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【ブロックチェーンブログ】ステーブルコイン(2)
2022.03.30
はじめに
前回のブログ(開始のお知らせ/ステーブルコイン(1))では、ステーブルコインに関する海外の規制動向に触れました。今回は、ステーブルコインに関する日本の規制動向や改正案の規制対象などについて解説いたします。ステーブルコインに関する仲介者規制の概要については、次回に解説することにします。
ステーブルコインに関する日本の規制動向
日本では、2022年1月11日、金融審議会から「資金決済ワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」といいます。)が公表され、ステーブルコインに関する規制の方向性が示されました(※1)。
このWG報告を受け、2022年3月4日、金融庁からステーブルコインの仲介者に関する規制を含む「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます。)が国会に提出されています(※2)。
本改正案は、未成立の段階ですが、本改正案のうちステーブルコインに関する規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされています(改正案附則1条本文)。
(※1)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220111.html
(※2)https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html
本改正案におけるステーブルコイン規制の対象
前回のブログで解説したとおり、ステーブルコインは、日本法の現行制度の考え方に基づけば、価値を安定させる仕組みによって、以下のとおりデジタルマネー類似型と暗号資産型に分類できると考えられています(※3)。
a. デジタルマネー類似型
法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(及びこれに準ずるもの)
b. 暗号資産型
デジタルマネー類似型以外(アルゴリズムで価値の安定を試みるもの等)
本改正案は、このうち、デジタルマネー類似型のステーブルコインと既存のデジタルマネー(預金・未達債務)を規制対象とするものです。
また、本改正案は、デジタルマネー類似型のステーブルコインと既存のデジタルマネーの「移転・管理を行う者」(以下「仲介者」といいます。)について、新たに業規制を導入するものです。
デジタルマネー類似型のステーブルコインの「発行者」については、その発行・償還する行為は為替取引に該当し、銀行業免許又は資金移動業登録が必要であり、本改正案によって、新たに規制の対象となるものではありません(※4)。ただし、信託会社が発行者となる信託受益権スキームが創設されます。
以上に対し、暗号資産型のステーブルコインについては、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)の暗号資産又は金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)上の有価証券に該当し得ると考えられており(※5)、本改正案では、新たな業規制の導入は予定されていません(※6)。
なお、ステーブルコインが資金決済法上の暗号資産に該当する場合には、現行制度上、発行者としての規律はなく(※7)、暗号資産の売買・交換・これらの媒介等・管理を行う者は、暗号資産交換業者として規制されます。
また、ステーブルコインが金商法に規定する有価証券に該当する場合には、金商法に規定する開示規制や業規制などが適用される可能性があります。
(※3) WG報告第2章1.(3)(17頁、18頁)。
(※4) WG報告第2章1.(2)(16頁)、同(3)(22頁)。なお、発行者に係る規制の在り方は引き続き検討するとされており(金融庁説明資料(https://www.fsa.go.jp/common/diet/208/03/setsumei.pdf)(以下「説明資料」といいます。5頁)、今後の動向に留意が必要です。
(※5) WG報告第2章1.(3)(18頁)。
(※6) なお、本改正案において、有価証券は原則として規制対象となる「電子決済手段」から除外されますが、有価証券(例えば、国債や社債など)であっても「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるもの」は「電子決済手段」から除外されない点に留意が必要です(改正資金決済法(案)2条5項)。この点は、前払式支払手段も同様です。
(※7) 暗号資産型のステーブルコインには、暗号資産と価値が連動するステーブルコインも含まれ得ると考えられますが、EU の規制案では、複数の暗号資産を組み合わせて価値安定を図るものも含む資産参照型トークンについて、発行者に対する開示義務等を課すこととされています。発行者規制の要否等については、今後の利用実態や諸外国の制度整備の動向等も踏まえつつ、検討するとされていますので、今後の動向に留意が必要です(WG報告第2章1.(3)19頁、説明資料5頁)。
ステーブルコインに関する仲介者規制の必要性
ブロックチェーンは、ネットワークへの参加に制約のないパーミッションレス型のものと、ネットワークへの参加に管理者による許可を要するパーミッション型のものに大別されます。パーミッションレス型のブロックチェーンを用いたステーブルコインは、誰でも管理者による許可なしに自由にネットワークへ参加することができ、誰でも自由にブロックチェーン上のステーブルコインを移転したり、管理するサービスを顧客に提供することがその仕組み上可能です。現時点では、米国等における主なステーブルコインは、いずれもパーミッションレス型のブロックチェーンが用いられており、実態として発行者と移転・管理等を行う仲介者が分離した態様で発行され、流通しています。
このような発行者と仲介者が分離するようなステーブルコインについて、日本の現行制度では、その適用関係が必ずしも明確ではなく、発行者と仲介者の分離を想定した法制度の構築の必要性があるとして、本改正案において、ステーブルコインに関する仲介者規制が導入されることとなりました(※8)。
(※8) ただし、本改正案は、パーミッションレス型のブロックチェーン(分散台帳)を利用する場合のみを対象とするものでなく、パーミッション型を利用する場合を明示的に対象から除外するものではありません。また、ブロックチェーンを利用しない場合を対象から除外するものでもありません。
ステーブルコインのスキームのパターン
WG報告では、現行制度の下で発行者と仲介者が分離することを想定する仕組みとして、以下の3パターンが示されていました(※9)。
本改正案では、①の仲介者の業務は銀行法において「電子決済等取扱業」として、②③やこれら以外のスキームの仲介者の業務は資金決済法において「電子決済手段等取引業」として、規制されることになります。
① 銀行の預金債権スキーム
銀行の口座振替時における預金債権の発生・消滅についての現行実務を前提としたものとして、銀行から代理権を付与された仲介者が、個々の利用者の持分を管理し、振り替える仕組み(発行者である銀行は総額のみを管理)
② 資金移動業者の未達債務スキーム
資金移動業者の未達債務について、資金移動業者から代理権を付与された仲介者が、個々の利用者の持分を管理し、振り替える仕組み(発行者である資金移動業者は総額のみを管理)
③ 信託受益権スキーム
信託法制が適用されるものとして、受益証券発行信託において、銀行に対する要求払預金を信託財産とした信託受益権を仲介者が販売・移転する仕組み
(※9) WG報告第2章1.(6)(23頁)。
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