はじめに
2024年2月21日、インド政府は、宇宙分野における外国直接投資規制の改正(以下「本改正」という。)を発表した。
インドでは、2023年8月に、インド宇宙開発機関(ISRO, Indian Space Research Organisation)による月面探査機チャンドラヤーン3号の月面着陸が成功し、また、同年9月には太陽観測衛星Aditya-L1の打ち上げにも成功するなど、宇宙分野への進出が国内にとどまらず、世界的な注目を集めるに至っている。
本号では、インドの宇宙関連規制を概説したうえで、本改正の内容を解説する。
宇宙関連規制及び従前の外国直接投資規制
インドの宇宙開発は、1972年に設立されたインド宇宙庁(Department of Space)及びその下位組織であるインド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization)等の機関により、長年政府が主体となって進められてきた。しかしながら、民間部門の参入が不可欠であるとの認識のもと、2020年にインド国立宇宙推進認可センター(IN-SPACe, Indian National Space Promotion & Authorisation Centre)が設立され、宇宙産業に従事する民間企業に対する支援を行う体制が整った。2023年4月には2023年インド宇宙政策(Indian Space Policy 2023)が発表され、宇宙産業のエコシステムの構築を目的として、民間部門の宇宙産業への参入の拡大、官民一体となった規制の構築及び研究開発の促進に関する様々な政策が掲げられている。
インドにおいて、外国直接投資、すなわち非居住事業体又は非居住者がインド内国会社の資本に対する投資を行う場合、対象事業分野ごとに、外資比率の上限や、必要な手続が定められている。具体的には、政府からの事前承認を必要とせず、自動的に投資が承認され、当局への事後的な報告で足りる自動承認ルートと、事前に政府から個別の承認を取得する必要がある政府承認ルートの2種類がある。
宇宙分野については、従前、衛星の設立運用事業(Satellites-establishment and operation)のみ、政府承認ルートで100%までの参入が認められるにすぎなかった。
本改正の内容
本改正では、宇宙関連事業を、衛星関連事業打ち上げ機関連事業、衛星用部品関連事業という3つに大別し、以下のように、それぞれの外国直接投資規制を定めている。
事業分野 |
出資上限 |
自動承認/政府承認ルート |
衛星関連事業
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100% |
74%以下:自動承認ルート |
打ち上げ機関連事業
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100% |
49%以下:自動承認ルート |
衛星用部品関連事業 |
100% |
100%以下:自動承認ルート |
(1) 衛星関連事業
本事業は、出資比率が74%以下の場合は自動承認ルート、74%超の場合は政府承認ルートでの外国直接投資が認められ、3つの事業分野により構成されている。
1つ目は、衛星の製造及び運用 (Satellites- Manufacturing & Operation)に関する事業である。2つ目は、衛星データ製品(Satellite Data Products)に関する事業であり、地球観測/リモートセンシング衛星データ及びデータ製品(APIを含む)の受信、生成又は配信を指す。
3つ目は、衛星に関連する地上セグメント(Ground Segment)及びユーザーセグメント(User Segment)事業である。地上セグメントは、地球観測データ受信局、通信中継機、地上通信センター、衛星遠隔測定機、追跡・コマンド(TTC)局、衛星管制センター(SCC)等を含む衛星送受信の地上局の供給をさし、ユーザーセグメントは、地上セグメント以外の衛星と交信するためのユーザー用端末の供給を指す。
(2) 打ち上げ機関連事業
本事業は、出資比率が49%以下の場合は自動承認ルート、49%超の場合は政府承認ルートでの外国直接投資が認められ、2つの分野により構成されている。
1つ目は、打ち上げ機及び関連システム又はサブシステム(Launch Vehicles and Associated Systems or Subsystems)である。
2つ目は、宇宙船の打ち上げと受け入れのための宇宙港の創設(Creation of Spaceports for launching and receiving Spacecraft)である。
(3) 衛星用部品関連事業
衛星、地上セグメント及びユーザーセグメントの部品及びシステム/サブシステムの製造(Manufacturing of Components and System / Subsystems for Satellites ground segment and user segment)に関する事業は、出資比率が100%まで自動承認ルートによる外国直接投資が認められている。
まとめ
本改正により、近時注目を浴びているインドの宇宙産業に対して、日系企業を含む様々な外国企業によるインド投資が大きく増加することが期待される。もっとも、本改正は、2024年2月に発表されたばかりであるため、本改正が実際にどのように運用されていくのか、また、今後個別のガイドライン等の規制が出されるのかについては不透明なところは多く、今後の動向を注視するべきである。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/小川聡/山田怜央
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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