欧州における系統用蓄電池事業(Grid-Scale Battery Energy Storage Business)
欧州では、再生可能エネルギー(風力・太陽光等)の比率を高め、気候中立(クライメート・ニュートラル)を目指す中で、供給と需要の変動を吸収する「柔軟性」が必須となっています。蓄電事業は、まさにその柔軟性を提供する技術として、今後の電力系統の基盤インフラに組み込まれるべき存在と認識されています。それを受け、EU は単なる発電(再エネ発電)や需要側(デマンドレスポンス)だけでなく、「蓄電池」を系統と電力市場の一要素として明確に位置づけ直す必要に迫られました(※1)。
(※1)Energy storage - Research and innovation - European Commission
(1) クリーンエネルギーパッケージ(Clean Energy Package)の採択
この背景のもとで、2018年から2019年にかけてクリーンエネルギーパッケージ(Clean Energy Package)が導入され、以下のDirectiveとRegulationが採択されました。
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法令番号 |
法令名 |
主な内容 |
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Directive (EU) 2018/844 |
Energy Performance of Buildings Directive (EPBD 改正) 建物エネルギーパフォーマンス指令 |
建物の省エネ基準、新築・改修時の性能証明書義務化 |
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Regulation (EU) 2018/1999 |
Governance of the Energy Unionガバナンス規則 |
国家エネルギー・気候計画(NECP)の策定義務、進捗報告 |
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Directive (EU) 2018/2001 |
Renewable Energy Directive II (RED II) 再生可能エネルギー指令(RED II) |
2030年までに再生可能エネルギー比率を32%以上に設定、再生可能エネルギーの促進 |
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Directive (EU) 2018/2002 |
Energy Efficiency Directive (EED 改正) エネルギー効率指令 |
エネルギー効率目標の設定(2030年までに32.5%改善) |
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Regulation (EU) 2019/941 |
Risk-preparedness Regulation 電力セクターリスク準備規則 |
加盟国のリスク評価・緊急時対応計画、広域協力ルール |
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Regulation (EU) 2019/942 |
ACER Regulationエネルギー規制当局間協力庁(ACER)規則 |
ACERの権限強化、電力市場・ネットワークコード監督、越境規制調整 |
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Regulation (EU) 2019/943 |
Electricity Market Regulation電力市場規則 |
電力市場の設計と運用ルール、再生可能エネルギー統合、需給調整 |
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Directive (EU) 2019/944 |
Electricity Market Directive電力市場指令 |
消費者保護、需要応答、スマートメーター整備 |
(a) EU域内電力市場の共通ルールに関する指令(Directive (EU) 2019/944(※2))
Directive 2019/944 は、EU 加盟国に対して、各国の電力市場における規制枠組みを整備するよう義務づける指令です。これにより、蓄電及び放電といった機能を持つ蓄電池事業者にも、市場参加の権利が保障されました。つまり、蓄電池は単なる「電力の一時的貯蔵手段」としてではなく、「電力市場及び系統運用のための主体 (resource provider)」と見なされるようになっています。これによって、大型蓄電池や分散型/集中型の蓄電池を問わず、電力市場への参入が制度的に可能となり、再エネの不確実性や需給変動の調整機能としての地位が認められています。
(※2)Directive - 2019/944 - EN - EUR-Lex
