ブログ
【法改正】模倣品個人輸入への規制強化
2022.08.10
令和3年商標法改正が2022年10月1日に施行
2022年10月1日に2021年に改正された商標法が施行されることになりました*1。この令和3年商標法改正は模倣品の個人輸入を規制する法改正*2として、改正当時に注目を集めていましたが、この法改正がいよいよ施行されることになります。2021年の法改正は、模倣品の個人輸入を抑制する効果が期待されていましたが、実は、改正自体は 、個人輸入を”禁止する”ための改正ではありません。では、2021年の改正法では何が改正され、施行後の実務にどのような影響があるのでしょうか。
令和3年商標法改正の内容
令和3年商標法改正は、法案成立当時は、「個人輸入に対する規制の強化」や、「個人輸入される模倣品に対する取締りの強化」などと紹介されていました。これらの紹介記事では、「個人輸入を禁止する法改正」とは書いてありません。これはどういうことなのでしょうか。まず、現行の商標法が個人輸入をどのように扱っているかを確認してみます。
商標法では、商標権者の許諾なく、登録商標と同一又は類似する標章を、登録された指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に使用する行為は、商標権侵害となります(同法36条、37条等)。商標の「使用」にあたる行為は、商標法2条3項に列挙されており、これに「輸入」も含まれています(同2号)。そこで、商標権者の許諾なく、登録商標と同一又は類似の標章を付した商品(以下「模倣品」といいます。)を輸入する行為は、現行法においても、商標権侵害になります。
ただし、「商標」は、「業として」使用される標章であるとされており(同法2条1項1号)、標章が「業として」使用されていない場合には、商標権侵害は成立しません。こここでいう「業として」とは、反復継続して行うことを意味します。このため、個人による単発の輸入行為は、「商標」を使用する行為とは解されず、模倣品の個人輸入行為は商標権侵害にはあたらないと考えられています。
模倣品の個人輸入に商標権侵害が成立しないと解されていることは、実務上は、特に、税関における模倣品の水際差止の場面で問題となっていました。税関が模倣品を発見した場合には、認定手続という手続により、商標権侵害か否かの認定を行います。認定手続においては、疑義貨物の輸入者に対して意見を求めることになりますが、その際に、模倣品の輸入者が、個人使用目的での個人輸入であると主張し、商標権侵害該当性を争うことがあります。この場合には、権利者側で、輸入者が多種多量の模倣品が輸入しているなど、模倣品の輸入が「業として」行われていることを証明できない限り、商標権侵害の成立が認められず、税関で模倣品を差し止められないことがあります。例えば、日本国内の事業者が海外から模倣品を仕入れて日本国内の消費者に販売する場合には、国内事業者が模倣品を輸入する際に、税関で差し止ることが可能です。一方で、国外の事業者が直接日本の消費者に模倣品を販売し、購入者個人が商品の輸入者となる場合には、購入者から個人使用目的を主張されると、税関では模倣品を差し止められない場合があるのです。特に、昨今では、越境ECと呼ばれる、日本国内の消費者に対して国外から直接商品を販売するオンラインショップが広く利用されるようになってきており、越境ECを通じた模倣品の個人輸入が問題となっています。
令和3年商標法改正は、このような越境ECによる模倣品の個人輸入に対する取締強化を主眼とするものです。具体的には、商標法2条7項が新設され、「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。」との規定が定められました。条文の改正はこれだけです。これがどのように模倣品の個人輸入の取締りの強化につながるのかが、少しわかりにくいので、もう少し詳しくみていきましょう。
新設される商標法2条7項にある「他人をして持ち込ませる行為」とは、配送業者等の第三者の行為を利用して外国から日本国内に持ち込む行為を意味しています。例えば、外国の事業者が、通販サイトで受注した商品を購入者に届けるため、郵送等により日本国内に持ち込む場合が該当するとされています*3。つまり、海外事業者が、日本の消費者に模倣品を発送し、その模倣品が日本に到達すると、その海外事業者が模倣品を「輸入」したことになります。販売者の行為を「輸入」として評価するため、その行為が「業として」なされたものであれば、商標権侵害が成立することになります。購入者が日本の消費者で、専ら個人使用目的でその模倣品を購入したという事情があっても、その結論は変わりません。ここが、現行法と異なるところです。今回の改正は、海外事業者が、配送業者等を介して模倣品を日本に持ち込む場合を想定したものです。海外事業者が自ら模倣品を持ち込む場合には、現行法においても「輸入」に該当し、商標権侵害が成立します。このように、令和3年改正により、模倣品の発送方法や購入者の使用目的を問わず、外国の事業者が模倣品を日本国内に持ち込む行為が商標権侵害にあたることになります。
