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【ヘルスケア】令和4年3月改正 オンライン服薬指導に関する規制のポイント
2022.06.03
はじめに
コロナ禍の特例及び令和4年3月31日薬機法施行規則改正によるオンライン服薬指導の規制緩和により、患者がオンラインで調剤薬を購入する方法が大幅に認められるようになりました。
本ブログでは、オンライン服薬指導に関する規制の改正経緯及び内容を概観するとともに、オンライン服薬指導ビジネスの設計時に見落としがちな法令上の留意点を解説します。
※オンライン診療についてはこちら→https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2022/13206.html
服薬指導とは
服薬指導とは、医師が交付した処方箋に基づく調剤薬の適正な使用のために、薬剤師が患者に対して行う、薬剤の名称、用法用量、使用上の注意等についての情報提供や薬学的知見に基づいた指導をいいます。
病院でもらった処方箋を薬局に持参すると、薬を受け取る際に、薬剤師から「このお薬は1日3回、食後に飲んでください。」「このお薬を飲んだ後は、眠くなる可能性があるので、車の運転を控えてください。」などの説明を受けると思いますが、これが「服薬指導」です。
※なお、「服薬指導」には、調剤薬以外の薬局医薬品やOTC医薬品(要指導、一般用医薬品)に係る服薬指導もありますが、本ブログにおいては調剤薬に関して説明しています。
オンライン服薬指導に関する規制の改正経緯と内容
(1)令和元年薬機法改正―オンライン服薬指導解禁―
従前は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)により、この服薬指導は対面で行うことが義務付けられていました。これは、薬剤師による服薬指導は、薬剤師が直接患者の状態を観察して行う必要があるという考え方によるものです。これにより、患者は、原則として医師の処方箋による調剤薬剤を購入するためには、薬局に実際に行く必要がありました。
もっとも、映像通信技術の進歩に伴い対面を必須とする必要性が減少し、同様に解禁されたオンライン診療の規制整備の流れに伴って、令和元年改正薬機法(令和2年9月1日施行)により、オンライン服薬指導が一部例外的に解禁されました。
(2)令和2年4月10日事務連絡-コロナ禍の時限的特例-
しかし、この令和元年改正薬機法が施行される前に新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じ、厚生労働省は、令和2年4月10日に「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」という事務連絡(以下「0410事務連絡」といいます。)を発出して、さらに大幅にオンライン服薬指導の規制を超法規的・時限的に緩和しました。
この規制緩和では、初回の服薬指導でもオンライン服薬指導が可能になったり、どの診療の処方箋でもオンライン服薬指導が可能となるなど、オンライン服薬指導が大幅に利用しやすくなりました。
但し、0410事務連絡の適用期間は、あくまで「感染が収束するまでの間」とされており、上記の規制緩和は時限的な措置とされていました。
(3)令和4年3月31日薬機法施行規則改正-コロナ禍特例の恒久化-
そして、上記のコロナ禍の時限的特例を恒久化すべく、厚生労働省は、令和4年3月31日、オンライン服薬指導の具体的要件を定める薬機法施行規則を改正しました。改正薬機法施行規則は、0410事務連絡の内容と一部異なる点はありますが、基本的には、コロナ禍の超法規的特例をそのまま法制化する内容となっています。但し、新型コロナウイルスの感染が収束するまでは0410事務連絡が優先して適用され、コロナ収束後に初めて改正薬機法施行規則下の運用となります(※1)。
なお、改正薬機法施行規則の適用下においては、通信方法として映像及び音声による通信が必要(ビデオ通話等が必要)とされている点には注意が必要です。
【表 オンライン服薬指導に関するルールの改正経緯】
|
令和元年改正薬機法 |
0410事務連絡 |
令和4年3月改正薬機法施行規則 |
初回 |
初回はオンライン服薬指導不可 |
初回からオンライン服薬指導可 |
初回からオンライン服薬指導可 |
通信方法 |
映像及び音声 |
音声のみで可能 |
映像及び音声 |
薬剤師 |
原則として初回の対面服薬指導を行った薬剤師と同一の薬剤師 |
かかりつけ薬剤師・薬局や、患者の居住地にある薬局により行われることが望ましい |
かかりつけ薬剤師・薬局により行われることが望ましい |
処方箋が交付された診療の形態 |
オンライン診療又は訪問診療のみ |
すべての診療(対面診療も可) |
すべての診療(対面診療も可) |
薬剤の種類 |
これまで処方されていた薬剤又はこれに準じる薬剤 |
