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2023年英国経済犯罪及び企業透明化法(ECCTA)(7)―本人確認制度の概要とTMIによる本人確認サービスのご案内―
2025.11.18
本記事は2023年英国経済犯罪及び企業透明化法(ECCTA)について連載形式でご紹介していくものです。他の記事については以下のリンクをご参照ください。
・(1)―Companies Houseの権限強化―
・(2) ―取締役等の本人確認義務の導入―
・(3)―詐欺防止不履行罪の概要及び政府ガイダンスを踏まえた対応―
・(4)―金融機関向け詐欺防止不履行罪ガイダンス(UK Finance)に見る日本企業の実務対応のヒント―
・(5)―英国支店等を有する外国企業の取締役の本人確認義務―
・(6)―2025年11月18日から取締役等の本人確認義務開始―
はじめに
英国では、2023年英国経済犯罪及び企業透明化法(Economic Crime and Corporate Transparency Act 2023:ECCTA)に基づき、2025年11月18日から、取締役等に対する本人確認義務(Identity Verification:IDV)が導入されました。本人確認を完了しない場合、取締役として行動することが認められず、また一定の罰則が科される可能性があります。
この本人確認義務は、英国法人や英国支店(法人格を有しないUK Establishment)を有する日本企業にも適用されるため、日本在住者が対象となるケースでは、事務手続の負担が大きく、定められた期限までに本人確認を完了することが難しい可能性もあります。
本稿では、本人確認制度の対象者・方法・期限をあらためて整理するとともに、弊所(TMI総合法律事務所ロンドンオフィス)が提供する本人確認支援サービスについてご案内いたします。
なお、英国支店を有する日本企業の取締役の本人確認については前々回の記事、日本企業の英国法人の取締役の本人確認については前回の記事で詳細を解説しておりますので、併せてご参照ください。
本人確認義務の対象者
まず、本人確認義務は、2025年11月18日時点で以下の個人に適用されます。対象範囲は英国法人に限らず、英国支店を有する海外企業などにも及びます。
(1) 英国会社・LLP
- 英国会社の取締役
※日本企業の英国子会社(英国法人)の取締役を務める、日本在住の本社役員・従業員も対象です。 - 英国有限責任組合(LLP)の組合員
- 英国会社の実質的支配者(Persons with Significant Control:PSC)
(2) 海外企業(Overseas Company)
- 英国支店を有する海外企業本社の取締役
※英国支店を有する日本企業の日本在住取締役も対象です。
(3) 今後開始予定(時期未定)
以下の対象者については、ECCTAで本人確認義務が規定されているものの、現時点で開始時期は未定です。
- 英国組合 Limited Partnership(LP)の関係者
- Corporate Director / Corporate LLP Member(法人取締役・法人組合員)
※英国では法人が企業の取締役として就任することが可能 - 英国会社を実質的に支配する関連法人(Relevant Legal Entity:RLE)の relevant officer(個人)
※PSCは原則として自然人ですが、実質的支配者が法人であり、その法人が次のいずれかに該当する場合はRLEとして登録が必要です。
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- PSC制度が適用される英国会社等
- 英国、EEA、米国、日本、スイス、イスラエルの上場企業(一定の開示要件を満たす企業)
例えば、日本の上場企業が英国に子会社を有する場合、当該日本企業は英国子会社のRLEとして登録され、そのrelevant officer(個人)が将来的に本人確認義務の対象となる予定です(対象範囲や開始時期は未定)。
本人確認の方法
本人確認の方法としては、次の2つがあります。
(1) 取締役等が自ら、英国政府のウェブサイトやアプリ又は郵便局を利用して行う方法
(2) 英国政府に認定された本人確認支援サービス提供者(Authorised Corporate Service Provider: ACSP)を通じて行う方法
いずれの方法でも、本人確認が完了すると、個人はCompanies House から個人コード(Personal Code)を受領します。なお、弊所はACSPとして登録されており、日本在住の方についても本人確認支援サービスを提供しております。
新規・既存取締役の本人確認の期限
英国会社の取締役、及び英国支店を有する海外企業本社の取締役が本人確認を完了すべきタイミングは、新規就任か既存かにより異なります。なお、LLPの組合員及びPSCの本人確認の期限についてはお問い合わせください。
(1)新規取締役(英国会社・英国支店の本社で共通)
2025年11月18日以降に新たに取締役へ就任する場合は、就任前に本人確認を完了する必要があります。
(2)既存取締役(英国会社)
既に取締役に就任している個人は、英国会社の次回の年次確認書(Confirmation Statement)提出時までに本人確認を完了する必要があります。年次確認書とは、会社情報が正確・最新であることを Companies House に通知する申告書で、すべての英国会社に対し12か月(審査期間)ごとに1回の提出が義務付けられています。
審査期間は、会社の設立日又は前回の年次確認書提出日から開始するため、会社ごとに具体的な提出時期は異なります。例えば、2025年1月1日に設立した会社の場合(期限前の早期申告を行わない限り)、審査期間は2025年1月1日から2025年12月31日までとなり、提出期限はその終了日から14日後の2026年1月14日となります。
※2025年11月18日時点でConfirmation Statementの提出が遅延している場合は例外的に遅延提出の翌日又は2025年12月2日の早い方が本人確認の期限となります。
(3)既存取締役(UK Establishment:英国支店)
英国支店を有する海外企業(例:日本企業本社)の既存取締役は、支店設置日の応当日(Anniversary)までに本人確認を完了する必要があります。
例えば、設置日が2015年4月1日の場合は2026年4月1日が期限となります。ただし、Personal Code を Companies Houseに通知する具体的な方法は現時点で公表されておりません。
日本企業の実務上の対応
英国法人の取締役、又は英国支店を有する日本企業本社の取締役は、いずれも新ルールに基づき本人確認を行う必要があります。特に英国支店の場合は、日本本社の取締役が対象となるため人数が多くなりやすく、対象者の多くが日本在住であることから、本人確認書類の準備や英国政府アプリの使用などには、相応の実務負担が想定されます。また、日本在住者についてはアプリ使用時にエラーが生じ、本人確認を完了できない事例も実務上確認されているところです。
本人確認義務はいずれの場合も、英国会社の設立や取締役の選任・交代のスケジュールに直接影響するため、前述のとおり対象者が多い企業や日本在住者が含まれる企業では、手続きが煩雑化する可能性があります。したがって、日本企業としては制度内容を正確に理解したうえで、事前に取締役への説明と準備を行い、計画的に本人確認を進めることが重要です。
なお、本人確認は英国政府に登録されたACSPが代行することも可能であり、実務負担の軽減や手続きの確実性を確保するうえで、外部ACSPの活用は有力な選択肢となります。
前述のとおり、弊所はACSPとして登録されており、日本在住の方を含む取締役の本人確認支援サービスを提供しております。以下では、弊所が本人確認を代行する場合の具体的な流れをご紹介します。
弊所による本人確認の流れ
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(1) 質問票の記入・資料提出 (2) 本人確認(オンライン/対面) (3) Companies House への届出 (4) Personal Code の受領 (5) 各種手続きへの利用 |
日本在住者の本人確認書類
日本在住の方には、パスポート、公共料金請求書など所定の本人確認資料をご提出いただきます。資料は日本語のままで問題なく、英訳は不要です。なお、過去に氏名変更・住所変更がある場合などは、追加資料をご提出いただく場合があります。
さいごに
日本在住の取締役が多い日本企業にとって、ACSPによる本人確認の代行は、法令遵守の確実性確保と事務負担の軽減の両面で有力な選択肢となります。本人確認手続の流れや必要資料等についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

