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【欧州法務ブログ:スウェーデン進出・スウェーデン企業のM&A実施前に知っておきたい基礎知識】 第1回:どういった会社形態が一般的?
2022.07.20
はじめに
TMI総合法律事務所では、ロンドンオフィスやフレンチデスクに加えて、各国の法律事務所との協働・連携により、欧州各国におけるビジネスに対しても、リーガルサービスを提供しております。
TMI欧州プラクティスグループでは、欧州でビジネスを展開する際に情報があると有益な各国の法制度等について発信しており、本ブログでは、北欧最大の国であるスウェーデンに焦点を当てて、同国においてビジネスを展開する上で必要となる基礎知識や法制度等をご紹介します。
スウェーデンの基礎情報
スウェーデンの法制度は、制定法と判例法の組み合わせに基づくものであり、欧州連合(EU)の加盟国であるため、欧州連合の法律もスウェーデンの法体系の一部となっています。同国の約1000万人の人口の多くは、スウェーデン語に加え、英語も流暢に使用し、外国からの投資は原則として自由です。SDGsのランキングでは常に上位であり(2021年Sustainable development Reportでは2位)、ジェンダーギャップの小さい高福祉の国として知られていますが、スタートアップのエコシステムも充実しており、一人当たりのユニコーン数が多く、ユニコーンファクトリ―ともいわれています。
スウェーデンにおける会社形態
(1) スウェーデンに進出する際の会社形態
スウェーデンに進出する際に選択肢となる会社形態については、多くの国と同様、①有限責任会社(Aktiebolag又はAB。日本の株式会社に関する制度に相当)の子会社設立、②支店(日本の外国会社に関する制度に相当)という2つがありますが、多くの場合は①有限責任会社の形態がとられています。契約締結の場面や従業員雇用の場面等において、有限責任会社の方が適切であり、また、有限責任会社を設置することで親会社から責任を分離することができるためです。
パートナーシップという形態も認められていますが、無限責任を負うことになるため、基本的にはあまり使われていません。
(2) 有限責任会社
有限責任会社の設立、資本金、株主/株式、機関等に関する基本的な規律は以下のとおりです。なお、有限責任会社には、①Public Companyと②Private Companyがあり、Public Companyは、株式の公募が可能であり、上場することのできる形態であるため、Private Companyよりも資本や役員につき法令上の要求事項が多く課されています。ただし、Public Companyといっても必ずしも上場会社であることを意味するものではなく、実務上も、上場をしていないPublic Companyが大多数を占めています。なお、Private Companyを設立して、その後Public Companyへ移行させること、またその逆も認められています。
以下、両者間で規律が異なる事項については場合分けをして記載しています。
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Limited liability companies |
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Private limited company |
Public limited company |
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設立 |
・設立は、発起人による設立証書(a deed of formation)の作成・同書への署名、及びスウェーデン会社登録局(Swedish Companies Registration Office、以下、「SCRO」といいます。)への同書の提出を経て、SCROの登録を受ける必要がある。 |
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最低資本金 |
・25,000SEK |
・500,000SEK |
株主/株式 |
・株主は株式による出資の範囲での有限責任 |
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公募の可否 |
・不可 |
・可 |
取締役の最低人数 |
・1人(3名以下の場合は少なくとも1名の補欠取締役が必要) |
・3人 |
業務執行取締役(Managing Director) |
・業務執行取締役は、取締役会の指示や命令に従って会社の日々の業務管理を行う責任を負い、会社の日常業務管理に関して会社を代表し、署名する権限を有する。 |
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・任意 |
・強制 |
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取締役/取締役会 |
・取締役の過半数及び業務執行取締役は、SCRO が免責を認めない限り、EEA に居住していなければならない(遵守しない場合、強制的に清算される可能性もある)。会社の代表者が一人もスウェーデンに居住していない場合、取締役会は、一定の権限を有する国内居住の代表者を任命しなければならない。代表者は、従業員、弁護士等、スウェーデンに居住して会社を代表できる者であれば誰でもよく、特段の資格制限はない。 |
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従業員代表 |
・従業員代表に関する法定要件があり、従業員は、労働組合を通じて、取締役会に、従業員代表2名及び、25名以上の従業員からなる当該代表ごとに1名の補欠、1000名以上の特定の企業では従業員代表3名と補欠3名を任命する権利を有する。株式譲渡の場合と異なり、事業譲渡の場合は、従業員も移転する可能性があるので、労働組合と交渉する必要がある。 |
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監査人 |
・以下に該当する場合を除き強制。 (i)従業員数3名以下、(ii) 年間申告額300万SEK以下、(iii) 貸借対照表総額150万SEK以下、という3つの基準のうち少なくとも2つを満たす小規模企業は、監査人を置く必要がない。 |
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財務報告及び監査 |
・取締役会報告書、損益計算書、貸借対照表からなる監査済の年次報告書を、年次総会で年次会計が採択されてから1ヶ月以内にSCROに提出しなければならない。 |
(3) 支店
外国企業は、スウェーデン支店(Sw. filial)を通じてスウェーデンで事業活動を行うことができます。
支店の設立は、比較的シンプルな書面を提出することで行うことができますが、スウェーデン語での書類記入が必要となります。
支店を設立した外国企業は支店内で使用されるすべての資産を所有するとともに、支店のすべての負債について責任を負います。支店は、「filial」という言葉を含む別の商号で運営しなければならず、また、本国と商号の両方をSCROに登録しなければなりません。支店は、業務執行取締役の指揮下に置かれなければならず、SCROの免除を受けない限り、業務執行取締役はEEAに居住していなければなりません。業務執行取締役がスウェーデンに居住していない場合、当該外国企業はスウェーデンに居住する者を、外国企業を代表してサービスを受ける権限を有する者として任命する必要があります。
また、支店を設立した外国企業は、スウェーデン支店の財務会計を設ける必要があり、当該会計は、外国企業の会計とは別個に維持する義務があるほか、年次報告書や財務報告書の提出が必要となる場合があります。
(4) パートナーシップ
2人以上の当事者がパートナーシップ(Sw. handelsbolag又はHB)を通じて共同で事業を行うことができます。すべてのパートナーはパートナーシップの義務に対して連帯責任を負います。リミテッド・パートナーシップ(Sw. kommanditbolag又はKB)とは、1人又は複数のパートナーがパートナーシップの債務や負債に対して個人的に責任を負わないパートナーシップです(Limited partners)。しかし、少なくとも1名のパートナーが無限責任を負わなければならず(General partners)、残りのパートナーの責任は、登録された出資額までに制限されます。
パートナーシップ及びリミテッド・パートナーシップは、登記によって法人格を取得します。
※本ブログは、TMI総合法律事務所と協働・連携関係にあるVinge法律事務所のJonas Johanssonパートナー弁護士(スウェーデン法)の協力を得て作成しました。