1.はじめに
インドにおいて、労働関係法のうち主要な連邦法が4本の法律に再編され、2019年賃金法(The Wages Act, 2019)、2020年社会保障法(The Code on Social Security, 2020)、2020年労使関係法(The Industrial Relations Code, 2020)及び2020年労働安全衛生法(The Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)が2020年9月までに順次成立した(以下これら4本の労働関連法を「改正労働法」と総称する。)。
本号では、改正労働法のうち、2020年社会保障法(以下「社会保障法」という。)の概要を紹介する。なお、2019年賃金法、2020年労使関係法及び2020年労働安全衛生法の概要については、過去のインド最新法令情報を参照されたい。
■インド最新法令情報2020年10月号
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2020/12004.html>
■インド最新法令情報2020年12月号その①
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2020/12138.html>
■インド最新法令情報2021年1月号その①
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2021/12266.html>
2.社会保障法の概要
社会保障法は、加齢、出産、事故等の特定の不測の事態が発生した場合に、労働者が医療及び所得の給付を受けることを確保するために提供される給付について定めるものであり、従前の社会保障に関する9つの法律(労働者積立基金及び雑則法(Employee Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952)、従業員国家保険法 (Employee State Insurance Act, 1948)、インド出産給付法(Maternity Benefit Act, 1961)、インド退職金支払法(Payment of Gratuity Act, 1972)等)を統合したものである。なお、2020年9月に国会及び大統領の承認を得たものの、いまだに施行日は未定である。社会保障法の主要な改正点は以下のとおりである。
項目 |
現行法 |
改正法 |
適用範囲の拡大 |
適用対象が限定 |
独立業務請負人(※1)、非組織労働者(※2)等を含む全ての労働者に拡大 |
各社会保障制度の統一 |
各社会保障(プロビデントファンド、年金(EPS)、従業員預託保険(EDLI)等)について個別の法律により規定 |
各社会保障を一つの法律内にて規定 |
登録義務 |
法令の適用のある全ての事業所は、法令ごとに、加入している各保険又は保障についての登録義務あり |
法令の適用のある全ての事業所は、社会保障法上、加入している各保険又は保障についての登録義務あり(国民識別番号(Aadhaar number)と紐付けて電磁的に運用) |
プロビデントファンドへの加入義務(※3) |
20名以上の従業員を有する一定の産業(繊維、鉄鋼等)の工場等について原則的に加入義務 |
20名以上の従業員を有する全ての事業所について原則的に加入義務 |
従業員国家保険への加入義務(※4) |
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※1 独立業務請負人(Gig workers):特定の業務を行い、又は取決めに参加することによって金銭を稼ぐ労働者。エンジニア・配達員等
※2 非組織労働者(Unorganized workers):家事労働、個人労働等のサービスを提供する組織化されていない10名以下の事業体に従事する労働者。料理人・メイド等
※3 プロビデントファンド(Provident Fund:PF):従業員及び雇用主がそれぞれ一定の掛け金を毎月支払うことで、従業員が退職時に一定額の払戻しを受けることができる制度
※4 従業員国家保険(Employee’s State Insurance:ESI):従業員及び雇用主がそれぞれ一定の掛け金を毎月支払うことで、従業員の就業中に生じた突発的な事故に要した費用等を従業員国家保険公社(Employee’s State Insurance Corporation)が従業員に補償する制度
3.コメント
従来、独立業務請負人や非組織労働者については、適切な社会保障が存在しなかったが、社会保障法の制定により、これらの労働者に対しても社会保障が図られることとなった。これに伴い、日系企業としては、自社の保障対象となる従業員を改めて確認し、法律に従った登録等を行うなどの対応が求められる。また、適用対象となる従業員の拡大に伴い、日系企業が負担することになる保険金の額も増大する可能性がある点に留意されたい。
なお、上述のとおり、社会保障法は、施行日が未定であるため、引続き施行時期を注視する必要がある。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
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