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系統⽤蓄電池の迅速な系統連系対策の状況について
2025.11.10
近年、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、蓄電池の系統連系ニーズが急速に高まっています。こうした状況を踏まえ、資源エネルギー庁では、系統増強を行わずに特定の時間帯で充電制限を行うことを条件として接続を認める「早期連系追加対策」など、迅速な系統連系を可能とする仕組みの導入を進めています。
本稿では、特に系統用蓄電池の系統連系手続に焦点を当て、これらの新たな連系対策及び接続ルール見直しの動向並びに事業者が実務上留意すべき点についてご説明致します。
系統⽤蓄電池の迅速な系統連系対策の状況について
(1) 系統用蓄電池の迅速な系統連系対策の現状と背景
資源エネルギー庁資料によれば、系統用蓄電池の接続検討等の受付状況として、接続検討は約14,300万kW(2024年6月末比で約2.4倍)、契約申込みは約1,800万kW (2024年6月末比で約4.0倍)となっていることが報告されており、従来と比較して飛躍的に増加しております。その結果、系統アクセス手続の遅延が深刻化し、迅速な系統連系の確保が喫緊の課題となっています。
このような状況を踏まえ、資源エネルギー庁において、接続プロセスにおける規律強化及び接続ルールの見直しが検討されています(※1)。
(※1)資源エネルギー庁「系統⽤蓄電池の迅速な系統連系に向けて」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/004_04_00.pdf
(2) 系統用蓄電池の接続申込急増の背景等
このような申込量の急増が背景にあり、系統アクセス手続・系統連系までの時間が延びる状況が生じています。また、申込が「場所取り(空押さえ)」的に行われているとの指摘もあり、実際には蓄電池を設置できない場所で接続検討(公園などの公共用地や住居以外では建設が認められない土地、既に別の建物が建てられている土地等)、1事業者が短期間に同じ一般送配電事業者に対して、100件以上の接続検討申込みを行っている事例も複数確認されたことが報道されています (※2)
(※2)電気新聞2025年9月26日号
(3) 制度的対応及び規律強化の動向
系統用蓄電池の迅速な系統連系を実現するため、以下のような対応策が制度設計の段階で示されています。
まず、接続検討申込みの受付及び審査の運営において、事業確度の低い申込みによる障害を防止するため、以下のような仕組みが提案されています。
- 接続検討申込時に、土地調査結果や登記簿謄本、契約書等の書類提出を求める案。これにより、事実上事業の実施が不可能と思われる土地など事業確度の低い事業を排除及び縮減する。
- 一事業者あたりの同時検討件数に上限を設ける案。大量の申込みを出して“場所を押さえる”事業者が審査の障害となることを防ぐことが狙い。
これらの規律強化策は、受付処理の迅速化及び実現可能性の高い案件を優先的に系統連系に繋げるという目的があります。
英国では既に同様の試みがあるようであり(※3)、系統用蓄電池事業については小型の蓄電池事業よりも、Transmission Impact Assessment (TIA)基準に適合した5MW以上等の大型の系統用蓄電池が優先されるようであり、また、データセンターやAI産業への洋上風力発電及び太陽光発電に関する系統接続については、優先して接続検討を進める形(※4)が提案されております。
(※3)Ofgem is expected to confirm the National Energy System Operator's ambitious new plan to reform grid connections and unlock billions of investment.
https://www.gov.uk/government/news/clean-energy-projects-prioritised-for-grid-connections?utm_source=chatgpt.com
(※4)Summary Decision Document: TMO4+ Connections Reform Proposals – Code Modifications, Methodologies & Impact Assessment
https://www.ofgem.gov.uk/sites/default/files/2025-04/Summary-Decision-Document-TMO4-package.pdf?utm_source=chatgpt.com
次に、系統混雑を踏まえた接続ルールの見直しについても具体的な検討が進んでいます。従来、蓄電池の充電(順潮流側)については、系統増強を要するとされるケースが多く、結果として接続までの時間及びコストが増大するケースがありました。
ここで、系統用蓄電池における順潮流とは、蓄電池が充電している状態のことで、電力が系統から蓄電池へ流れる方向を指します。一方、逆潮流とは放電している状態、つまり電気が蓄電池から系統に流れる方向を意味します。順潮流では系統の供給能力に影響を与えるため、充電量や時間の調整が必要となることがあります。逆潮流では系統に電力を戻すため、放電量やタイミングを制御しないと電圧上昇や混雑を引き起こす可能性があり、電力の潮流を適切に管理することが、系統の安定化にとって重要となります。
そこで、制度検討の方向性として、現在発電側に認められている「ノンファーム型接続」(混雑する時間に運用を制限することで、設備の増強を行うことなく接続できる方法)を、系統用蓄電池の順潮流側についても導入することが検討されています。但し、発電側ノンファーム接続を参考にした仕組みの導入には、システム開発などに長期間を要する可能性があることから、早期に蓄電池の円滑な接続を可能とするためには別の方策についても検討が必要であるとされており、今後どのような方策が示されるかを引き続き注視する必要がありそうです。
(4) 系統用蓄電池事業者への影響
こうした制度動向を踏まえ、系統用蓄電池事業を展開する事業者として留意すべき点を整理致します。まず、事業確度を高めるための事前準備の重要性が一段と増加しています。土地、契約、接続用地確保、変電設備利用条件、系統変圧器利用可否等の実務的な確認を接続検討申込時点で整備しておくことが、書類要件化の動きの中で優位に働く可能性があります。
次に、ノンファーム接続を含む系統用蓄電池における順潮流側の接続ルールについては、制度の詳細がまだ見えておりませんので、今後の動向を注視した上で導入が具体化された場合にはその対応が必要になります。当該ノンファーム接続については、資源エネルギー庁の資料(※5)によれば、オランダでも先んじて導入検討がされているようです。
(※5)資源エネルギー庁2025年3月17日「早期連系追加対策について」P31