中でも特徴的なのは、Directive (EU) 2019/944 第36条及び第54条において、送配電事業者(TSO及びDSO)が蓄電設備を開発・保有してはならないと規定されている点となります。この規定の趣旨は、送配電事業者がネットワークの公平かつ効率的な運用を保証するための中立的な立場を維持することにあると考えられます。
(b) EU電力市場規則(Regulation (EU) 2019/943(※3))
Regulation (EU) 2019/943 は、EU内部の電力市場の統治を目的とした規則であり、電力取引、需給管理、系統運用等に関する基本的枠組みを定めています。その主要目的は、市場効率性の向上、柔軟性の確保、再生可能エネルギーの促進、供給の安全性確保、競争の維持にあります。規則(Regulation)であるため、EU加盟国の国内法において制定されることなく、EU加盟国に対して直接適用されます。
第1条、第6条等においては、エネルギー貯蔵(energy storage)を含む全てのリソース供給者及び電力顧客に対して、「差別のない市場アクセス(non-discriminatory market access)」を保障することが明記されています。これにより、蓄電池その他の柔軟な電源が、公平かつ制度的に市場に参加できる基盤が整えられています。
Regulation 2019/943は、単一国の電力市場にとどまらず、EU全体の系統安定化や市場調整力としての蓄電池の役割を確立するための制度的基盤を提供するものです。蓄電池は単なる国内リソースにとどまらず、EU全域で柔軟性を供給する重要な資産として機能できる設計となっています。
(※3)Regulation - 2019/943 - EN - EUR-Lex
(2) EUバッテリー規則(Regulation (EU) 2023/1542(※4))
一方でEUバッテリー規則(Regulation (EU) 2023/1542)が、2023年の発効以降、数年をかけて段階的に各義務が施行される仕組みとなっており、2025年時点では産業用蓄電池(系統用蓄電池を含みます。)に関する主要要件の導入が進みつつあります。同規則は、炭素フットプリントの算定・情報開示、性能・安全基準の遵守、リサイクル材や回収に関する義務、さらにサプライチェーンに対するデューデリジェンスを求めるもので、これらが順次適用されていきます。また、2027 年以降に導入されるデジタルバッテリーパスポートにより、産業用蓄電池のライフサイクル情報の透明性が高まり、EU域内における調達及びコンプライアンス要件が段階的に強化されていく枠組みとなっています。
(※4)Regulation - 2023/1542 - EN - EUR-Lex
こうした中、オランダと英国における系統用蓄電池事業に着目して、各国の法的規制について、以下概観を見ていくこととしたいと思います。
オランダにおける大型・中規模蓄電池の系統接続ルールと導入状況
(1) 再エネ拡大と系統の柔軟性需要
オランダでは、洋上風力・陸上風力及び太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの導入が急速に進展しており、電源構成に占める変動型電源の比率が年々高まっています。こうした発電量の変動や同時性の欠如は、需給バランス調整や系統の安定運用に新たな負荷を与えることから、電力系統側では、負荷変動を吸収し周波数・電圧を維持するための「柔軟性(フレキシビリティ)」の確保が極めて重要な課題となっています。
この柔軟性を提供する手段として、蓄電池は、出力の即応性・双方向性・高速応答性に優れることから、再エネ大量導入後の系統安定化に不可欠なリソースとして位置付けられていると考えられます。
https://www.energystoragenl.nl/en/2025/10/08/marktonderzoek-energieopslag-2025-nederland-moet-versnellen-om-kansen-niet-te-missen/
(2) 市場規模の成長予測
Energy Storage NL の市場調査(※5)によれば、オランダ国内の大型蓄電所の合計導入容量は、2024年時点で約 1 GWh に達しました。さらに、2025年には 約 2.1 GWh への拡大が見込まれており、加えて 15 GWh 超 に相当する多数の蓄電池プロジェクトが “on-shelf”(申請済み又は計画中)状態にあると報告されています。但し、これらの全てが実際に稼働に至るかどうかについては、依然として不確実性が高いとされています。
(※5)Energy Storage NL
(3) 系統接続ルール
① 代替輸送権(ATR: Alternative Transport Rights)の導入
オランダ消費者・市場庁(ACM: Autoriteit Consument & Markt)は、深刻化する系統混雑の緩和と、既存送配電網に残る余剰容量の有効活用を目的として、代替輸送権(ATR: Alternative Transport Rights)の制度化を進めています。ATR は、従来の ファーム型 の系統接続とは異なり、時間条件付で輸送容量を付与することで、送配電網利用の柔軟性を高める仕組みです。
