ブログ
【中国】【不正競争防止法】最高人民法院による反不正当競争法に関する新たな司法解釈の公表について
2022.03.23
中国最高人民法院は2022年3月16日付けにて、「反不正当競争法の適用に関する若干の問題の解釈」という新たな司法解釈を公表しました。中国の反不正当競争法(以下、「不競法」)は、2018年と2019年に2度改正されており、そのうちの営業秘密の侵害行為については2020年に司法解釈が出されましたが、それ以外の不競法全体を対象とした司法解釈は、改正前の2007年に公表されたものしか存在しませんでした。今般、改正後の条文を対象とした新たな司法解釈が公表され、3月20日から施行されたことに伴い、2007年の司法解釈は廃止されました。
新司法解釈は全29条から成り、主に、近年増加している新たなタイプの不正競争行為への対応を念頭に、不競法第2条の一般条項の適用基準や、ネットワーク上の不正競争行為に対する具体的な判断基準を定めています。また、不競法に関する事件の中でも特に件数の多い模倣行為について、多くの条文を割いて具体的な判断基準を定めています。更に、不競法と、著作権法・専利法・商標法との関係の整理についても、若干の規定を設けています。以下、その主な内容を速報として簡単にご紹介します。
不競法第2条の一般条項の適用基準について
不競法第2条第1項には、「事業者は、生産経営活動において、自由意思、平等、公平、信義誠実の原則を遵守し、法律及び商業道徳を遵守しなければならない」との規定が設けられています。この一般条項は、近年、人民法院が新たなタイプの不正競争行為について判断する際の根拠条文の一つとして活用されています。本司法解釈では、市場の競争秩序を乱し、競争関係にある他の事業者又は消費者の合法的権益に損害を与える行為でありながら、不競法の第2章に規定された各種の不正競争行為や、専利法・商標法・著作権法等の規制対象となる行為の類型に当てはまらない場合に、上記の一般規定を適用できることが改めて規定されました(解釈第1-2条)。これにより、不競法第2条の適用場面、及び、競争関係のある場合にのみ適用されるという性質が、明確になったと考えられます。
また、不競法第2条の一般条項の適用にあたっては、特に商業道徳の遵守を重視する姿勢が打ち出されました。この「商業道徳」について、本司法解釈では、特定の商業領域で普遍的に遵守され認められている行動規範、と定義されています。また、商業道徳に反するか否かの判断は、各事案の具体的状況と結びつけ、業界内のルール及び商慣行、事業者の主観的状態、取引相手の選択意思、消費者権益・市場の競争秩序・公共の利益への影響等を総合的に考慮して行うとされています(解釈第3条)。
模倣行為の具体的判断基準について
不競法第6条は、「他人の一定の影響力のある商品の名称、包装、装飾等と同一又は類似の標章」、「他人の一定の影響力のある企業名称、社会組織名称、氏名」、「他人の一定の影響力のあるドメイン名の主体部分、ウェブサイト名称、ウェブページ等」を許可なく使用し、他人の商品である又は他人と特定の関係があるとの誤認混同を関連公衆に生じさせる行為等を、不正競争行為として規定しています。本司法解釈では、同条に関する具体的な判断基準が多数、示されました。
まず、2018年の改正で、従来の「他人の知名な」商品の名称等という表現にかわって導入された、「他人の一定の影響力を有する」商品の名称等という規定について、市場での一定の知名度、及び商品の出所を区別できる顕著な特徴を有する標章が、「一定の影響力を有する」標章と認められることが明記されました。標章の有する市場での知名度の判断には、中国国内の関連公衆への知名度、商品販売の期間・地域・数量・対象、宣伝の持続期間・程度・地域、及び、標章が保護を受けている状況等の要素が総合的に考慮されることが規定され(解釈第4条)、顕著な特徴についても具体的判断基準が示されました(解釈第5-6条)。
また、商品の「装飾」は、営業場所の装飾、営業用品のデザイン、営業人員の服装等から構成される独特の風格を持つ全体としての営業イメージを意味すると定義され(解釈第8条)、「企業名称」については、中国で登記された企業名称の他に、中国国内で商業的に使用されている国外企業の名称も含むことが明記されました(解釈第9条第1項)が、これらは2007年の司法解釈にも含まれていた内容です。
