ブログ
ゲーム実況と著作権(ガイドライン違反によるゲーム実況者の逮捕を受けて)
2023.06.01
はじめに
ゲーム実況と著作権に関する問題について、近時の報道事例に関する記事を掲載します。
2023年5月17日、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構 (CODA)は、YouTubeを通じてゲームプレイ動画やアニメを権利者に無断でアップロードしていた被疑者を著作権法違反の疑いで逮捕したことを公表しました[1]。
【公表事実】
CODAのプレスリリースによれば、被疑者は以下の行為を行っていました。
① 株式会社ニトロプラスらが著作権を有するゲーム「シュタインズ・ゲート 比翼恋理のだーりん」がガイドラインで禁止しているゲームのプレイ動画(エンディングを含む1時間程度のもの)をYouTubeにアップロードし、広告収益を得ていた。
② 株式会社KADOKAWAらが著作権を有するアニメ「シュタインズ・ゲート」、東宝株式会社らが著作権を有するアニメ「SPY×FAMILY」の動画について、それぞれ権利者に無断で編集し、字幕やナレーションを付けたいわゆる「ファストコンテンツ」をアップロードしていた。
いわゆるゲーム実況(「自己又は第三者のゲームプレイに係る映像に、自己もしくは第三者等の音声・文字による状況説明又はその肖像等を加える等の編集を行い、当該動画をインターネット上に配信すること」と定義します。)をめぐる著作権法違反事件の摘発は、全国で初めてということもあり、世間の注目を集めています。
この事件を受けて、今後実務上どのような影響があるのか、若干の考察を行います。
なお、ゲーム実況と著作権に関する問題については、今後のブログ記事において、法的な観点を整理した記事を掲載する予定です。
一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構 (CODA)について
一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構 (CODA)は、日本国内外の政府機関、業界団体、コンテンツ関連企業(コンテンツホルダー)などとの連携を図りながら、海賊版対策をはじめとした各種活動を展開しており[2]、近年では、いわゆるファスト映画の著作権法違反事件の摘発においても、重要な役割を果たしていました。
本件における著作権の問題について
(1) 著作物及び著作権者
本件で対象となった著作物はいくつかあるものの、ゲームタイトルについては、「シュタインズ・ゲート 比翼恋理のだーりん」と特定されています。
また、「シュタインズ・ゲート 比翼恋理のだーりん」の権利者に関しては、コーポレートサイトの著作権・商標表示によれば、株式会社ニトロプラス及び株式会社MAGES.と記載されています[3]。
(2) 対象となる著作権法上の権利
著作権法上の「著作物」については、条文において例示列挙されているところ(著作権法10条1項)、ゲームが「何の」著作物として保護されるのかについては、伝統的な議論があるところです。
これについて、現在の実務上は、ゲーム画面の映像による表現については、「映画の著作物」(著作権法10条1項7号、2条3項)として保護されると解されています(最判平成14年4月25日判時1785号3頁)。
ゲーム実況において問題となり得る主な支分権は、以下のとおりです。
支分権 | 具体的な侵害行為 |
複製権(著作権法21条) | ゲーム画面をキャプチャー等により録音・録画する行為 |
公衆送信権等(著作権法23条) |
・ゲーム実況動画を動画投稿サイトにアップロードする行為(公衆送信可能化) |
翻案権(著作権法27条) |
ゲームに創作的な改変を加える行為 |
本件において、どの支分権の侵害が問題とされたのかは、公表事実からは明らかではありませんが、ファスト映画の裁判例(東京地判令和4年11月17日)において、権利者は翻案権及び公衆送信権侵害の主張を行っており、本件でも同様の侵害が問題になると考えられます。
(3) ゲーム実況に関するガイドライン
CODAのプレスリリースによれば、本件は、ガイドラインにおいて禁止されているゲームのプレイ動画がアップロードされたことが指摘されています。
近年、ゲーム実況の隆盛に鑑み、各ゲームメーカー等が個別で自社ゲームの配信・利用に関するガイドラインを策定することが、実務上のスタンダードとなっています。
当該ガイドラインについて、多くの場合はユーザーの同意を取得するといったフローが前提とされていないと考えられ、その法的な効果や拘束力については、個別の内容に応じた検討が必要と思われます。
なお、株式会社ニトロプラスは、以下のようなガイドラインを公表しています。
https://www.nitroplus.co.jp/license/
考察
本件については、ゲーム実況による著作権侵害、ガイドライン違反の問題の他に、アニメの「ファストコンテンツ」が投稿されていたことも、逮捕の要因となっている可能性があると考えられます。
「ファストコンテンツ」として先例となるファスト映画に関する裁判例(仙台地判令和4年5月19日)において、裁判所は「映画の著作権者が正当な対価を収受する機会を失わせ、その収益構造を根本から破壊し、ひいては映画文化の発展を阻害する行為であって、厳しい非難に値する。…被告人は動画の再生回数に応じた広告収入の獲得や自己顕示欲の充足などを目的として本件を敢行したものであり、身勝手かつ利欲的な犯行動機に酌むべき事情はない。被告人が広告収入として多額の収入を得ていたことも見過ごせない。」と判示し、その悪質性を非難しています。
このような行為の悪質性に鑑みれば、今後も「ファストコンテンツ」に対しては厳しく取り締まられることが想定されます。
また、著作権侵害、ガイドライン違反についても、ストーリー性のあるゲームにおいて、エンディングシーンというストーリー上極めて重要な映像がユーザー体験を阻害する形で(いわばネタバレ的に)利用されたという点やそれにより広告収入を得ていた点も、まさに「著作権者が正当な対価を収受する機会を失わせ、その収益構造を根本から破壊し」、文化の発展を阻害する行為と評価することも可能です。
上記のような事情が合わさって、本件は極めて悪質性が高いと評価された可能性もあるところであり、結論的に、逮捕に至っているという点は見逃せないでしょう。
実務上の影響
上記のとおり、本件は、ゲーム実況における著作権侵害、ガイドライン違反に加え、ファスト映画の摘発の潮流を受けた可能性もあると考えられます。
ゲーム実況に関しては、ゲームメーカー等が公表しているガイドラインに即した形であれば、法的な問題は生じないものと考えられます。他方、例えば本件のように、ストーリー性のあるゲームにおいて、ガイドライン上利用が明示的に禁止されているにもかかわらず、エンディングシーンをゲーム実況動画内で利用するなど、ガイドラインに反する態様において、ゲームを利用・配信する場合には、本件のように問題となり得ることが改めて明らかとなりました。
今後もゲーム実況を行う上では、各ゲームメーカー等の公表するガイドライン等に則した、適切な利用を心がける必要があります。
また、企業としても、既存のゲーム実況文化と共存していくためには、消費者であるユーザーに分かりやすく、かつ何かあったときには企業の知的財産を保護できるようなガイドラインの整備が求められます。
[1] https://coda-cj.jp/news/1531/
[2] https://coda-cj.jp/organization/soshiki/
[3] http://www.kagaku-adv.com/copyright/
Member
PROFILE