ACM が導入した主な類型は以下の二つです。
(a) 時間数限定型輸送権(TDTR: tijdsduurgebonden transportrecht)
- 契約容量が年間の少なくとも 85% の時間で利用可能であることが要件。
- 残り最大 15% の時間については、系統運営者(TSO/DSO)が必要に応じて供給を制限(遮断)できる。
- 工業需要、蓄電池等多様な需要家の活用を想定した制度。
- TDTR を選択する接続者には、輸送料率の割引等経済的インセンティブが付与される。
(b) 時間帯限定型輸送権(TBTR: tijdsblokgebonden transportrecht/通称 “blokstroom”)
- 特定の時間ブロック、例として夜間帯等にシステム利用を限定して輸送容量を保証する仕組み。
- 主に配電系統(DSO)での導入を想定しており、需要の時間分散や夜間の余剰容量活用を促す役割を担う。
これらの ATR によって、オランダの送配電網ではファーム型の容量が確保できない場合でも、時間条件付きで接続が可能となるケースが増えつつあり、特に蓄電池のように運転柔軟性の高いリソースにとっては、有効な接続オプションとして注目されています。
② 技術的要件(順潮流側の接続に関わる事項)
大・中規模蓄電池が放電(順潮流)を行う場合、系統の安全性と運用性確保のために、TDTR契約者は遠隔制御(RTI: Realtime Interface)を備えることの他、混雑時制御契約(CBC: Capaciteitsbeperkend contract)及びリディスパッチ入札義務契約(redispatch biedplicht contract)を締結する必要があります。これにより、TDTR 等のノンファーム型の系統を利用する事業者であっても、系統からの制御要求に即時応答できる技術能力が求められます。
③ 運用ルール(通知時限・混雑対応)
TDTR の運用に関しては、出力抑制の可否やタイミングを巡る不確実性を最小化するため、TSO/DSO による通知ルールが明確に定められています。具体的には、系統運営者が TDTR 契約者に対して出力制御(curtailment)を行う必要が生じた場合、前日 8時30分 までに出力抑制の有無及び適用時間帯を通知することが義務付けられています。これにより、蓄電池事業者を含む事業者は、翌日の運用計画や市場ポジションを事前に調整することが可能となります。
④ 料金・インセンティブ
TDTR や TBTR といったノンファーム型である代替輸送権は、従来のファーム型接続に比べ、大幅に低い輸送料が適用されるよう制度設計されています。オランダの電力・ガスネットワーク事業者団体である Netbeheer Nederland及び加盟 TSO/DSO の試算によれば、TDTR を選択した場合、輸送料が概ね数十%、事例ベースでは約 50% 程度削減され得ることが示されています。
この料金低減効果は、蓄電池事業者がノンファーム型の接続を選択する大きな経済的誘因となっています。
もっとも、TDTR・TBTR は「ノンファーム型でありながらも一定の利用可能時間を保証する」ハイブリッド型の仕組みであるため、確実に放電できる時間や出力上限は、契約条件及びネットワーク事業者からの前日通知に依存する点に留意が必要です。したがって、事業者は割引によるコスト優位性と、ノンファーム型に伴う出力制御リスクを総合的に評価し、収益モデルや市場参加戦略に適切に反映させる必要があります。
(4) 導入状況
① TDTR の実運用と容量の開放
オランダの送電系統運用者(TSO)である TenneT は、TDTR を活用してオフピーク時間帯の未利用ネット容量を市場に開放する取り組みを強化しています。2025 年 4 月 7 日、TenneT は高圧・特別高圧系統において、最大 9.1 GW のオフピーク容量を TDTR 向けに確保可能であると公表しました。
同日、業界団体 Netbeheer Nederland もこの分析結果を紹介し、特に大規模蓄電池等がこの容量を活用し得る点を強調しています。
さらに、2025 年 11 月 7 日には、TenneT はこの 9.1 GW のうち約半分が既に割当済みであると発表し、制度導入後の急速な利用拡大を示しました。
あわせて TenneT は、接続申請の健全性を高めるため、いわゆる “opschonen”(接続待ち整理・浄化―実現可能性の低い系統接続申請を除外・更新し、実際に建設される見込みの高い案件だけを残す作業) を進めていることも明らかにしています。具体的には、
- 143 件 の案件について、
- 合計 37 GW(需要側)/76 GW(供給側)
の申請を整理したと報告しており、この取組みによりより現実的な需要見通しと容量配分が可能になったと説明しています。
もっとも、TenneT が示す未割当の残余容量に対しては、70 GWを超える申請(主に蓄電池プロジェクト)が依然として残っており、供給可能容量を大幅に上回る状況が続いています。そのため、TDTR を含む代替的接続枠の競争は今後も高い水準で継続するものと見込まれます。
② 地域差と提供時期
