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【裁判例】令和2年(行ケ)第10075号 包装体及び包装体の製造方法事件
2021.11.05
判決の内容
容易想到性の判断には誤りがあるとして取消決定が取り消された事例。
事件番号(係属部・裁判長)
知財高裁令和3年3月11日判決(判決要旨)(判決全文)
令和2年(行ケ)第10075号(知財高裁第2部 森義之裁判長)
異議申立における取消決定に対する取消訴訟
事案の概要
発明の名称を「包装体及び包装体の製造方法」とする特許第6436439号に係る異議申立事件において、特許庁が訂正後の請求項2-6に係る発明(本件発明2-6)について進歩性を否定し特許を取り消す旨の決定を下したことに対して、特許権者である原告が取消しを求めた事案。原異議の決定において、特許庁は、本件発明2と甲1(特開2001-10663号公報)に記載の発明(甲1発明)との間の相違点1,2,3を認定した上で、相違点1,2,3のいずれも、当業者が容易に想到し得たものであると判断し、本件発明2の進歩性を否定した。
本判決は、相違点1~3の認定と、相違点1及び3の容易想到性の判断はいずれも本件異議の決定の判断に誤りはないとしつつも、相違点2の容易想到性に関して、甲1発明と甲3(特開2009-143605号公報)に記載された発明は課題においてもその解決手段においても共通性は乏しいから、甲3に記載された事項を甲1発明に適用することが動機付けられているとは認められないというべきであり、甲1発明及び甲3に記載された事項に基づいて相違点2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、本件決定の判断には誤りがあるなどとして取消決定を取り消した。
主な争点に対する判断
(1) 結論
甲1発明及び甲3記載事項に基づいて相違点2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、本件発明2~6について、甲1発明及び甲1~4記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件異議の決定の判断は誤りである。
(2) 理由
ア.本件発明2の特徴
本件発明2は、蓋付容器が環状フィルムで包装された包装体に関するものであって、装置を用いて自動的に蓋付容器を環状フィルムで包装することができ、かつ、非熱収縮性フィルムの端部と熱収縮性フィルムの端部との間に十分な接着力が生ずる環状フィルムとすることができる包装体に関するものである。本件発明2に係る本件特許の訂正後の特許請求の範囲の請求項2の記載は以下のとおりである。
「上面開口部を有する容器本体と上記上面開口部を閉塞する蓋体とを備えた蓋付容器を、非熱収縮性フィルムと熱収縮性ポリエステル系フィルムとからなる環状フィルムで包装した包装体であって、
上記非熱収縮性フィルムは、ポリエステル系フィルムにヒートシール層を積層したものであり、厚さが8μm以上30μm以下であり、150℃の熱風中で30分間熱収縮させたときの長手方向の収縮率が5%以下、幅方向の収縮率が4%以下であり、
上記非熱収縮性フィルムは、上記蓋付容器の上面に対応する位置に設けられており、
上記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ポリエステルの全構成ユニットを100モル%として、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含み、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニットとテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットとの合計が10モル%以上であり、非晶質成分となりうるモノマーとして、ネオペンチルグリコール及び/又は1、4-シクロヘキサンジメタノールが含まれたポリエステル系樹脂からなり、90℃の温水中で10秒間熱収縮させたときの長手方向の熱収縮率が10%以上60%以下であり、幅方向の収縮率が30%未満であり、
上記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記蓋付容器の下面に対応する位置に設けられており、
上記熱収縮性ポリエステル系フィルムの両端部と上記非熱収縮性フィルムの両端部とが蓋付容器の両側面で接続されて上記環状フィルムとなっている
ことを特徴とする包装体。」
イ.相違点2について
本件発明2と甲1発明との相違点のうち相違点2は以下のとおりである。
本件発明2は、「熱収縮性ポリエステル系フィルム」であって、「ポリエステルの全構成ユニットを100モル%として、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含み、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニットとテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットとの合計が10モル%以上であり、非晶質成分となりうるモノマーとして、ネオペンチルグリコール及び/又は1、4-シクロヘキサンジメタノールが含まれたポリエステル系樹脂からなり、90℃の温水中で10秒間熱収縮させたときの長手方向の熱収縮率が10%以上60%以下であり、幅方向の収縮率が30%未満であ」るのに対し、甲1発明は、熱収縮率は50%(at.90℃熱水×10秒)ではあるものの、そのように具体的に特定されていない点
ウ.甲1発明に甲3記載事項を適用する動機付けの有無について
裁判所は、特許庁の「甲1発明と甲3記載事項は、熱収縮という作用、機能が共通する」との主張や「甲1発明と甲3記載事項とでは、ポリエステルフィルムを用いている点が共通する」との主張について、「熱収縮は、通常、弁当包装体が持つ基本的な作用、機能の一つにすぎないことを考慮すると、被告の上記主張は、実質的に技術分野の共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく、動機付けの根拠としては不十分である」、「包装体用の熱収縮性フィルムを、ポリエステルとすることは、本件特許の出願前の周知技術・・・であると認められ、ポリエステルは極めて多くの種類があること(乙5)からすると、材料としてポリエステルという共通性があるというだけでは、甲1発明において、熱収縮性フィルムとして、甲3記載事項で示される熱収縮性フィルムを適用することに動機付けがあるということはできない」とした上で、「甲1発明と甲3に記載された発明は、課題においてもその解決手段においても共通性は乏しいから、甲3に記載された事項を甲1発明に適用することが動機付けられているとは認められない」とし、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないと判断して、本件決定を取り消した。
コメント
文献の組み合わせの動機付けについて判断された事例である。
主引用発明に副引用発明を適用する動機付けとして、審査基準には(1)技術分野の関係性(2)課題の共通性(3)作用、機能の共通性(4)引用発明の内容中の示唆等を総合考慮して判断されるとされているところ、本判決においては、熱収縮という作用は「弁当包装体が持つ基本的な作用、機能の一つにすぎない」ため、実質的には(1)技術分野が共通するに過ぎず、動機付けの根拠として不十分であるというべきと判断された。また、文献の組み合わせの動機付けとして材料の共通性を指摘される場合があるが、当該材料を用いることが周知技術であるとか、当該材料には極めて多くの種類があるとの事情がある場合は、材料の共通性があるというだけでは文献の組み合わせの動機付けがあるとまではいえないことを示唆している。
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