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ブロックチェーン技術と知財戦略
2020.10.01
ビットコインを含む多くのブロックチェーン技術が、様々な分野において注目されている。しかし、ブロックチェーン技術の多くがオープンソースソフトウェアとして開発されていることもあり、知財に関するケアが十分ではない状況に遭遇することも多い。ブロックチェーン技術における知財のポイントとは。
ブロックチェーン技術のはじまり
サトシ・ナカモトがビットコインに関する論文を発表したのは、2009年5月のことです。それから約11年が過ぎた今でも、ビットコインから発展したブロックチェーン技術は注目を集め続けており、その重要性は些かも低下することがありません。
ブロックチェーン技術の多くは、世界中の技術者によってオープンソースソフトウェア(OSS)として開発が進められています。OSSは、基本的に自由な再頒布を認めるものであるため、独占排他的な権利である特許権とは相容れないと考えられることも多いようです。そのためか、ブロックチェーン技術の開発者や利用者の中には、特許についての意識をあまり持っていない方も少なくないように見受けます。しかしながら、たとえそれがOSSであるとしても、ブロックチェーン技術をビジネスで利用するのであれば、特許をはじめとする知財の重要性には変わりがありません。
本稿では、ブロックチェーン技術に関する動向を紹介するとともに、ブロックチェーン技術における知財のポイントについて検討していきます。
ブロックチェーン技術とは
ブロックチェーン技術そのものについては、既に書籍や雑誌、インターネット上の記事等で多くの解説がなされています。そのため詳細な説明は割愛しますが、初回では、ブロックチェーン技術における知財のポイントを検討する際に留意すべき点である、ブロックチェーンの定義及びプラットフォームについて紹介していきます。
ブロックチェーンの定義
本稿が対象とする技術である「ブロックチェーン」を、正確に定義することは容易ではありません。例えば、日本ブロックチェーン協会は、ブロックチェーンの定義として、以下の2つを公表しています。
①狭義のブロックチェーン
「ビザンチン障害を含む不特定多数のノードを用い、時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束するプロトコル、またはその実装をブロックチェーンと呼ぶ。」
②広義のブロックチェーン
「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。」
ブロックチェーン協会自身が2つの定義を公表していることや、またその内容から見ても、「ブロックチェーン」を正確に定義することの難しさがよくわかります。そして、このことは、ブロックチェーン関連特許を検討する際の難しさにも繋がるのです。この点については、次回以降に説明していきます。
ブロックチェーン技術のプラットフォーム
ブロックチェーン技術を用いて開発を行う場合、ブロックチェーン技術を用いる際に必要となる様々な機能を提供するプラットフォームを利用することが多いと言えます。ブロックチェーン技術が注目を集めていることもあり、様々なコミュニティや団体によってプラットフォームの開発が行われていますが、各プラットフォームの特徴(開発メンバーやスポンサー、ビジネス向けサービス等)は次回以降に解説していく知財のポイントにも関連するため、ここでは、3つの主要なプラットフォームを簡単に紹介しておきます。
(1)Bitcoin Core
まず1つ目は、Bitcoin Core(ビットコイン・ コア)です。これは、その名のとおり、ビットコインを利用するためのプラットフォームであり、「コア開発者」と呼ばれる少数のエンジニアによってOSSとして開発されているプラットフォームです。他のプラットフォームと比較して企業色は薄いと言えますが、その分、近年は、開発費用を確保するためにスポンサーの募集などを行っています。
(2)Ethereum
2つ目は、Ethereum(イーサリアム)です。Ethereumは、Ethereum FoundationによってOSSとして開発されているプラットフォームです。Ethereumのビジネス利用を目的としたアライアンス(Enterprise Ethereum Alliance)もあり、そのメンバーにはMicrosoft、Intel等のIT企業や、 J.P. Morgan、UBS等の金融機関が含まれます。また、Microsoftは、Ethereumのビジネス利用をサポートする「Blockchain as a Service(BaaS)」というクラウドサービスを、同社のクラウド基盤であるAzureにおいて提供しています。
Ethereumの特徴の1つは、スマート・コントラクトに対応しているプラットフォーム、ということでしょう。スマート・コントラクトは、簡単に言うと、ある条件が満たされるとその条件に応じた処理を実行するためのプログラムです。 スマート・コントラクトについては、隣接する産業的なアプリケーションも多く、一つの注目ポイントと言えますので、次回以降に解説していきます。
(3)Hyperledger Fabric
3つ目は、Hyperledger Fabric(ハイパーレッジャー・ファブリック)です。
Hyperledger Fabricは、Linux Foundationのプロジェクトの1つであるHyperledger ProjectによってOSSとして開発されているプラットフォームであり、特にビジネスでの利用を目的としたプラットフォームとして注目されています。Hyperledger Projectのプレミアメンバーには、IBM、Accenture等の多くのIT企業が含まれており、IBMは、Hyperledger Fabricのビジネス利用をサポートする「IBM Blockchain」というクラウドサービスを、同社のクラウド基盤であるIBM Bluemixにおいて提供しています。
次回は、ブロックチェーン関連特許の動向について、具体的な事例を織り交ぜながら解説していきたいと思います。
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