TBTR(時間ブロック型輸送権)は、主に配電系統運用者(DSO: Distribution System Operator―Enexis、Liander、Stedin 等) が管理する中低圧ネットワークでの適用を想定した制度です。
TBTR は地域ごとに導入時期、利用可能な時間ブロック、提供容量等の設計が異なるため、事業者は対象地域ごとに個別条件を確認する必要があります。
また、Netbeheer Nederland の Position Paper では、TBTR や TDTR を含むこれらの代替輸送権を段階的に導入する方針が示されており、各 DSO が地域の混雑状況や系統増強計画に応じて適用を進める方針が示されております。
③ 制度成熟度と技術的課題
- 「完全可変型(fully variable / rest-capacity)」のような、最も柔軟性の高いノンファーム型方式については、技術的・運用的な理由から段階的な導入に留まっています。特に、リアルタイム制御を可能にする RTI(Realtime Interface)等の IT・通信インフラの普及、及び系統運用ルールの整備が引き続き課題となっています。
- これらの制度は導入から日が浅く、2024年の ACM によるコード決定を経て実装段階へ移行する中で、出力制御通知プロセス、日次の割当計算、課金ロジックといった運用細目が順次アップデートされています。そのため、最新のコードや DSO/TSO の運用ガイドラインを継続的に確認することが不可欠です。
④ 事業者視点のインパクト
- 経済面では、TDTR/TBTR の割引によって接続時の初期費用や継続的な輸送料が低下する可能性が高く、特に蓄電池事業者にとっては接続の早期化と総コスト低減というメリットが大きいと考えられます。
- 一方で、出力抑制(最大で年間15% 等)による稼働・収益リスクを事業計画に織り込む必要があり、マーケット参加戦略(ディスパッチ計画、サービス参加の優先順位)を見直す必要性があります。
英国における大型・中規模蓄電池の系統接続ルール
(1) 系統接続ルール
① 接続改革の枠組み(Connections Action Plan と TMO4+)
英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省、DESNZ(Department for Energy Security and Net Zero)とガス・電力市場局、Ofgem (The Office of Gas and Electricity Markets は 2023 年に「Connections Action Plan」を公表し、接続プロセス全体の迅速化を図る方針を示しました。Ofgem はその後の具体的コード改正・手続改定(TMO4+ 等)を審査・承認し、「先着順」から「準備完了(ready)・必要性(needed)」に基づく優先付けへと移行しています(Gate1/Gate2 等の導入)。この改革は、いわゆる「ゾンビプロジェクト」の排除や、実行確度の高いプロジェクトへの接続容量の早期割当を目的としています。
② 柔軟接続/ノンファーム接続の実務類型
- 配電系(DNO)側では、UK Power Networks、SP Energy Networks、SSEN、WPD 等がcurtailable / flexible / profiled / timed connections等の柔軟接続商品を整備しています。これらは、系統増強工事を待たずに接続できる代わりに、系統制約時に出力抑制され得るノンファーム型の接続です。運用面では、ANM(Active Network Management)や DERMS/ADMS による遠隔制御が活用され、必要に応じてLIFO(Last-In First-Out)方式等の優先順位に基づく段階的な出力抑制が行われます。
- 送電(TSO)側でも、国レベルの接続プロセス改革(NESO が管理する Connections Reform)を通じて、英国全土の系統計画・接続プロセスを管理する NESO(National Energy System Operator)が進めるConnections Reform(接続改革)により、インタリム接続(暫定接続)や柔軟接続の導入を通じて、プロジェクトの早期稼働が可能になる仕組みが整備されつつあります。NESO が公表する接続改革の設計文書では、接続申請に必要なエビデンス(許認可、土地確保、資金手当等)の提出要件や、Gate方式(Gate 1/Gate 2 等)の運用ルールが規定されており、接続待ちだけではなく、案件の「実行性」評価を厳格化する方向に進んでいます。
③ 技術要件(順潮流側)
英国においても蓄電池は発電機器としてのグリッドコード適合(G99 相当の接続基準、周波数・電圧応答、低域故障時の耐量等)や、遠隔遮断・リアルタイム制御の能力が求められます。また、DNO が提供する柔軟接続(flexible / curtailable connections 等)では、系統制約時の出力抑制の優先順位(LIFO 等)や、出力抑制に伴う商業条件(補償の有無、抑制幅のルール等)が契約で明確に定められています。これにより、事業者は抑制リスクを事前に把握し、収益計画へ適切に織り込むことが可能となります。
