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【マレーシア】マレーシアの汚職防止法-2020年施行の改正法をふまえて-
2022.06.10
はじめに
マレーシアでは、2020年6月に、汚職防止を定めているマレーシア汚職防止法の改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission(Amendment)Act 2018)が施行されました。
改正法が施行される前は、汚職を行った従業員が責任を負うことになっていましたが、改正法により、汚職防止のための適切な措置を講じていた又は必要な注意を払ったことの証明がない限り、汚職に直接関与していない会社や取締役等も責任を負うことになりました。
施行後2年程度経過しておりますので、いまいちど留意点をご確認いただければと思います。
汚職防止法とは
マレーシアでは、2009年に汚職防止を定める汚職防止法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)が制定されています。同法では、刑法(Penal Code)で規定されている公務員の収賄罪に加えて、民間人・民間企業への贈賄なども広く規制されています。
具体的には、汚職防止法第16条は、自ら又は他の者と共同して、汚職の意図をもって、作為又は不作為の誘因又は見返りとして、便益を要求し、受け取ることに合意し、便益を供与し、又は供与を約束・申し出を行った場合、罰則の対象となると定めています。
そして、その行為の主体は、公務員(officer of a public body)に限定されておらず、全ての者(any person)とされているため、公務員に限らず民間人・民間企業同士でも汚職が成立することとなります。
また、同法は、その他にも個別に公務員の汚職についても規定しています(Bribery of officer of public body、Bribery of foreign public officials、Offence of using office or position for gratification等)。
いずれにしても、改正法の施行前は、これらは基本的に汚職行為を行った者(自然人)が刑事責任を負うものとなっていました。
改正法の内容
ところが、2018年5月4日に公布され、2020年6月1日に施行された改正法では、これまでと異なり、汚職行為を行った自然人だけでなく、その自然人が所属する会社や取締役等も責任を負うものとされました。
具体的には、汚職防止法第17A条は、会社関係者が、会社のために事業を得るもしくは保持する、又は会社のために事業遂行上の利益を得るもしくは保持する意図をもって、便益を供与し、供与することに合意し、約束し又は申し出た場合には、当該会社が処罰の対象となるとしています。
この場合、会社が処罰を免れるためには、会社は、会社関係者による汚職を防止するための適切な措置を講じていたことを立証する必要があります(汚職防止法17A条(4))。
※上記では、分かりやすさのために「会社」という表現を使用していますが、厳密には、(a)マレーシア 2016年会社法に基づき設立され、事業を行っている会社、(b)設立地を問わず、マレーシアにおいて事業の全部もしくは一部を行っている会社、(c)マレーシア1961年パートナーシップ法に基づくもので事業を行っているパートナーシップ、(d)マレーシア2012年LLP法に基づき登録され、事業を行っているLLP、及び(e)組成地を問わず、マレーシアで全部もしくは一部の事業を行っているパートナーシップをいうとされています(汚職防止法17A条(8))。
また、汚職が行われた時点で、その会社の取締役等(director、controller、officer、partner)又は当該事象の管理に関与していた者についても、同様に処罰の対象となるとされています(汚職防止法第17A条(3))。
もっとも、その者が、その者の明示又は黙示の同意に基づかず当該汚職行為が行われ、職務の性質及び状況に照らして行うべき汚職防止のための注意を払ったことを立証した場合には、処罰を免れることができるとされています。
会社や取締役等の罰則については、(i)汚職行為の対象となった便益の価値の10倍以上(当該便益が金銭的評価が可能な場合)、又は100万リンギットのいずれか高い方の金額の罰金、(ii)20年以下の禁固刑、又は、(iii)その併科、とされています(汚職防止法第17A条(2))。これらの罰則は、マレーシアの他の法令における罰則と比べ、かなり重いものといえます。
そして、マレーシア首相府は、2018年12月10日に、会社が講じるべき適切な措置についてのガイドラインを公表し、以下の5つの原則を提示しています。
①経営陣によるコミットメント
②定期的なリスクアセスメントの実施
③会社の性質や規模に応じた管理方法の実施
④汚職防止のシステムのモニタリングの実施
⑤定期的な従業員教育の実施
同ガイドラインでは、上記③の管理方法として、役職員、取引相手、コンサルタント等に対するデューデリジェンスの実施、内部通報窓口の設置、社内規程の整備(贈収賄防止、接待・交際費、寄付・政治献金、ファシリテーションペイメント等に関する社内規程)などが求められています。
対応方針について
このように、マレーシアでは従来から、公務員だけでなく民間人・民間企業同士でも汚職行為が成立するという点で留意が必要でしたが、前述のとおり、2020年に施行された改正法により、実際に汚職行為を行った者だけでなく、その者が所属する会社やその当時の取締役等も、汚職防止法上の責任を負うことになりました。
これにより、特にマレーシアに進出している日系企業のマネジメント層の皆様も、自ら関与していないにもかかわらず、従業員が汚職行為を行ったことにより直接責任を負う可能性があります。
こうしたリスクに備えるためには、日本において行っている汚職防止のための従業員のコンプライアンス教育等に加えて、マレーシアの汚職防止法に沿った適切な措置を講じておくことが重要になります。
具体的には、前述のマレーシア首相府が公表しているガイドラインに定める原則を踏まえた対応が必要となります。
マレーシアでは汚職の摘発は頻繁に行われており、当局のおとり捜査も活発です。これは、公務員への賄賂だけではなく、民間人・民間企業間の賄賂についても同様です。すでにマレーシアで事業を行われている方や、これからマレーシアで事業を行おうとしている方におかれましては、上記のような対応を適切に採ることができているか、ご確認いただければと思います。