1.はじめに
インドでは、従来29の連邦労働法が併存していたところ、これらを4本の労働法典(2019年賃金法、2020年労使関係法、2020年労働安全衛生法及び2020年社会保障法。以下「本労働法典」と総称する。)に統合する大規模な労働法改革が進められてきた(注1)。本労働法典は、2025年11月21日に施行され、旧法は原則として廃止された。その後、2026年5月9日までに、中央政府は本労働法典の4本全てについての下位法規と位置付けられる規則(Central Rules。以下「中央規則」という。)が正式に通知・施行され、本労働法典の運用面での具体化が大きく前進した。本号では、これら中央規則について概説する。
2.中央規則の概要
2026年5月に、それぞれ本労働法典に対応する形で、以下の4本の中央規則が通知・施行された(注2)。
| 本労働法典 | 中央規則 |
| 2019年賃金法 | Code on Wages (Central) Rules, 2026 |
| 2020年労使関係法 | Industrial Relations (Central) Rules, 2026 |
| 2020年労働安全衛生法 | Occupational Safety, Health and Working Conditions (Central) Rules, 2026 |
| 2020年社会保障法 | Social Security (Central) Rules, 2026 |
中央規則は、本労働法典の各条文において「prescribed(所定の)」と定める事項(すなわち、法典本体が枠組みを定め、具体的な手続・運用の詳細を下位規範に委ねている事項 )などについて、具体的に規定するものである。同法典が中央規則に委任している事項の例としては、以下が挙げられる。
- 最低賃金の算定方法・改定手続
- 労働時間、休憩、残業の運用詳細
- 契約労働者のライセンス手続
- 社会保障(PF・ESI・退職金等)の拠出・運用手続
- 紛争解決(調停・産業審判所)の手続 など
中央規則の施行により、届出書式の統一、電子的な記録管理の義務化、ウェブベースの査察制度の導入など、コンプライアンスのデジタル化・簡素化が図られている。
3.適用関係など
(1) 中央法・中央規則・州規則の三層構造
インドにおいては、憲法上、労働分野はいわゆる共通所管事項に分類されており、中央・州の双方に立法権限がある。本労働法典の実体規定(賃金の定義、ストライキの事前通知要件、解雇規制の閾値等)は法典本体に規定されており、基本的に全州に適用される。一方で、手続・運用面の詳細は、管轄政府(appropriate government)が定める規則に委ねられている。
中央規則が適用されるのは、中央政府が管轄政府となる事業所(鉄道、鉱山、主要港湾、航空運輸、通信、銀行・保険、中央公企業等)に限られ、それ以外の事業所については、原則として各州政府が制定する州規則(State Rules)が適用される。但し、社会保障法については、複数の州にまたがって事業を行う民間企業も中央政府が管轄政府となる点に留意が必要である。州規則が未制定の分野については、旧法下の州規則が本労働法典に矛盾しない範囲で経過的に適用されるため、実務上は中央規則と州規則(又は旧法下の州規則)の双方を確認する必要がある。
なお、上記の中央規則・州規則のほかに、州議会が中央法たる本労働法典そのものを修正する州法を制定する場合もある。例えば、ラージャスターン州は、2020年労使関係法を修正する州法(Industrial Relations Code (Amendment) Act, 2026)を制定しており、本労働法典の規定を一部修正している。このような州法による修正は、大統領の同意を得た場合に当該州内で効力を有するものであり、中央規則・州規則とは別の層として注意が必要である。
(2) 各州規則の制定状況
州規則の制定状況は州ごとに大きく異なる。2026年8月時点で、4つの法典全てについて州規則を正式に通知済みである州としては、グジャラート州やビハール州などが上げられる一方、ドラフト規則の一部又は全部の公表すらされていない州も存在し、自社に適用される州規則の制定状況については確認を要する。
4.むすび
本労働法典及び中央規則の施行により、インドの労働法制度の枠組みは大きく整備されつつある。もっとも、日系企業にとっては州規則の内容が実務上の遵守基準となることも多いため、自社の事業の種類や拠点の所在地に応じて、適用される「管轄政府」がいずれであるかを確認し、中央規則・州規則・旧法下の州規則の適用関係を丁寧に整理していく必要がある。また、州規則の制定状況を含む本労働法典に関連する法令の制定及び運用動向につき引き続き注視していくことが肝要である。
注1 本労働法典については、以下のとおり過去の情報も参照されたい。
・インド最新法令情報(2020年10月号)インド労働法の再編~2020年労働安全衛生法~
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2020/12004.html>
・インド最新法令情報(2020年12月号①)インド労働法の再編2~2020年労使関係法~
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2020/12138.html>
・インド最新法令情報(2021年1月号)インド労働法の再編~2019年賃金法~
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2021/12266.html>
・インド最新法令情報(2021年3月号)インド労働法の再編~2020年社会保障法~
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2021/12415.html>
・インド最新法令情報(2025年12月号)インド改正労働法の施行
<https://www.tmi.gr.jp/service/global/asia-pacific/2025/17846.html>
注2 各中央規則については、以下のインド労働雇用省の公式ページより参照できる。
・Code on Wages (Central) Rules, 2026
<https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/05/6eb0c35ba63b776487a025e5123b6b12.pdf>
・Industrial Relations (Central) Rules, 2026
<https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/05/f05a2c220dcdec0ea9c55e84d9ff791f.pdf>
・Occupational Safety, Health and Working Conditions (Central) Rules, 2026
<https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/05/ee246f790cad0b8e99c3828f34fa09a6.pdf>
・Social Security (Central) Rules, 2026
<https://www.labour.gov.in/static/uploads/2026/05/49aa9b62c2125499c37399b90e969d67.pdf>
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/白井紀充/呉竹 辰
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