1.はじめに
2026年3月15日、インドと陸上国境を接する国からの投資規制を定めた従来のプレスノート3号(2020年4月17日付。以下「PN3」という。)が再検討され、実務的な緩和を行う内容の「プレスノート2号(2026年シリーズ)」(以下「本プレスノート」という。)が公表された。(https://www.dpiit.gov.in/static/uploads/2026/03/b9da5830b052c2f2d788593e97d07c63.pdf)。
2020年に導入されたPN3は、インドと陸上国境を接する国(中国、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマー、ネパール、ブータン、アフガニスタン)に所在する主体、またはそれらの国の国民・主体を実質的支配者(Beneficial Owner)となる主体による投資について、出資比率を問わず政府承認を必要とする枠組みを導入した。この厳格な運用は、中国資本が微量に含まれるグローバル・ファンド等を経由して投資を行う日本企業にとっても、審査の長期化や実行上の不確実性をもたらす大きな障壁となってきた。
本プレスノートは、投資の迅速性を確保するという意味で、日本企業を含む外国投資家にとって意義深い改正となり得る。
本号では、本プレスノートの要点と、予見される日本企業への実務的な影響を解説する。
なお、PN3の導入時の詳細については、以下のインド最新法令情報も参照されたい。
■インド最新法令情報(2020年5月号)外国直接投資政策(FDIポリシー)の改正‐<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2020/3025.html>
2.本プレスノートによる改正の主要ポイント
(1)PML規則に基づく「10%」の閾値導入(パラ3.1.1(c))
FDI政策上、インドと陸上国境を接する国の主体等が、インドへの投資における「実質的支配者」に該当する場合、政府承認が必要となる。
この点、本プレスノートは、PN3の適用対象となる「実質的支配者(Beneficial Owner)」の定義について、2005年資金洗浄防止規則(PML規則)第9条(3)の基準に準拠することを明文化した。
なお、現状のPML規則第9条(3)では、法人主体の場合、10%を超える持分を有する者等を実質的支配者と定めている。
(2)「支配権(Control)」による補完的規制(パラ3.1.1(c) ただし書き(ii)(iii))
持分比率が10%以下であっても、以下のいずれかに該当する場合は、実質的支配権がインドと陸上国境を接する国に帰属するものと解釈される(パラ3.1.1(c)ただし書き)。
- 投資主体に対して「支配権(Control)」を行使できる権利を有する場合
- インドの被投資企業(Investee entity)に対して、いかなる方法であれ「最終的な実効的支配(Ultimate effective control)」を行使できる権利を有する場合
例えば、株主間契約等により、取締役派遣権や重要事項への拒否権(Veto Rights)等を通じた支配権を有する場合には、引き続き政府の承認が必要となる。
(3)陸上国境を接する投資家からの投資規制の整理(パラ3.1.1(a))
インドへの対内直接投資(FDI)において、非居住者は原則としてFDI政策に従って投資を行うが、インドと陸上国境を接する国の主体・市民、または投資の「実質的支配者(Beneficial Owner)」が当該国の市民等である場合、当該投資は一律に政府の承認を要することが義務付けられている(パラ3.1.1(a))。
従前、この「実質的支配者」については明確な定義や閾値(%)が示されていなかったため、実務上は陸上国境を接する国の資本が極めて微量であっても政府承認が必要とされ、グローバル・ファンド等を経由する日本企業にとって投資の遅延や不確実性をもたらす要因となっていた。
上記(1)のとおり実質的支配者の定義が明文化されたことで、陸上国境を接する国の主体による実質的な持分が10%以下であり、かつ当該主体が投資先に対して「支配権(Control)」を有しない場合(上記(2)で説明したとおりである。)には、原則として政府承認を要しない「自動認可ルート(Automatic Route)」での投資が可能となるケースが増えると考えられる。
以上に加え、本プレスノートは、ファンド等を通じた間接投資における実質的支配者の判定枠組みに影響を及ぼすものと考えられる。特に、日本企業が海外のVC/PEファンドを通じてインドに投資する場面では、少数出資者の存在による承認要否の不確実性の一定の解消が期待される。
(4)報告義務の新設(パラ3.1.1(d))
本プレスノートにより、政府承認を必要としない「自動認可」での投資であっても、陸上国境を接する国の市民または主体が直接・間接に所有権を有している場合には、インド政府商務省産業国内取引促進局(DPIIT)が定める標準作業手順書(SOP)に従った報告が義務付けられた。従前は存在しなかった義務であり、事後的なモニタリングが強化されたことを意味する。
(5)製造業における審査の迅速化
本プレスノートの公表に先立つ閣議決定で示された方針において(https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2237806®=3&lang=2)、特定の優先製造分野(電子部品等)については、政府承認が必要な案件であっても、申請から60日以内の処理を目標とする方針が示されている。
3.総括と今後の対応
本件プレスノートによる改正が、日本企業、日本の投資家に与える最大のインパクトは、グローバル・ファンドを通じた投資の正常化である。従前は日本の事業会社や金融機関が参加する欧米系VC/PEファンドにわずかな中国系LPが含まれるだけで、案件に関する審査を要することになり、結果として投資が遅延する事象が発生していたが、今後は10%の持分という基準の明確化により、こうした間接的な制約が大幅に緩和される。また、実質的支配者の基準について、資金洗浄防止法(PMLA)の基準と統合されたことで、「誰を実質的支配者とみなすべきか」という点についての予見可能性が高まった。
ただし、解釈について曖昧な点が残った部分はあり、「支配権(Control)」がどのような場合に認められるのか、パラ3.1.1(d)に基づく新設の報告義務の具体的な運用(SOPの内容)については、現地の実務慣行を引き続き注視する必要がある。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/小川 聡/山田怜央
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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