更に、模倣行為についても、専利法や商標法と同様の販売者による合法的出所の抗弁が認められること(解釈第14条第2項)、民法典の規定に基づく共同侵害行為が成立すること(解釈第15条)が規定されました。また、不競法第6条に規定の標章又はその識別部分が、商標法第10条第1項の使用禁止規定に該当する場合、不競法による保護も受けられないことが改めて明記されました(解釈第7条)。
虚偽宣伝行為の具体的判断基準について
不競法第8条では、商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザ評価、受賞歴等について虚偽の又は人を誤解させる商業宣伝行為を、不正競争行為として規定しています。本司法解釈では、この虚偽宣伝行為について、関連公衆を欺き、誤った方向に導いたか否かが重要な判断基準であることが示されました(解釈第16条)。具体的には、2007年の司法解釈では、商品に対する一面的に偏った宣伝又は対比等の3つの類型が虚偽宣伝にあたるとされていましたが、本司法解釈では、更に、「誤解を生じさせるに足るその他の宣伝行為」を適用対象とする包括条項が設けられ、様々な類型の虚偽宣伝行為に適用されていくことが予想されます(解釈第17条)。
ネット上の不正競争行為の具体的判断基準について
2018年の法改正で導入された不競法第12条は、ネットワーク上の不正競争行為について定めていますが、本司法解釈では、その判断基準が、より具体的に規定されました。それによれば、他の事業者やユーザの同意なく強制的に画面を遷移させる行為は不正競争行為にあたりますが、リンクを挿入しただけで画面遷移はユーザがトリガーするものである場合は、リンクの具体的な挿入方式、リンクに合理的理由があるか、ユーザ及び他の事業者の利益への影響等を考慮して判断するとされています(解釈第21条)。また、事前の提示やユーザの合意なしに他の事業者が提供したネットワーク商品・サービスを変更・終了・アンインストールさせるようユーザを誤って導き、騙し、又は脅迫する行為を不正競争行為と規定しています(解釈第22条)。
損害賠償について
不競法第17条第4項では、同法第6条の模倣行為、及び第9条の営業秘密侵害行為について、侵害行為による権利者の損失又は侵害者の利益が確定できない場合に、人民法院が状況に応じて賠償額を確定する、いわゆる法定賠償の採用を認めています。本司法解釈では、この法定賠償の適用対象を、第2条の一般条項、第8条の虚偽宣伝行為、第11条の信用棄損行為、第12条のネットワーク上の不正競争行為にまで拡大しました(解釈第23条)。
また、本司法解釈では、同一とみられる侵害行為に対し人民法院が既に著作権・専利権・商標権等の侵害を認定し、且つ民事責任を負うことを命じている場合、更に不競法に基づく民事責任を追及することはできないと規定しており、重複しての訴訟を制限する規定と理解できます(解釈第24条)。
不正競争事件の裁判管轄について
不正競争行為に関する民事訴訟の管轄権は、侵害行為地又は被告所在地の人民法院にあることを明確にした上で、ネット上で販売される商品について、購入者が任意に選択できる商品受領地のみをもって侵害行為地とする主張は認めないとしています(解釈第26条)。ただし、不正競争行為が中国国外で発生しているが、権利侵害の結果が中国国内で発生している場合、結果の発生地の人民法院に管轄権を与えると規定しています(解釈第27条)。
以上の通り、中国の不競法に関する新たな司法解釈は、中国政府による知的財産の保護強化の大きな流れの中で、近年増加している新たなタイプの不正競争行為に対応すると同時に、不正競争行為に対する実効的な保護を拡大するものです。本司法解釈の施行により、不正競争行為を受けた企業にとっては、より実効性・利便性の高い保護が期待できます。一方、自らの行為が不正競争行為に問われることのないよう、本司法解釈に基づく今後の人民法院の運用を注視していく必要があります。本司法解釈は、施行日に人民法院に審理が係属している事件に即日適用されます。
Member
PROFILE