1.はじめに
2023年会社法(有価証券の目論見書及び割当て)第2改正規則(Companies (Prospectus and Allotment of Securities) Second Amendment Rules, 2023)によって、非公開会社(private companies)にも株券等の有価証券(以下「株券等」という。)の電子化が義務付けられ、昨年9月30日が期限とされていたが、多くの企業や投資家が同期限までに電子化が完了できず、準備期間の不足が指摘されていたところ、インド政府は2025年2月12日にかかる規則を改正し(以下「改正規則」という)、同期限が2025年6月30日まで延長された。
本号では、株券等の電子化の手続に関する実務上のポイント及び留意点を紹介する。
なお、株券の電子化の概要は、インド最新法令情報(2024年1月号)及びインド最新法令情報(2024年8月号)も参照されたい。
2.株券電子化の手続の実務上のポイント
(1)煩雑なKYC手続等
株券等の電子化を実行するには、インド国内の証券保管機関(Depository)において証券口座(Demat口座)の開設が必要となるが、日本企業を含む海外の投資家は、その株主や取締役に関するかなり踏み込んだ情報や関連書類等をKYC(Know Your Customer)に関する情報として収集し、提出する文書には原則として自国における認証の手続が必要となる。これらの対応に相当程度の時間がかかる点に留意する必要がある。また、必要書類を整えた後も、窓口となる金融機関における書類の不備の指摘や申請手続の混雑状況等によって、手続が思うように進まないことも多い。
そのため、可能な限り余裕をもったスケジュールで対応を進めることが望ましい。
(2)期限に間に合わない場合
改正規則が定める2025年6月30日を過ぎると、原則として株券の交付による株式の譲渡や電子化されていない株券による株式の新規発行が認められなくなるため、近い将来株式の譲渡や新株発行が見込まれる場合には、特に留意する必要がある。現時点において、上記期限を過ぎた場合でも、既に保有している株券が当然に無効になることは無いが、今後規制が強化され、紙の株券を保有しているだけで何等かの不利益を被る可能性も否定できないため、早期に電子化を済ませておくのが望ましいといえる。
3.おわりに
期限が延長されたとはいえ、必要書類の収集から手続の完了まで数か月を要することも珍しくない手続であることから、株券等の電子化が未着手である場合には、対応を急ぐべきである。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/白井紀充
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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