本稿は2023年英国経済犯罪及び企業透明化法(ECCTA)について連載形式でご紹介していくものです。他の記事については以下のリンクをご参照ください。
・(1) ―Companies Houseの権限強化―(本稿)
・(2) ―取締役等の本人確認義務の導入―
・(3) ―詐欺防止不履行罪の概要及び政府ガイダンスを踏まえた対応―
・(4) ―金融機関向け詐欺防止不履行罪ガイダンス(UK Finance)に見る日本企業の実務対応のヒント―
・(5) ―英国支店等を有する外国企業の取締役の本人確認義務―
・(6) ―2025年11月18日から取締役等の本人確認義務開始―
・(7) ―本人確認制度の概要とTMIによる本人確認サービスのご案内―
なお、本連載でご紹介した詐欺防止不履行罪は 2025年9月1日 に施行開始となり、日本企業を含め、英国との関連性を有する一定規模の企業は合理的な詐欺防止措置の整備を講じることが必要となりました。具体的な対応は上記(3)の記事を御参照ください。
また、英国会社の取締役等又は英国支店を有する海外企業(例えば日本企業の本社)の取締役等に対する本人確認は 2025年11月18日 から義務化されています。これに伴い、弊所では 英国政府登録のACSP として取締役等の本人確認支援サービスも開始しております。具体的な対応は上記(7)の記事をご参照ください。
詐欺防止不履行罪への対応や、本人確認手続の流れ・必要資料等についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
英国経済犯罪及び企業透明化法(Economic Crime and Corporate Transparency Act 2023、以下「ECCTA」といいます。)は、2023年に成立した法律で、2024年から段階的に施行されています。ECCTAは、2022年3月に成立した2022年英国経済犯罪法(Economic Crime (Transparency and Enforcement) Act 2022)とともに、経済犯罪に対応し、企業の透明性を高めることを目的としており、詐欺防止不履行罪(failure to prevent fraud offence)の創設など変更点は広範囲に及びます。英国に既に子会社若しくは支店等がある日本の会社、又は新たに英国企業を買収・投資等しようとする日本の会社もECCTAの影響を受けることになりますので本ブログで解説していきます。
ECCTAの特徴の一つとして、経済犯罪に対応するため特に英国会社登記局(Companies House)に強力な権限が認め、また会社登記簿に記載されている情報の正確性を担保するため措置が規定されていることが挙げられます。具体的には、以下のような措置が規定されています。
- 会社取締役、実質所有者(People with Significant Control)及び会社を代理して登記申請をする者に対する身分確認手続の実施
- 会社設立及び登記情報の正確性を担保するためにCompanies Houseにより強力な権限を認め、単に情報の受領者ではなく、より積極的にゲートキーパーとしての役割を付与
- 適切なビジネス上の意思決定を可能とするため、デジタル技術の進捗を反映したより正確で信頼性のある財務情報の提供
- Companies Houseにより効率的な執行権限を認め、関連情報を関係当局と広く共有することを可能とする
- 個人情報の保護を強化して、詐欺やその他の被害から個人を保護
ECCTAは、1884年に英国で会社登記制度が制定されて以降、Companies Houseに最大の変更をもたらすとされており、以下のように段階的に施行されることが予定されています。
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2024年3月4日より実施済み |
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2024年5月1日より実施済み |
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2024年10月より実施済み |
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2025年1月27日より実施済み |
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2025年2月25日より実施予定 |
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2025年3月25日より実施予定 |
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2025年夏までに実施予定 |
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2025年秋までに実施予定 |
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2026年春までに実施予定 |
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2026年末までに実施予定 |
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新規の取締役等の就任のみならず、既存の取締役等についても一定期間内に身分確認手続実施が必要になる点に特に留意が必要です。
英国に既に子会社又は支店等がある日本の会社は、Companies Houseでの届出手続を経験されたことも多いと思います。今後、ECCTAに基づきCompanies Houseでの届出実務が大きく変わることになります。弊所では、今後、会社に代わり身分確認手続を実施することができるACSPsに登録することを予定しており、日本の会社のECCTAへの対応を引き続きサポートして参ります。