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/002_02_00.pdf
ノンファーム型接続においては、以下の要素が導入にあたって重要になると考えられます。
- 出力抑制条件・発動手続:出力抑制の発動方法(自動制御か通知制か)及びその運用手続の明確化。
- 市場収益機会の多様化:容量市場など、他の電力市場を活用した収益源の拡大。
- レベニュー・スイッチング戦略:出力抑制が発生した際に、他市場への切替により収益を確保するための戦略設計。
これらを踏まえ、ノンファーム型接続の制度設計においては、欧米の事例を参考にしつつ、日本の電力市場や系統運用の特性に適した仕組みを構築することが重要になると思われます。
(5) 今後の展望と制度の方向性
今後、系統用蓄電池を巡る制度及び実務は、以下の方向で展開されると考えられます。
まず、将来的には蓄電池を含めた系統接続ルールの全面的な再設計が検討されており、接続同意に関しては、従来の先着優先順から、事業確度や運用条件を重視する方式への転換が進む可能性があります。
加えて、制度面での充電制限による接続促進と並行して、送配電系統や変電設備、地域間連系線といった系統そのものの増強及び整備も加速すると見込まれています。大規模な系統増強や海底直流送電、地域を跨ぐ連系線の整備など、長期的な視点に立ったインフラ整備が進展することが期待されます。
事業環境についても、補助金制度や法制度の整備が加速しており、参入の好機といえる状況です。一方で、制度や運用の変化は速く、接続手続や連系条件、充放電運用条件、系統混雑対応など、従来とは異なるリスクや対応要件が増加しています。そのため、蓄電池事業を設計する際には、将来的な系統増強や運用条件の変更リスクも併せて検討することが望まれます。事業計画段階から制度変化への適応性を意識した設計を行うことが肝要です。
今後も制度見直しに関しては、欧州など海外の動向にも注目し、必要に応じて最新情報の提供を継続していく予定です。
その他エネルギー業界の主な動きについて
(1) 電気関係報告規則の一部を改正する省令(案)等に対するパブリックコメント募集(2025年9月26日)
これまで、電気事業法上の重大な事故の報告の義務の対象から漏れていた蓄電池について、①各電気工作物(太陽光発電所など)に附属して設置される容量20kWh超の電力貯蔵装置、及び②蓄電所に設置される容量20kWh超の電力貯蔵装置を「主要電気工作物」に定めるとともに、告示を改正して、電力貯蔵装置を「主設備」に定めることで、産業用蓄電池に係る事故の大部分が事故報告の対象となるように報告の範囲を拡大する改正です。2025年10月26日までパブリックコメントが募集されておりました。
(電気関係報告規則の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募)
https://www.env.go.jp/press/press_00689.html
(2) 洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン」のパブリックコメントの結果公表(2025年9月11日)
洋上風力について、国と事業者の役割分担を含めたモニタリングの内容、環境配慮の確保に向けたモニタリング結果の活用方法等について整理したガイドラインになります。パブリックコメントが、2025年6月17日から2025年7月17日まで、パブリックコメントが募集されていましたが、当該パブリックコメントの結果が公表されています。
(「洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン」の公表及び意見の募集(パブリックコメント)の結果について)
https://www.env.go.jp/press/press_00651.html
(3) 同時市場の在り方等に関する検討会 第二次中間とりまとめの公表(2025年10月15日)
電力と調整力を同時に取引する市場として、現在の卸電力取引所と需給調整市場を代替する市場となる同時市場の在り方について検討する検討会から、第二次中間とりまとめが公表されています。現時点では、中間取りまとめで提示した同時市場導入の意義や制度設計の方針、主要な仕組みに関し、大きな異論はみられていないことから、今後、詳細設計やシステム開発に向けた要求定義を進める方針が示されていますが、影響を受ける事業者も多く、実現可能性についても判断できていないことから、導入の最終決定に至ったものではないとされています。
(同時市場の在り方等に関する検討会 第二次中間取りまとめ)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/doji_shijo_kento/20251015_report.html
(4) 発電用火力設備に関する技術基準を定める省令の一部を改正する省令案等に対する意見の募集(2025年10月23日)
木質バイオマス発電設備について、事故が発生している受入設備、貯蔵設備及び運搬設備に関する技術基準を改正するものです。パブリックコメントが募集されています。
(発電用火力設備に関する技術基準を定める省令の一部を改正する省令案等に対する意見の募集について)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595125114&Mode=0
(5) 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(案)に対する意見募集(2025年10月23日)
今年成立したGX推進法の改正法(排出量取引制度の法制化)が2026年4月1日に施行される予定であるところ、これに伴い必要な政令の改正を行うものです。パブリックコメントが募集されています。
(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(案)に対する意見公募要領)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595125113&Mode=0
(6) エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募(2025年10月17日)
データセンターにおけるエネルギー使用の更なる合理化、工場等における屋根設置太陽光発電の導入の検討による更なる非化石エネルギー転換を促す措置、沖縄県における火力発電専用設備の新設基準について、ワーキング・グループでの議論を踏まえて必要な改正を行うものです。パブリックコメントが募集されております。
(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620125011&Mode=0
以上
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