1.はじめに
2025年8月11日、インドの証券決済機構の一つであるNational Securities Depository Limited(以下、「NSDL」という。)は、内部規則である附則(Bye Laws)及び業務規則(Business Rules)を改正し、企業からの要請がある場合に、NSDLに参加する銀行や証券会社等の電子証券口座にて管理されている当該企業の非上場有価証券の譲渡等を制限できるようにした(以下、「本改正」という。)。
本号では、本改正の概要を整理するととともに、本改正が日系企業を含む外国企業に対して与える影響について紹介する。
2.本改正の概要
(1)前提
インドには証券決済機構としてNSDLとCentral Depository Services Limited(以下、「CDSL」という。)の2種類があるが、これらはいずれも日本の証券保管振替機構(いわゆる「ほふり」)に相当する機関である。
2023年10月のインド会社法規則の改正により、非公開会社についても株券等の有価証券の電子化が義務付けられ、日系企業の子会社を含め基本的に全ての非公開会社においてNSDL又はCDSLのどちらかに参加する銀行や証券会社等に電子証券口座(demat account)を開設する形で電子化の対応が行われた。
なお、株券等の電子化の概要は、以下の記事も参照されたい。
・インド最新法令情報(2024年1月号)「非公開会社における株券等の電子化」
・インド最新法令情報(2024年8月号)「非公開会社における株券等の電子化に係る注意喚起」
・インド最新法令情報(2025年2月号)「非公開会社における株券等の電子化期限の延長」
NSDLによる本改正は、NSDLに参加する銀行や証券会社等に電子証券口座を開設した非公開会社の電子証券に適用されるものである。
(2)改正内容
本改正により、NSDLに参加する銀行や証券会社等の電子証券口座にて電子証券が管理されている非公開会社(private limited company)は、所定の手続に従った上でNSDLに対して以下を要請できるようになった。
- 自らが発行する非上場有価証券の譲渡若しくは質権や抵当権等の担保権の設定を制限し、又は当該制限を解除する。
- 法令を遵守する目的で、非上場有価証券を凍結(freeze)し、又は凍結を解除する。
非公開会社はもともと会社の定款(Articles of Association)の定めにより株式等の譲渡を制限することができた。本改正は、当該枠組みに上乗せする形で、NSDLに参加する銀行や証券会社等の電子証券口座にて管理されている電子証券について、NSDLを通じた証券取引を直接制限できるようにするものであり、法令や会社定款に違反する証券取引が発生するリスクを低減させると考えられる。
3.総括
インドに進出する外国企業のほとんどは非公開会社と考えられるが、本改正は、NSDLに株式を預託している非公開会社による非上場有価証券へのコントロールを強化するものであり、歓迎すべき改正といえる。他方、株式等の譲渡に際してNSDLが会社名義の承認書等の追加の確認書面の提出を要求する可能性があり、株式等の売主及び買主にとっては、会社側との調整の手間が増えることが予想される。
なお、本号では、NSDLの規則改正に焦点を当てたが、もう一方の証券決済機構であるCDSLでも同様の規則改正がなされる可能性がある。
インドに子会社等を有する日系企業においては、今後も最新の制度改正の動向を注視し、随時実務対応を検討することが求められる。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/白井紀充/本間洵
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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