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【スマートシティ連載企画】第1回 スマートシティの法務(総論)
2021.03.31
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
名古屋オフィス 弁護士 岩田 幸剛
名古屋オフィス 弁護士 粟井 勇貴
スマートシティとは
スマートシティとは、都市が抱える様々な問題に対し、AIやビッグデータを活用し、生活にまたがる問題の最適化を図る、持続可能な未来社会での生活を先行して現実にする未来都市を意味します。
スマートシティでは、行政・民間を問わず、交通、資金決済、医療・介護、行政サービス、防災、エネルギー、教育など多岐な分野にわたる住民の課題を解決するため、新たなテクノロジーが活用されます。また、各種サービスにおいて得られた情報が、サービス分野を超えて連携されるプラットフォームにて共有・共同利用されることで、複数のサービスがワンストップで提供されるとともに、当該情報がビッグデータ化し解析されることで、さらなる住民サービスの向上や関連ビジネスに活用されることが想定されます。
【サービス具体例】
・行政サービス
一度行政登録を行えば、個人のデバイスで全ての申請や手続きを進めることができ、 また、地域内でボランティアなどを行うことで地域内ポイントを取得し、地域内での買い物などの場面で利用可能。
・日常生活サービス
食事や買い物は顔認証技術を用いたキャッシュレス決済で行われ、荷物は自動運転車両やドローンで、必要なものが必要なときに配達。
・医療サービス
平常時には、日々の健康状態やライフログが可視化され、パーソナライズ化された運動・食事メニューや発病リスクのアラートを配信。また、発病時には、AI受診勧奨が行われると同時に、ライフログや健康診断データ等が電子カルテに統合され、最適なオンライン診療とオンライン服薬を提供。
・教育サービス
オンライン教育により、一人一人にあった教育がいつでもどこでも受講可能。
・移動サービス
自動運転車両により、移動時間を自己の好きな時間に充てることができ、また、旅行時には、タクシーや新幹線などの各種交通機関を一括で予約し決済可能。
(出典:内閣府国家戦略特区HP)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html
海外では、既に様々な都市においてスマートシティが実証されています。例えば、シンガポールでは、国土全体の3Dモデルを構築し、歩道・バス・タクシーなどに設置されたセンサーによりヒトや車の流れを取得することで、鉄道やバスなどの混雑状況を、個人のデバイスからアクセス可能な仮想空間上でリアルタイムに確認できる「バーチャルシンガポール」プロジェクトが開始されています。また、省庁毎にバラバラに提供されてきた住民向けサービスを、オンラインでシームレスに提供するサービスも開始されています。
国内でも、複数の地域において、スマートシティ実証に向けた取り組みが進められていましたが、エネルギーや交通などの個別分野での取り組みや、個別の最先端技術の実証が行われるに留まっていました。そのため、部分最適ではなく、複数分野の取り組みが一つの都市で同時実装され生活分野全般にわたり全体最適化された、「まるごと未来都市」を実現するための取り組みとして、「スーパーシティ」構想が提唱されています。2020年の通常国会において、国家戦略特区法が改正され、同法においてスーパーシティが正式に位置づけられたことにより、各地域において検討が加速し、スーパーシティ構想の自治体アイディア公募においては、全国50を超える地域からアイディアが提出されています。
スマートシティの法務
スマートシティは、新規のまちづくりを行うグリーンフィールド、既存の都市を改良・改善する形のブラウンフィールドといった類型が存在しますが、そのいずれにおいても定型化された型があるわけではなく、上記の分野に限らず、地域毎の住民の課題や様々な未来へのアイディアに応じて、オーダーメイドで自由に構成することが可能です。
しかし、その反面、スマートシティ通則法のような、統一した法体系があるわけではなく、また分野毎に所管する行政機関も異なります。したがって、スマートシティを検討・実現する際には、特定の法令のみを検討し、特定の行政機関と折衝すれば足りるというものではなく、アイディア毎に個別に適用される法規制や法的障害を検討し、各法規制に関係する複数の行政機関と折衝する必要があることが想定されます。
したがって、スマートシティの実現可能性の検証及び実施可能な方法を探す段階において、分野毎・アイディア毎に、どのような法的規制や法的障害があるのか、事前に十分なリサーチを実施するなどして相場観を持っておくことは極めて有益です。
また、次のステップとして、法的規制や障害があることを前提として、それが既存の法令・規制の範囲内で実現することが可能か、国家戦略特区法に基づく地域限定での特例措置の設立を目指す必要があるのか、又は国家戦略特区だけではなく全国的な規制緩和に挑む必要があるのか、事例によって異なると考えられます。この点についても、どのような方法で検討を進め、いかなる方法が可能なのか、予め知識を得ておくことは、スマートシティ検討を効率的に進めるために有益です。
さらに、新テクノロジーだけではなく、データの活用もスマートシティ実現のキーポイントとなりますが、個人情報の保護に関する法律を含む、データプライバシー規制・関係法令にも配慮した対応が必要となります。
本連載では、スマートシティにおいて導入されるアイディアとなり得る、新サービス、新テクノロジー、及びデータプライバシーに関係する法規制・法的障害などを紹介することを予定しています。シリーズを通じて読んでいただき、スマートシティ検討・実現に向けた取り組みの一助となれば幸いです。
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以上
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