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XRゲームに関する特許簡易分析
2022.11.09
全体傾向
インターネット上の仮想空間や、その仮想空間内で行われるさまざまな体験や活動を示す「メタバース」が話題となっており、メタバース上での体験を実現する手段として、XRも注目されています。XRとは「X Reality」を略した言葉で、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)の総称です。Statistaの公表データによると、2025年のVR/ARのマーケットはビデオゲームが最大であると予想されています。
近年話題となっているメタバースやXRについてですが、XRを活用したゲーム(以下、「XRゲーム」)に関するグローバルの特許ファミリー件数は、2016年以降に急増しており、特許の面からもXRゲームの開発競争は加熱状態にあることが示唆されます(※1)。この2016年以降の特許ファミリー件数の急増は、同年にOculusの「Oculus Rift」やソニーの「PlayStation VR」など、様々なメーカーからVR専用機器が発売され、2016年がXR元年と言われていることと整合しています。
※1 調査日は2022年の6月であり、検索式は本稿の最後に参考情報として掲載しています。
国別(最先優先権主張国別(※2))の特許ファミリー件数の年次推移からは、近年は中国や韓国を最先優先権主張国とする出願が増えており、米国や日本の企業に加えて、中国、韓国企業の勢いが増していることが伺えます。
※2 最先優先権主張国は一連の特許ファミリーのうち最初に出願された国を示し、特許にかかる技術の開発拠点を示す指標となります。
プレイヤー動向
特許ファミリーの出願人からは調査対象分野の主要なプレイヤーが分かりますが、XRゲームについては、特許ファミリー件数ランキング上位はソニー、バンダイナムコ、コロプラの順となっています。さらに、日系企業としては上記以外にも、コナミ、任天堂などが上位ランクインしており、これらの日系ゲームメーカーは積極的にXRゲームの開発を行っていることが確認できます。
一方で、時系列推移を確認すると、近年は、テンセント(中国)、NETEASE(中国)、ディズニー(米国)、マジックリープ(米国)などの海外新規参入組が特許ファミリー件数を増やしています。2011年以前と2012年以降とで件数上位を比較したところ、2012年以降はやはり中国、米国の新興企業が多くランクインしていました。日系企業では、2015年以降のコロプラの件数が急増しており、XRゲームの開発に特に力を入れていることが伺えます。
個別特許
個別の特許に目を向けると、主に、コンシューマー向け、アーケード向け、携帯端末(スマートフォン)向けのXRゲームに関する特許が多く見られ、すでに製品化されているものも確認されました。以下は任天堂を出願人とする特許7027109号とバンダイナムコを出願人とする特許7072441号であり、それぞれコンシューマー向け製品として上市されている”VR KIT”と、アーケード向け製品として上市されている“ラピッドリバー”と関連しています。
携帯端末向けとしては、例えば、以下のセガを出願人とするAR関連の特許6658799号があり、2022年8月に発表されたセガとNTTドコモとのコラボ企画である“XR City”と関連していると思われます。
重要特許の抽出
個別企業の重要特許やその重要特許に基づく知財戦略・事業戦略を推測する指標として、個別特許の他社特許からの被引用回数(他社被引用回数)や同一ファミリー内の公報件数(ファミリー内公報件数)を用いることができます。これらの指標を用いることで、個別プレイヤーの特許を全て読む込むことなく、機械的に重要特許を抽出し、注力している技術や製品・サービスについて推測することができます(※3)。紙面の都合上、今回はこれらの指標の詳細な説明は割愛しますが、他社被引用回数は“他社からの関心度”の指標、ファミリー内公報件数は“自社内での注力度”の指標、とすることができます。
※3 被引用回数については、例えば、LexisNexis社のPatentSightなどの比較的メジャーな特許調査分析ツールでも採用されている汎用的な指標になります。デメリットとしては、出願年が古い特許ほど被引用回数が多くなる傾向にあるため、最新且つ重要な特許を抽出する場合には被引用回数とは別の指標を用いるか、或いは別の指標と組み合わせた手法を用いる必要があります。
一例として、ソニーの特許ファミリーについて他社被引用回数を“他社関心度”、ファミリー内公報件数を“自社注力度”としてバブルマップを作成し、重要特許を抽出したところ、最先優先日が2012-2016年の特許には、ヘッドマウントディスプレイなどのXRデバイス関連の特許が多く含まれていました。
これに関するニュースとして、ソニーは2023年初めに次世代VRゴーグルを発売することを発表しています。
ヘッドマウントディスプレイ以外には、以下のような手袋型やブック型のデバイスに関する特許も見られており、今後、新たなXRデバイスとして上市される可能性もあります。
同じくソニーの最先優先日が2017年以降の重要特許を抽出したところ、eスポーツイベントなどのライブイベントをVRにより視聴することに関する特許が複数含まれており、近年はライブイベントのVR視聴に関する技術開発も行っていることが伺えました。ソニーグループは音楽や映画などの多くのIP(知的財産)を保有しているため、仮想空間内でのライブイベントに関する技術は、これらの自社IPとのシナジー効果も大きいため、今後も積極的に開発を行っていくことが推察されます。
まとめ
以上、XRゲームをテーマに特許を起点とした簡易的な調査・分析を行いました。今回は簡易的な分析でしたが、自社の事業・技術に関連する領域における特許や、論文、他社製品・サービス、マーケット情報、プレスリリースなどのその他のビジネス情報等を複合的かつより詳細に調査・分析することで、事業戦略・研究開発戦略を確度高く立案するための参考情報を得ることができます。特にあらたに市場参入を検討している分野や、技術やプレイヤーの変動が激しい分野については、特許を起点とした調査・分析により自社では把握しきれていない有益な情報や示唆が得られる可能性が高いと考えます。
参考情報(検索式)
本調査・分析の母集団作成のために用いた検索式は以下のとおりです。
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