すべての薬剤 |
すべての薬剤 |
服薬指導計画 |
策定必要 |
規定なし |
策定不要 |
※1:「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関するQ&A」の改定について(その2)(事務連絡 令和4年3月31日)Q4
オンライン服薬指導サービスにおける法令上の注意点
こうした規制緩和の流れを受けて、処方箋の送信が容易にできるアプリや、薬局の検索や予約ができ、オンライン服薬指導が受けられるサービスなど、オンライン服薬指導に関する様々なサービスが展開されています。これらのサービス設計において比較的見落とされがちなルールとして、以下の点にご留意ください。
① コロナ収束後はビデオ通話によるオンライン服薬指導が必要になること ……上記3.のとおり、0410事務連絡では電話(音声のみ)によるオンライン服薬指導が認められていますが、コロナ収束により0410事務連絡が廃止された後は、ビデオ通話等(映像及び音声)によることが必要になります。 |
② 調剤薬局は、患者からオンラインで送信された処方箋情報のみでは調剤薬を販売・交付できないこと ……薬局がオンラインで送信された処方箋情報のみで調剤薬を販売・交付できるのは、医療機関から送信された処方箋情報の場合のみです(※2)。患者が処方箋情報をオンライン送信しても、薬局は処方箋原本を(郵送等により)受領するまで調剤薬を販売・交付できません(なお、患者が薬局に処方箋情報を送信した後、処方箋原本を薬局に持参して対面で服薬指導を受けることはなんら問題ありません。)。 |
③ 保険医療機関は、特定の調剤薬局で調剤を受けることを患者に指示等できないこと ……医療機関が処方箋を薬局に送信できることを患者に案内する際、処方箋送信ができる特定の調剤薬局を強く勧めたりしてしまうと、療担規則(※3)が禁止する患者誘導(特定の薬局で調剤を受けることの指示等)と評価される可能性があります。 |
④ オンライン診療/服薬指導システムの利用料が、実態として患者紹介の対価と評価されるものであってはならないこと ……オンライン診療システムやオンライン服薬指導システムを提供している事業者が、保険医療機関や調剤薬局から得るシステム利用料を、実態として患者の紹介に対して課金されるような料金設定にすると、療担規則や薬担規則(※4)が禁止する患者紹介対価による患者誘引と評価される可能性があります。 |
⑤ 医療広告規制との関係 ……上記システム上で、患者向けにオンライン診療や処方箋送信ができる医療機関を掲載する際、医療法上の広告規制との関係にも注意が必要です。 |
※2:令和4年3月31日の薬機法施行規則改正後においても、処方箋のオンライン送信(FAXやEメール等による処方箋情報の送信)に関しては、①患者本人の申出がある場合に、②医療機関から(患者本人からは認められていない)、③FAXやメール等により処方箋情報を送付することにより、④薬局において処方箋原本を受領していなくとも、調剤等を行うことができるものとされています(末尾掲載「オンライン服薬指導における処方箋の取扱いについて」)。
※3:保険医療機関及び保険医療養担当規則
※4:保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則
【関連通達等】
- 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」(薬生発0331第36号 令和2年3月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000650601.pdf - 「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(事務連絡 令和2年4月10日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000620865.pdf - 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について(オンライン服薬指導関係)」(薬生発0331第17号 令和4年3月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000922763.pdf - 「オンライン服薬指導における処方箋の取扱いについて」(事務連絡 令和4年3月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000922774.pdf - 「「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関するQ&A」の改定について(その2)」(事務連絡 令和4年3月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000923300.pdf