④ 商業ルール(補償・料金)
Ofgem の接続改革の枠組みにおいては、柔軟接続(ノンファーム接続)に対する出力抑制分について、自動的な金銭補償を行わないことが原則とされています。
これは、柔軟接続が系統増強工事を待たずに早期接続できる代わりに、系統制約時の抑制リスクを事業者が受け入れるという制度設計に基づくものです。
もっとも、DNO によっては、
- 柔軟性市場(flexibility markets)への参加
- 個別の柔軟性サービス契約(flexibility services contracts)
を通じて、出力抑制に応じた報酬又は補償を得られる仕組みを導入している場合があります。
加えて、英国では接続料金体系の見直し(接続料及びネットワーク利用料の構造改革)が進められており、ノンファーム接続とファーム接続との費用負担のバランスや、ネットワーク料金の設計が再調整されつつあります。
(2) 導入状況
① 接続待ち・改革の成果
英国では接続パイプラインが非常に大きく、従来のプロセスでは長期の接続待ちが常態化していました。政府・Ofgem の Connections Action Plan、NESO の Connections Reform、TMO4+ の実行は、接続の迅速化・「ゾンビ案件」の削減及び実行能力のある案件優先化を目指しており、2024年から2025 年にかけて接続スケジュールの前倒しや一部案件の早期稼働が報告されています。
② DNO の実装例
- UK Power Networks(UKPN):ANM を用いた curtailable / flexible connections を早くから展開し、多数の分散型蓄電池・再エネ案件を受け入れています。UKPN の公開データでは、柔軟接続やプロファイル接続等により系統接続の加速とコスト低減が実現されていることが示されています。
- SP Energy Networks 等:Long-Term Development Statement や DSO 戦略で蓄電池の系統接続を支援する方針を打ち出しており、柔軟接続と市場ベースの柔軟性での安定運用を図っています。
③ 課題と留意点
- 出力抑制リスク及び収益性:柔軟接続は接続を早める一方で系統制約時の出力抑制リスクを伴い、しかも補償が限定的である点から事業収益モデルに影響を及ぼし得るものと考えられます。特に、マーケットでの入札・調整サービスを収益源とする蓄電池事業は、抑制による機会損失リスクを評価する必要があります。
- 技術・プロセスの複雑性:ANM/DERMS 等の技術的実装や DSO・TSO 間の調整、接続ポータル・エビデンス提出等実務負担は依然大きく、NESO・DNO 義務を満たすための内部プロセス整備が求められます。
- 制度成熟の継続的改善:TMO4+ を含む一連の改革は進行中であり、今後の改正(料金計算ロジック、接続申請証拠要件、QoS(品質・サービス水準)等)に注視が必要となります。
おわりに
日本においても系統混雑が深刻化しており、早期系統連系対策等が導入されています。具体的には、従来は蓄電池の系統接続に当たり系統増強工事が必要でしたが、2025年4月1日から蓄電池施設について特定時間帯の充電制限に同意することを同意する代わりに系統増強工事なくして、早期接続を認める制度が適用されております。
また、現在、日本においては英国と類似した制度改革として、接続検討申込みの受付及び審査の段階で、事業確度の低い申込みによる障害を防止するための仕組みが提案されています。具体的には、以下のような案が示されています。なお、下記のブログ記事にて関連する検討内容を整理していますので、併せてご参照いただけると幸いです。
系統⽤蓄電池の迅速な系統連系対策の状況について | ブログ | Our Eyes | TMI総合法律事務所
- 接続検討申込時の根拠資料提出の義務化
土地調査結果、登記簿謄本、契約書等の書類提出を求める案です。これにより、事業の実施が事実上困難と思われる土地を対象とした申込み等、事業確度の低い案件を排除・縮減することを目指しています。 - 一事業者あたりの同時検討件数の上限設定
一部事業者が大量の申込みを提出し、系統容量を「場所取り」的に押さえてしまう状況が審査の障害となることを防ぐため、一度に検討できる件数に上限を設ける案です。
上記の通り、オランダ及び英国でも、ノンファーム型の接続メニューが導入されており、両国では 2024年から2025 年にかけて接続制度が大きく変化しています。オランダでは TDTR や TBTR のような部分保証型のノンファーム型が整備され、英国では DNO による flexible / curtailable connections や、TSO/DSO による接続待ちの整理(いわゆるゾンビ案件の排除)が進んでいます。
これらの取組みは、オランダ及び英国で蓄電池事業に参画される事業者の方々に重要であることはもちろん、日本の蓄電池事業におけるノンファーム型接続を検討する上でも、早期接続、出力制御とのバランス、事業確度の確保といった観点から、示唆に富む内容となっています。