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垂直的協定に関するEU競争法の改正
2022.04.08
欧州委員会の現在の垂直的協定に関する一括適用免除規則(注1)及び同規則ガイドライン(注2)が2022年5月31日に失効して、垂直的協定について新しいEU競争法のルールが適用されることになります。
垂直的協定とは、EU競争法の定義に従えば、製品やサービスに関して異なるサプライチェーンのレベルで活動する事業者間の合意とされています。端的にいえば、商流の中で上流と下流にいる事業者間の契約であり、典型的には、原材料提供者とメーカーとの間の供給契約やメーカーと販売店や代理店等との間で締結される販売店契約、代理店契約、フランチャイズ契約など物の流通やサービスの提供に関する合意です。
メーカーであれば、自社の製品を最終消費者まで届けるため流通システムがない会社はありません。垂直的協定に関するルールは、メーカーが日常的に締結する販売店や代理店との間の契約で問題となります。販売店や代理店との契約で競争を制限する合意のことを垂直的規制といいます。例えば、販売店契約で、販売店が販売できる価格、地域、方法又は対象とする顧客について、メーカーが規制するような条項がこれに当たります。販売店契約で販売業者に対して一定以上の価格で販売する、排他的販売地域を設定する、ネットでの一般的に販売を禁止する、最終消費者への販売を制限するといったような合意をする場合、EU競争法の適合性を検討しておく必要があります。近時、多くの日系企業が垂直的規制に関してEU競争法違反で摘発されているので注意が必要です。
現在の垂直的協定に関する一括適用免除規則及び同規則ガイドラインが制定された10年前と比べて、市場構造や事業者の流通モデルは大きく変化しました。デジタル化の影響により、また最近ではコロナの影響もあり、インターネットでの販売が活発に行われるようになっています。自社の製品がインターネット上で自由に販売されることを望まないメーカーは、流通業者に対して、伝統的な流通モデルでは想定されていなかった垂直的規制をするようになっています。他方、メーカー自身もネット販売を通じて自社製品を直接消費者へ販売することができるようになり、その場合、メーカーと流通業者は、最終消費者への販売という点に関しては「垂直的」な関係ではなく、「水平的」な関係にあり競合しているとも考えられます(デュアル・ディストリビューション(Dual Distribution)と呼ばれています)。さらに、インターネットでの販売が活発になると、その取引の場であるプラットフォームを提供しているアマゾンやグーグル等のような、いわゆるプラットフォーマーに対する規制も問題となってきます。このような状況で、垂直的規制に関する現在のEUのルールは少し時代遅れになっていました。
欧州委員会が公表した新しい垂直的協定に関する一括適用免除規則案及び同規則ガイドライン案では、マーケットプレイスなどのプラットフォームでの販売についての規制、オンラインと店舗で販売する事業者間の価格差、デュアル・ディストリビューション、ネットでの広告規制、再販売価格維持、最安値での提供を約束する条項(パリティ条項)といった事項等に関して、改正がされる予定です。ブレグジットの結果、英国では英国競争市場庁(Competition and Markets Authority)が欧州委員会とは別に垂直的規制に関する新たなルールを現在検討しています。そのため、垂直的規制に関してEUと英国でのルールがどの程度異なることになるかについても、注目する必要があります。
垂直的協定に関するEU競争法は、多くの日系企業にも適用される可能性があります。自社の市場シェアが少なくても、市場における競争を著しく制限するような「ハードコア競争制限」に該当する垂直的規制については、市場シェアの大小にかかわらず、競争当局から摘発されるリスクがあります。垂直的協定に関する新しいEU競争法ルールが制定された際には、改めて自社が締結している販売店契約や代理店契約等の垂直的協定について、EU競争法への適合性を検討されることをお勧めします。
(注1)Commission Regulation (EU) No 330/2010 of 20 April 2010 on the application of Article 101(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union to categories of vertical agreements and concerted practices
(注2)Guidelines on Vertical Restraints
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