ブログ
【欧州法務ブログ:ドイツ進出・ドイツ企業のM&A実施前に知っておきたい基礎知識】 第2回:ドイツ サプライチェーン法
2022.07.27
イントロ
2023年1月よりドイツでサプライチェーン・デューディリジェンス法(「サプライチェーン法」)が施行されます。
適用対象企業
導入時点では、ドイツで登記されている若しくは本社がドイツに所在する企業又はドイツに子会社等が所在する外国企業で、ドイツ国内の従業員数が3000人以上の企業が対象となり、2024年1月からはドイツ国内の従業員数が1000人以上の企業へも適用が拡大されます。サプライチェーン法は、直接適用対象となる企業のみならず、それらの企業が遵守事項をそのサプライヤーに契約上要求していくことによって、ドイツ国外を含めた非常に多くの企業にも間接的に影響を及ぼす法律といえます。
関係するリスクの種類
サプライチェーン法は、基本的人権の保護を目的としていますが、人の健康の保護に関連した一定の環境基準も保護の目的としています。具体的には、人権に関するリスクとしては、児童労働、強制労働、安全基準の欠如、連合の自由、反差別、不当な報酬、公害、その他人々の生活を破壊する環境に対する行為等があります。環境に関するリスクとしては、水銀、残留性有機汚染物質又は有害廃棄物に関するいくつかの国際条約が挙げられます。特定の人権又は環境リスクのみを対象とする法令は欧州内にもこれまで存在していましたが、OECD等の国際枠組みに準拠し、非常に網羅性の高い人権・環境のリスクを対象とする法令であるところが、サプライチェーン法に注目すべき理由の1つとなっています。なお、サプライチェーンにおけるリスクとなるものは、適用対象企業が直接的に起因し寄与している範囲に限定されます。
デューディリジェンスの方策
企業は、適切かつ効果的なリスクマネジメントを実施しなければならず、まず、自社の事業領域及び直接のサプライヤーのリスク分析を行うことが必要です。そして、直接のサプライヤーによる人権侵害を適切に止めることができない場合でも、侵害を止める為の方策を実施しなければなりません。この方策には、重大な違反の存在と他に解決手段がないことが前提となりますが、究極的にはかかるサプライヤーとの取引関係を一時的に中止し、又は終了することも考慮に入るものとされています。
罰則
デューディリジェンスの義務及び関連する報告義務のいずれかに違反した場合、行政罰が課せられます。是正されない場合、違反の種類に応じて10万ユーロ、50万ユーロ、80万ユーロ又は企業の平均総売上高が4億ユーロを超える場合は、全世界の年間売上高の2%の罰金が課され得るほか、公的入札から最長3年の排除もあり得ます。なお、サプライヤーはこの法律の適用対象ではないため、これらの罰を課されることはありません。
実務上求められる対応
サプライチェーン法は、企業に対し、サプライチェーンにおける中核的な人権の尊重及び特定の環境基準の遵守に関するデューディリジェンス手続を確立、実施、更新する拘束力のある義務を課す新しい法律です。日本にある企業のドイツ子会社だけでなく、ドイツの事業パートナーと取引している日本企業にも影響しますのでご留意ください。
今後の関連する企業との取引実務においては、サプライチェーン法を意識した企業の人権関係の対応を行っていることがサプライヤー選定時のチェックリストに入り、また、デューディリジェンスに関する措置を取るサプライヤーの義務が標準的な条項として契約に盛り込まれる可能性が高まります。日本企業の日本法人に関しては、被害を受けた者及びステークホルダーが罰を受ける可能性なく無名で違反を通報できる制度の導入が必要となりうること、及び、日本における労働法及び労働条件の特殊性から、リスク分析の文書や年次デューディリジェンス報告書にて追加的な記載が必要となる場合がありますのでこの点にも注意が必要です。最後に、企業において、全ての要件を満たす効果的な人権デューディリジェンスを確立するには数年を要することが一般的であるため、早期に取り組みを開始し、準備を始めることが肝要といえます。
※本ブログは、TMI総合法律事務所の外国法共同事業先であるアーキス外国法共同事業法律事務所のウルリッヒ・キルヒホフ及びカルメン・アッペンツェラー博士(外務事務弁護士、ドイツ法)の協力を得て作成しました。