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「住宅のリースバックに関するガイドブック」の公表
2022.09.05
今回の法令ニュースは、令和4年6月24日に国交省から公表されました「住宅のリースバックに関するガイドブック」を取り上げます。
※本稿は、月刊プロパティマネジメント(2022年8月号、綜合ユニコム社)に「法令ニュース第185回」として掲載されたものを加筆修正したものです。
リースバックとは
住宅のリースバックに関するガイドブックは、リースバックを、「住宅を売却して現金を得て売却後は毎月賃料を支払うことで住んでいた住宅に引き続き住むサービス」と定義しています(図表1)。リースバックについては、契約内容や将来の収支計画について、消費者の理解が不十分なままで契約が締結されることに起因したトラブルが報告されています。ガイドブックは、かかる事態を踏まえて、リースバック取引における利用者に向けた注意事項をまとめています。
リースバック取引においては、売主が買主であるリースバック事業者に対象物件を売却する売買契約、及び売主がリースバック事業者から対象物件を賃借する賃貸借契約が締結されることが一般的です(図表1)。
【図表1】リースバック取引の概要
※国交省の資料より(以下同様)
ガイドブックによれば、リースバックは、高齢者施設への住み替えとしての利用された例、及び実家の建替え資金の捻出に利用された例が示されています。このように、リースバックは、ライフスタイルに合わせた柔軟な住み替えに利用することが想定されています。高齢者施設への住み替えに利用するための類似の制度としては、リバースモーゲージがあります。リバースモーゲージとは、所有している住宅や土地を担保として生活資金等の融資を受け、当該借入人の死亡等による契約終了時点で、担保となっている住宅や土地を処分して元金を一括返済するローンをいいます。
【図表2】高齢者の施設への住み替えに利用した例
【図表3】実家の建替資金の捻出に利用した例
リースバックのトラブル事例及び利用者の確認事項
ガイドラインによれば、リースバックに関して、以下のようなトラブル事案が指摘されています。
【リースバックのトラブル事例】 ①強引な勧誘で契約してしまい、後々解約を申し出たら高額な違約金を請求された |
上記を受けて、ガイドラインは、以下のとおり、リースバックを利用する者が注意すべき事項をまとめています。
【リースバックを利用する際のポイント】 ①事業者の営業を鵜呑みにせず、きちんと契約の条件・内容を理解し、家族・親族等と相談して決めること |
リースバックをめぐる問題点
(1) 買戻しの合意について
リースバックの中には、利用者が物件の買戻しをできる権利を定める場合があり、たとえば、民法上の「買戻し」の制度が利用されます。買戻しとは、不動産を売却する際に一定の金額で買戻すことを合意し、売主が買主に対して、当該合意した価格で買戻しを請求できる制度です。買戻しの合意については登記することができ、登記した場合には、売主が不動産を売却した後に、買主が当該不動産を第三者に売却した場合においても、売主は、当該不動産の転売先に対して、買戻しを請求することができます。
上記のとおり、買戻しはリースバックにおいても利用されますが、民法上、買戻しの期間は10年間を上限するとされています。このため、買戻しまでに10年を超えることが予定されている場合、民法上の買戻しの制度は使えないことになります。
そこで、リースバックにおける賃貸借契約書において、賃貸借契約終了時に、賃借人(売主)が賃貸人(買主)から、対象物件を購入できる権利を定めることが考えられます。しかしながら、リースバックが高齢者施設への住み替えに利用される場合には賃貸借契約の期間が長期となることもあることから、その間に対象物件が買主(賃貸人)からさらに第三者に売却されることも想定されます。そのような場合において、買戻しの合意が承継されない可能性や、買戻しの合意が確実に履行されない可能性が指摘されています。
(2) 賃貸借契約の種類について
リースバックにおける賃貸借契約については、普通建物賃貸借契約(普通借家契約)及び定期建物賃貸借契約(定期借家契約)の双方が考えられますが、ガイドブックによれば、定期借家契約が多いとのことです。この場合、将来の紛争の予防のために、定期借家契約を締結する際には、期間満了後に再契約の必要がある点をよく説明しておく必要があると思われます。
なお、賃貸借契約には、普通借家契約及び定期借家契約の他に、高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく終身建物賃貸借契約も考えられます。終身建物賃貸借契約は、入居者が生きている限り存続し、入居者の死亡時に契約が終了して賃借権が相続されない契約てす。但し、終身建物賃貸借契約を締結できるのは、知事が認可した事業者に限られ、また、対象となる物件も知事が認可した住宅に限られます。
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