1.はじめに
インド政府は、2022年2月1日、2022年度(2022年4月~2023年3月)の予算案(以下「本予算案」という。)を発表した。インド政府の予算案の一般的な特徴としては、当該年度の各種政策方針が示され、これを受けて、各種の具体的政策が実行されること、国会に各種関連法案が提出されることなどが挙げられる。そのため、毎年、経済専門家のみならず、ビジネスパーソン、法律家に加え、インドの一般国民全体からも大きく注目される。本予算案は、4月上旬まで開催される予定の予算国会に提出され、目下審議中である。
本号では、本予算案におけるインド政府の基本姿勢を解説し、本予算案にて示された各種政策方針のうち、特に日系企業への影響が大きいと思われる点を指摘する。
2.本予算案におけるインド政府の基本姿勢
2021年4月から6月にかけてのCOVID-19のデルタ株のパンデミック後、インド経済は急激な回復を見せており、オミクロン株による影響を踏まえても、今年の実質GDP成長率は9.2%と推定されている。このような見通しを受けて、本予算案においても、経済回復が優先され、歳出総額は前年度から13.3%増加している。特に、公共インフラ投資を含む資本支出は35.4%増加しており、交通、IT、電気通信、都市開発等、インフラ整備に対して、多額の支出が予定されている。
3.本予算案に示された政策方針の概要
(1)IT・デジタル関連インフラの整備
交通網等の通常のインフラ整備にも力が注がれているが、それに加えて、IT・デジタル関係のインフラ整備も積極的に進められる。すなわち、ブロックチェーン(分散型台帳)の技術を活用し、中央銀行であるインド準備銀行から、デジタル通貨「デジタルルピー」が発行される予定である。また、第5世代移動通信システム(5G)サービス向けの周波数帯の入札が2022年度中に実施され、民間携帯会社による5Gサービスが始動する見通しである。
(2)仮想デジタル資産取引への課税
仮想デジタル資産(Virtual Digital Asset:VDA)への人気が高まり、取引量が拡大していることを受けて、仮想デジタル資産の取引に対し、新たに30%の税率で課税がなされることとなった。なお、取得費用(当該仮想デジタル資産の取得に要した費用。定義は後日公表。)以外の費用控除は認められず、また、取引から生じる損失の繰越しや他の取引からの収入との相殺も認められていない。当該課税ルールは2022年4月1日から適用される。
(3)民間投資の増強
本予算案においては、民間投資の増強が重要な目標の一つとされ、これを意識した政策が提示されている。例えば、新設の国内製造企業に対する15%の優遇法人税率について、製造又は生産の開始期限が2023年3月31日から1年間延長されている。また、スタートアップ企業を設立するインセンティブを与えるため、一定の要件を満たしたスタートアップ企業について、2022年3月31日までに設立されれば、100%の所得控除を3年間受けられることとなっていたが、当該設立期限についても1年間延長されている。
(4)外国企業からの配当金に対する優遇税率の廃止
インド企業が外国企業から受け取る配当金に対して15%の優遇税率が課されていたが、当該優遇税率は2022年度から廃止されることとなった。
(5)税務当局による上訴の抑制
税務当局による繰り返しの不服申立てを抑制するため、一定の法的解釈に関する問題が管轄高等裁判所又は最高裁判所で係争中である場合、税務当局は、管轄高等裁判所又は最高裁判所に対して、それと同一の法的解釈に関する問題(Identical Question of Law)を理由とする新たな不服申立ての提起を行わないこととなった。ただし、「法律」(Law)と「事実」(Fact)との境界線は必ずしも明確でなく、どのように運用がなされるかは依然として不透明である。
4.コメント
外国企業にとって、インド政府がCOVID-19の世界的流行という昨今の状況下においても経済優先、規制緩和の路線を維持するかは、重大な関心事といえる。この点、本予算案では、税制上の優遇等、外国からインド国内への投資を促進することを目的とした各種方針が盛り込まれているから、外国企業にとって好ましい方向がある程度維持されており、インドは引き続き魅力的な投資先であるといえよう。
一方、既存の税制の抜け穴を埋め、インドの税務基盤を強化することも意識されており、この点で、仮想デジタル資産取引への課税は、注目事項の一つとなっている。本予算案に示された各種改正案の行方には、今後も注目する必要がある。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
茂木信太郎/小川聡/本間洵
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