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【スマートシティ連載企画】第8回 スマートシティを目指す地方自治体の課題(1)
2021.08.20
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
弁護士 尾形 和哉
弁護士 榊原 颯子
弁護士 林 里奈
「スマートシティを目指す地方自治体の課題」のブログ概要
本ブログ記事では、スーパーシティ構想(※)にエントリーをした地方自治体(以下「応募自治体」といいます。)の「スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する提案書」(以下「提案書」といいます。)を総覧し、各応募自治体がスーパーシティ戦略において何を目指そうとしているのか、何を実現しようとしているのかを分析し、続編ではスマートシティを目指す地方自治体が直面している課題について言及していきたいと思います。
スーパーシティ構想応募自治体の構想分析
1. 応募自治体の先端的サービスの取組みの方向性
(1) 応募自治体の抱える課題とスーパーシティ構想
スーパーシティ構想を掲げる応募自治体の地域課題として多く挙げられているのは、(ⅰ)少子高齢化・過疎化への対策や改善、(ⅱ)農村部、諸島部、山間部等の生活環境の利便性の向上、(ⅲ)地域資源や観光資源の活用性の向上、といった地域課題です。これらの地方自治体は、スーパーシティのデジタル化により、少子高齢化や過疎化が進んでいる地域でも住民の生活の質を向上させ、また地域資源を創出又は活用することにより地域の魅力を向上させて新たな住民の定着を課題解決の目標としています。
(2) 応募自治体の先端的サービスの構想
提案書では各応募自治体が実証実験等を通じて取り組むとされる、複数分野の先端的サービス(行政手続き、移動、物流、観光、医療、教育、決済、エネルギー・環境、防災等)の提案が行われており、応募自治体の概ねが先端的サービスのほぼ全ての分野において先端的サービスの提案を行っていましたが、その中でも特に各地域独自の以下のような地域環境や地域課題をテーマとして先端的サービスを行うことを提案している応募自治体もありました。
地域環境・地域課題 |
該当自治体 |
● 大学を中心とした産学連携により先端的サービスに取り組むとしている応募自治体 |
つくば市、仙台市等 |
● 自然災害の経験を踏まえて防災から発展した先端的サービスに取り組むとしている応募自治体 |
熊本県・人吉市共同等 |
● 空港や港湾を拠点とした先端的サービスに取り組むとしている応募自治体 |
愛知県・常滑市共同、石垣市等 |
● 農業や観光等、地域産業に関する取組みを特に中心にした応募自治体 |
北海道更別市、鎌倉市、和歌山県・すさみ町共同等、石垣市等 |
● 地域独自の地域課題について先端的サービスを通して解決しようとしている応募自治体 |
松本市の電気の異周波数問題等 |
各応募自治体の先端的サービスを俯瞰すると、応募自治体の特徴により応募自治体の地域環境の個性を強みにし、又は地域課題を補う取組みが構想されていました。
2. 応募自治体の具体的な取組み内容の分析
(1) 具体的な事業内容の分析
先にスマートシティの全体的概観をしましたが、ここからは、応募自治体の具体的な事業を紹介します。まず、多くの応募自治体が取り組んでいる事業を項目ごとに挙げ、分析します。今回、調査対象としたのは、スーパーシティ構想にエントリーした31の地方自治体の提案資料です。
(https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity_sckoubo2.html)
ア 行政のIT化
行政のIT化は、13の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。具体的な事業としては、行政手続きをデジタル化することを目標として、オンライン行政手続きやオンライン投票を可能とすることを施策として挙げています。
イ 医療・ヘルスケア
医療やヘルスケアに代表される健康への取組みは注目度が高く、29の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。
医療に関する事業としては、オンライン(遠隔)診療及びオンライン(遠隔)服薬指導を行う応募自治体が非常に多く、この事業はコロナ禍で非常に関心が高まっている事業であるといえます。また、個人の健康に関するデータを各医療機関で連携する取組みも見られました。
疾病予防の観点から行われる事業としては、ヘルスケアデバイス等を利用して健康に関するデータを収集し、生活上のアドバイスを行う事業が多くありました。また、データを利活用して生活を見守る事業も見られました。
このように、治療としての医療の側面だけでなく、疾病予防の面でも各応募自治体は積極的に事業を展開しようとしていることがうかがわれます。
ウ モビリティ
モビリティ分野は、21の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。この分野では、提案書の中で「MaaS」というキーワードを挙げる応募自治体が多くありました。その具体的内容は様々と思われますが、応募自治体が電車、バス、タクシー等の各交通機関の連携を重視していることがうかがわれます。
それ以外の事業としては、自動運転、乗合交通、交通需要予測等が挙げられていました。こういった事業は、交通における利便性の向上に加え、高齢者等の交通弱者に対する施策としての側面を有すると考えられます。
エ 物流
物流分野は、14の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。この分野では、提案書の中でドローンや既存の交通手段(タクシー等)の活用を挙げる応募自治体が多くありました。これらを宅配に用いることで、従来よりも物流を効率化する狙いがあると思われます。
