデオ会議方式による開催及び緊急の決議事項の郵便投票による決議を許容する旨の通達を発布した。また、2020年5月5日、企業省は、2020年の間は定時株主総会もビデオ会議方式によって開催できる旨の通達を発布した。
その後、これらの通達に基づく特例は2021年12月31日まで延長されたが、新型コロナウイルスが依然として収束に向かわないため、本通達によって2022年6月30日まで再延長されるに至った。なお、本通達は、定時株主総会の開催期限を延長するものではない点に留意する必要がある。
3.本通達の影響
以下の点から、本通達は、単に従前の特例措置を延長する以上の意味を有すると考えられる。
第1に、ビデオ会議方式による定時株主総会及び臨時株主総会の開催、並びに臨時株主総会における緊急の決議事項の郵便投票による決議という特例は、当初はあくまで一時的な例外として許容されたものであったが、本通達により、2年以上にわたって許容されるに至っている。その結果、直近の株主総会実務においては原則と例外が逆転しつつあり、上記特例に基づく運用が実務として定着しつつある。
第2に、「インド最新法令情報」2021年7月号(https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2021/12704.html)で紹介したとおり、ビデオ会議方式による取締役会は、当初は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた特例措置に過ぎなかったが、複数回の延長を経て、現在では全面的に解禁されるに至った。この背景には、ビデオ会議方式による取締役会の適切性及び効率性が認められたという事情があり、同様の事情は株主総会にも妥当すると思われる。
これらの点を踏まえると、ビデオ会議方式による定時株主総会及び臨時株主総会の開催、並びに臨時株主総会における緊急の決議事項の郵便投票による決議は、ビデオ会議方式による取締役会と同様に、新型コロナウイルスの収束後も恒常的に許容される可能性がある。その結果、日系企業を含む外国企業がインドの合弁会社の株主総会に参加することがより容易になる可能性があり、インドの合弁会社に参加する日系企業を含む外国企業にとって好ましいものといえる。
その一方で、一般に取締役会よりも株主総会の方が多くの人数が参加する傾向にあるため、現実に会議を開催するのと同じように公正かつ慎重な審議ができるか、通信の安定性や手続の透明性を確保できるかといった点は、取締役会の場合以上に懸念される。そのため、本通達に基づく特例がさらに延長されるか、並びに今後どのような長所及び短所が明らかになるか、引き続き注視する必要があると考えられる。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
平野正弥/奥村文彦
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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