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【法改正】意匠の新規性喪失の例外適用手続・証明書の要件緩和
2022.12.13
意匠の新規性喪失の例外適用手続・証明書の要件緩和
産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会(以下「意匠制度小委」といいます。)は、特許庁政策推進懇談会での議論及び2022年6月30日に公表された報告書「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」を踏まえ、意匠法第4条の「意匠の新規性喪失の例外適用手続」に関し、2022年9月9日より見直し方向性について検討を開始し、2022年12月7日に報告書案を取り纏め、12月13日より当該案について意見募集を開始しました。
本稿では、その見直しの方向性についてご紹介しつつ、あわせて意匠制度小委での議論の流れについても触れます。
意匠の新規性喪失の例外適用手続の見直しの方向性
意匠制度小委が報告書案においてまとめた見直しの案は、証明書において記載すべき公開事実の内容を大幅に緩和するものであり、具体的には次のとおりです。
すなわち、証明書には、最先の公開された意匠について記載すれば、それ以後に意匠登録を受ける権利を有する者等の行為に起因して公開された同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用を受けられるとするものです。
(報告書案より引用)
報告書案に記載された具体的要件は以下のとおりです。
(ア)意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった意匠であること
(イ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠の公開日以後に公開された意匠であること
(ウ)法定期間内に提出した証明書により証明した意匠と同一又は類似する意匠であること(非類似の意匠は別個の証明が必要)
今回の見直しの方向性で特筆すべき点は、以下の3つです。
①最初の公開だけでよい点 |
現行の意匠の新規性喪失の例外適用手続と課題
現行の意匠の新規性喪失の例外適用手続については、意匠法4条において、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した意匠について、意匠の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるためには、出願と同時にその旨を記載した書面を提出するか願書にその旨記載した上、出願から30日以内に、同規定の適用を受けることができることを証明する書面(例外適用証明書)を、特許庁長官に提出しなければならない(同条第3項)とされています。
この点、報告書案では、現行制度の課題として、以下の点が挙げられています。
①デザイン開発においては、多数のバリエーションの意匠が同時期に創作されることが多く、また、マーケティングや製品PRにおいて必然的に創作の内容を公開することとなるため、相互に類似する多くの意匠が出願前に公開されることも少なくない実情がある。
②近年、複数のECサイトを利用した製品の販売や、複数のSNSを活用した製品PRが浸透し、公開態様が多様化・複雑化しており、その公開情報の管理が困難となっている。
③中小企業等では、クラウドファンディングのように意匠を公開して投資を募ってから製品化を決定する手法や、外部の協力企業や消費者と協働して製品を完成させる製造委託や共同開発が行われており、開発過程における公開の機会も増えている。
以上の点から、出願意匠に関係する全ての公開事実を管理・把握することが困難となっているところ、出願から30日以内に全ての公開意匠を網羅した例外適用証明書を作成することは、出願人にとっては大きな負担となり、意匠登録出願を行う上での障壁となっているとしています。
また、報告書案では、2021年に新規性欠如(意匠法3条1項各号)の拒絶理由が通知(国際意匠登録出願に対する拒絶通報を除く)された2,621件のうち、約16.7%の437件が自己の1年以内の公開意匠(国内外の公報除く)により拒絶理由が通知され、さらにそのうちの約36.2%に当たる158件が、出願の際に例外適用書面及び例外適用証明書を提出していたにもかかわらず、証明が網羅的にできていなかったためのものであった事実が示されました。
(報告書案より引用)
意匠制度小委での議論
今回の意匠制度小委では、当初において、特許庁からは以下の見直し案が示されました。
すなわち、当初の証明書において「主要な公開事実」について提出した者については、法定期間経過後、出願が審査に係属している間、網羅されていなかった公開事実についての証明書を追加で提出できるようにするという案でした。
しかしながら、当該案については、「主要な公開事実」の判断が困難であること、結果として従前と同様に網羅的な証明書の提出が求められていることなどから、証明書の作成負担が軽減されず手続の緩和として不十分である旨、委員から意見が出され、当該案は採用されませんでした。
そのうえで、第2案として提出された案が、概ね上述した見直し案でありましたが、この第2案においては、上述した要件(イ)において、「証明書により証明した意匠の公開時以後に公開された意匠であること」とするものでありました。
この点についても、複数の委員から、複数同時に公開する事象において、公開の最先について時分をもって判断することは困難であるから、日をもって判断されるべきとの意見が出され、最終的に上述のとおりの方向性でまとまりました。
今回の意匠制度小委では、特許庁が提示した見直し案について、委員各位から活発な意見が提出され、それに応じて、特許庁側も柔軟に対応することで、見直しの方向性としては最終的にバランスの取れた適切な案が示されたと思われます。
今後の流れと将来的な更なる見直しについて
上記のとおり、報告書案は、2022年12月13日~2023年1月12日の期間で意見募集に付されています。報告書案は意見募集ののち、最終的に報告書として取り纏められるものと思われます。
そのうえで、経済産業省・特許庁において法案の検討がなされ、仮に2023年1月下旬に召集される通常国会において法案が提出され可決されれば、2023年前半には成立するものと予想されます。仮に成立すれば、その後に、特許庁における(必要があれば)政省令の整備、意匠審査基準の改訂などの運用面の検討スケジュールを確保したうえで施行されるものと想定されます。
意匠制度小委においても委員から意見が出されておりましたが、本件は手続の緩和策であることから、見直しの方向性が確定した場合には一刻も早い法案の成立と施行が望まれます。
また、今回の見直しの方向性は、証明書の作成負担を大幅に軽減するものと考えられ、それ自体は歓迎されるものではあります。しかしながら、報告書案でも説明されたとおり、意匠は早期に公開され易い性質を有し、SNS等の公開の機会が飛躍的に増加していることから、今後も新規性喪失の例外適用手続を行わなければならない場面が減ることはないと考えます。他方で、米国特許商標庁(USPTO)および欧州連合知的財産庁(EUIPO)においては、出願前1年間の公開行為(公報公開も含む)について何らの手続を要せずに許容されております。米国および欧州とは、意匠法制度における大きな考え方の相違等はあるものの、手続的な要件という観点では内外格差があることは事実であり、少なくとも証明書の提出自体の要否、その緩和(廃止を含む)はさらに検討が求められる状況です。報告書案では、最後に「本小委員会においては、意匠の新規性喪失の例外適用手続について提言を行ったものであるが、この課題も含めて、意匠制度の在り方については不断に検討が行われるべきであり、今後もユーザーの意見を踏まえ、創作や出願権利化等の実務の現状や企業活動の実態を把握しつつ、各国における動向等も参考にしながら、適時の見直しが行われることを期待する。」とされていますが、意匠の新規性喪失の例外適用手続についても今回の見直しで終わることなく、引き続きさらなる見直しがなされることを期待します。
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