また、移動式のスーパーマーケットを施策として挙げる応募自治体もあり、近くにスーパーマーケットがない高齢者等、買い物が困難である人々が買い物をしやすくなることが期待されます。加齢等の理由により買い物が困難となる問題は地方だけの問題ではなく、全国的に問題となっており、施策への注目度が高いものといえます。
オ 決済システム
この分野では、13の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。具体的には、地域通貨や地域ポイントの導入を挙げる応募自治体が多くありました。日本全国で使用できる通貨及びポイントとの使い分けが課題となり得るところですが、地域通貨や地域ポイントを導入することによって、当該地域内での経済活動の活性化が期待できると思われます。
カ 産業
この分野では、18の応募自治体が提案書の中で施策を挙げ、特に農業のスマート化を挙げる応募自治体が複数存在しました。農業の担い手不足は全国的な課題となっており、人材不足を解消するための施策として注目されていると思われます。
また、提案書の中で研究施設の誘致等の研究の支援を挙げる応募自治体も複数存在しました。1つのスマートシティ内で研究、社会実験等を行い、研究から実装を一体として行うことができる点に利点があると思われます。
キ 環境・エネルギー
この分野では、18の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。具体的には、電力に関する事業を挙げる応募自治体が多くありました。具体的には、再生可能エネルギーの活用、仮想発電所の建設等の施策がありました。施策は応募自治体ごとに多様であるものの、それぞれの応募自治体が環境に配慮したエネルギー施策を行っており、環境問題への意識の高さがうかがえます。
ク 観光
この分野では、9の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。具体的には、複合現実を観光に活用する施策やデータを活用した観光振興を目指す施策を挙げている応募自治体が存在しました。
ケ 教育
この分野では、15の応募自治体が提案書の中で施策を挙げていました。具体的には、オンライン学習といった学習手段のデジタル化を行う施策と、デジタルスキルを学校で学習するという学習内容の施策が挙げられていました。
オンライン学習はコロナ禍において注目度が向上し、地域における教育格差解消も期待ができ、デジタルスキルの学習についても、プログラミングの義務教育課等により注目度が高いところです。
コ 防災
この分野は20の応募自治体が施策を打ち出していました。具体的には、災害時においてはドローンによる災害状況の把握、EV車等の活用による電源の確保、平時においては住民の見守り等の施策が挙げられていました。
応募自治体において防災の分野の注目度は高く、平時の減災に向けた施策及び災害時に住民を安全に避難させ、命を守るための施策共に多くの応募自治体が取り組んでいました。
(2) 小括
以上で述べたように、医療・ヘルスケア、モビリティ、防災については非常に多くの応募自治体が施策を挙げていました。このように、スーパーシティ構想応募自治体は、誰でも安心して暮らせるまちづくりに向けた施策を多く挙げています。
先に述べたように、応募自治体ごとの特徴が表れた施策も多数存在するところ、このように基本的な施策については応募自治体が共通して取り組んでいます。
スマートシティを目指す地方自治体の課題(続編)
以上のとおり、スーパーシティ構想に応募した自治体の提案書から各応募自治体の構想を分析していきましたが、続編ではスマートシティに取り組んでいる地方自治体にインタビューをし、スマートシティ施策の実相を記事にすることを予定しております。スマートシティを推進していくにあたって、デジタルディバイドの問題で市民がスマートシティ施策の推進に消極的である、スマートシティに資金をかけることが本当に良いのかという市民からの疑問が呈されている、等の課題があるのか、またスマートシティ施策でのハードルとなっている法規制について実際の地方自治体の声とともに深堀りしていきたいと思います。
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※「スーパーシティ構想」について
スーパーシティ構想とは、「まるごと未来都市」の実現を地域と事業者と国が一体となって目指す取組みであり、内閣府地方創生推進事務局国家戦略特区担当によって推進されています。「まるごと未来都市」とは、①エネルギー・交通などの個別分野にとどまらず、生活全般にまたがり、②最先端技術の実証を一時的に行うのではなく、未来社会での生活を先行して現実にする、③その際、何より重要なことは、技術開発側・供給側の目線でなく、住民目線で理想の未来社会を追求することであるとされています(2019年2月14日付け「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会作成『「スーパーシティ」構想の実現に向けて最終報告』1頁)。
スーパーシティ構想の制度的枠組みを定めた「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」が令和2年5月27日に成立し、令和2年9月1日に関係政省令とともに改正法が施行されました。また、同年10月30日には、「国家戦略特別区域基本方針」の一部変更(同日閣議決定)が行われ、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定基準等が定められました。
これら改正後の国家戦略特区法、基本方針等に基づき、政府においてスーパーシティ型国家戦略特区を指定するため、地方公共団体に対し、特区として指定すべき区域、実施する先端的サービス、規制改革等に関し、幅広く提案が受け付けられ、その結果、合計31の地方公共団体から応募がありました。
各自治体が公募の際に提出した「スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する提案書」が公表されております(2021年8月16日現在)。