今回の法改正は、「業として」の要件を不要として、模倣品の個人輸入そのものを禁止する改正ではありません。法改正の検討段階では、個人使用目的の消費者の行為自体を商標権侵害と構成するような改正も検討されていましたが、個人使用目的の行為を商標権侵害とすることについて消極的な意見もあり、見送られています。このため、模倣品を個人使用目的で輸入する消費者個人の行為については、現行法と同様、商標権侵害には該当しないことになります(模倣品の販売者たる海外事業者に商標権侵害が成立する可能性があります)。また、海外在住の個人が日本在住の友人に模倣品を送付する場合についても、新設される商標法2条7項の「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」には該当するものの、「業として」行われるものではなければ、商標権侵害は成立しないことになります。
実務への影響
今回の改正により、海外事業者が日本の消費者に対して模倣品を販売した場合には、購入者個人の使用目的にかかわらず、商標権侵害が成立することになります。この改正は、特に、税関差止の場面において、本改正が大きな効果をもたらすことが期待されています。これまでは、模倣品の輸入者個人が個人使用目的の輸入であると主張した場合には商標権侵害に基づく差止が困難な場合もあり、税関がせっかく模倣品を発見しても差止めができず、忸怩たる思いをすることも多かったはずです。しかし、今回の法改正の施行により、個人使用目的であるとの抗弁は通用しなくなります。税関での模倣品の取締りが強化されるという意味においては、実務上、重要な改正といえます。
個人の行為と商標権侵害
近年では、オンラインショップ、フリマアプリ、オークションサイトなどのオンラインサービスや、これらのサービスの利用をサポートするサービスが充実してきており、個人であっても簡単に商品を仕入れ、第三者に販売することができるようになり、個人の行為と事業行為の境界があいまいになってきています。出品した商品の受注後に越境ECで海外事業者から購入して発送する、といった取引を副業として運営している個人も少なくないようです。また、フリーマーケットサービスなど、個人間取引のプラットフォームを利用して模倣品を販売している個人も多くいます。多くの模倣品が、このような個人の行為によって、国内に流通しています。
今回の改正は、個人輸入を対象とするものであり、国内における個人間の取引行為を対象とするものではありません。もっとも、最近の裁判例では、インターネット上のフリーマーケットサービスを利用して模倣品を販売する行為について、1年以上にわたり,被告商品を含む複数の商品を販売していた事実から、「業として」に該当するものとの判断を示し、商標権侵害の成立を認めています(大阪地裁令和3年9月27日判決)。このように、個人間の取引行為であっても、反復継続するものであれば商標権侵害が成立することになります。
さいごに
今回の商標法改正と同時に、意匠法も同趣旨の改正が行われており、今後は商標権や意匠権を侵害する模倣品について税関での取締りの強化が期待されます。
海外事業者による模倣品の販売や、その海外事業者がから模倣品を購入した者が国内で模倣品を転売するといった事例が多くみられるようになり、以前にも増して、模倣品対応はいたちごっこの様相を呈しています。個人運営の模倣品販売者には、自分の販売する商品が模倣品であることを認識していない者や、模倣品の販売行為が違法であることを認識していない者も見受けられます。海外事業者が販売する模倣品が日本の個人を通じて国内で転売されているという実態があり、今回の法改正で模倣品の水際取締りが強化されることで、国内における模倣品の流通が抑制されることも期待されます。
*1 特許法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和4年7月21日政令第250号)及び特許法等関係手数料令の一部を改正する政令(令和4年7月21日政令第251号)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/seireikaisei/tokkyo/tokkyo_kaisei_20220721.html
*2 商標法改正と同時に、意匠法も同趣旨の改正が行われています。
*3 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2022/document/2022-42kaisetsu/14.pdf
以上
Member
PROFILE