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水素基本戦略の公表について
2023.07.14
水素基本戦略の公表について
2023年6月6日に再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議により、「水素基本戦略」(以下「水素基本戦略」といいます。)が公表されました(※1)。
水素基本戦略の検討のベースとなった「水素基本戦略骨子(案)」(以下「骨子案」といいます。)(※2)は、2017年12月26日に再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議によって策定された「水素基本戦略」(※3)(以下「旧水素基本戦略」といいます。)を基本として、その見直し案として示されたものです。骨子案は、2023年4月7日より同年5月7日までの間、パブリックコメントに付され(※4)、当該パブリックコメントの結果が、併せて同年6月6日に公表されております(※5)。
菅総理が2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行って以来、日本政府は「カーボンニュートラル」に積極的に取り組み、近時はカーボンニュートラルとともに経済社会システム全体の変革を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)施策として注目されています。水素エネルギーは、燃焼してもCO2を排出しないクリーンエネルギーとして、社会全体のカーボンニュートラル化に貢献することが期待されており、カーボンニュートラルやGXとの関連においても重要なエネルギー源であると考えられます。
水素基本戦略は、これまでの水素政策や技術の進展状況を踏まえ、2050年カーボンニュートラル達成に向けた課題や対応の方向性を見直すもので、今後も5年を目安に見直される予定です。
(※1)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy_kaitei.pdf
(※2)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000252476
(※3)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy.pdf
(※4)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000252475
(※5)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620223020&Mode=1
今回は、見直された水素基本戦略について、骨子案で言及されている①我が国における水素の社会実装に向けた方針、②基本戦略、③水素の安全な利活用に向けた方向性、及び④水素産業競争力強化に向けた方向性の観点から取り扱います。
基本戦略
旧水素基本戦略においては、水素の供給に関して以下のようなフェーズが設定されていました。
【旧水素基本戦略】
フェーズ1 |
足元で実現しつつある、定置用燃料電池やFCVの利用を大きく広げ、我が国が世界に先行する水素・燃料電池分野の世界市場を獲得する。 |
フェーズ2 |
水素需要を更に拡大しつつ、水素源を未利用エネルギーに広げ、従来の「電気・熱」に「水素」を加えた新たな二次エネルギー構造を確立する。 |
フェーズ3 |
水素製造にCCSを組み合わせ、又は再生可能エネルギー由来水素を活用し、トータルでのCO2フリー水素供給システムを確立する。 |
一方、水素基本戦略では、当該フェーズではなく、以下の表のとおり、より具体的な数値目標等が設定されています。なお、水素基本戦略の数値目標は、2040年の導入目標及び2030年の低炭素化の目標を示したほかは、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和3年6月18日)(※6)に記載の目標と同様であり、改正後の水素基本戦略は、現状の政府の方針を確認したうえで、推し進めるものになると考えられます。
(※6)https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_honbun.pdf
【水素基本戦略】
安定的な供給(Energy Security) |
我が国は、現状、2030年に最大300万トン/年、2050年に2,000万トン/年程度の導入目標を掲げているところ、水素需要ポテンシャルの見通し等から、新たに2040 年における水素導入目標を1,200万トン/年程度を水素(アンモニアを含む)の導入目標として掲げている。 |
供給コストの低減(Economic Efficiency) |
水素供給コスト(CIF コスト)については、2030年に30円/Nm3(約334円/kg)、2050年に20円/Nm3(約222円/kg、水素発電コストをガス火力以下)、アンモニアの供給コスト(CIFコスト)については、2030 年に水素換算で10円台後半/Nm3の目標を掲げて いる。 |
低炭素水素への移行(Environment) |
現在の技術レベルに鑑み達成不可能でない範囲での高い目標として、まずは1kg の水素製造におけるWell to Production Gate(注:原料生産から水素製造装置の出口まで)での CO2排出量が3.4kg-CO2e 以下のものを、低炭素水素と設定された。また、低炭素アンモニアに関しては水素を原料として、1kg のアンモニア製造時におけるGate to Gate(水素製造を含む)のCO2排出量が0.84kgCO2e/kg-NH3以下のものと設定された |
また、水素基本戦略においては、モビリティ分野やその他産業分野についても言及がありますが、殊に、発電分野は、発電分野における水素・アンモニアの利用は、エネルギー安定供給を確保及びカーボンニュートラルに向けたトランジションに貢献するうえ、大量の水素需要が見込めることから、2030年に向けて大規模なファーストサプライチェーンを構築するに当たっての、需要拡大と供給コスト低減の推進役と位置付けられております。
そのため、国からの支援も期待される一方で、高度化法(※7)に基づき、2030年度の非化石電源比率を44%以上とすることといった規制を受けている電気小売事業者等においては、より積極的に水素エネルギーの利用の検討を行う必要があるものと思われます。
(※7)エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成二十一年法律第七十二号)
水素産業戦略及び水素保安戦略について
水素基本戦略において、我が国においても技術的な強みを生かし、脱炭素、エネルギー安定供給、 経済成長の「一石三鳥」を狙い、以下の水素産業戦略に基づき、国内外のあらゆる水素ビジ ネスで、我が国の水素コア技術(燃料電池・水電解・発電・輸送・部素材等)が活用される世界を目指すとされており、産業競争力強化に向けて、水素基本戦略の産業面に特化した水素産業戦略が取り纏められております。
また、大規模な水素サプライチェーンの構築に向けて、既存法令を活用しつつ、現行の保安を含む適用法令全般の関係の整理・明確化に加えて、大規模な水素利活用に向けて必要な保安規制の合理化・適正化を図るなどの環境整備を行うとされており、水素保安の全体戦略(水素保安戦略)の中間とりまとめ(※8)が行われておりましたが、今般水素基本戦略の中において、水素保安戦略として取り纏められております。
なお、保安規制については、これに先駆けて、水素・アンモニアの燃料特性を考慮した適切な保安規制を講ずるため、令和4年12月14日付で、水素・アンモニアを燃料として使用する火力発電に関する電気事業法施行規則等が一部改正されています(※9)。
(※8)https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230313001/20230313001.html
(※9)https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2022/12/20221214-1.html
水素保安ポータルサイトの開設
水素保安ポータルサイトが2023年6月30日付で開設されております(※10)。当該サイトは、水素保安戦略(中間とりまとめ)で言及された水素保安にかかる情報を一元的にまとめたポータルサイトとすることを目的として開設されております。本日現在で掲載されている情報は少ないものの、今後アップデートされていくものと思われます。
(※10)https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230630002/20230630002.html
パブリックコメントの結果について
前述の通り、骨子案は、2023年4月7日より同年5月7日までの間、パブリックコメントに付され、当該パブリックコメントの結果が、併せて同年6月6日に公表されております(※11)が、その内容について以下いくつか取り上げます。
(1)保安規制の合理化
13番の質問及び回答において、保管規制の合理化について言及されており、これに対して保安規制の合理化・適正化を図るなどの環境整備を⾏うとされております。現在の法規制においては、水素に関する保安規制に関しては、主として高圧ガス保安法、ガス事業法及び電気事業法によって規制されており、その適用については、規制対象物その他サプライチェーンも含めた事業内容によって異なるものとなります。今後、取り纏められた水素保安戦略をベースに、水素に特化した法規制なども含め、体系的な法令の策定も期待されるところです。
(2)燃料電池
24番の質問及び回答において、燃料電池に関する質問及び回答がなされておりますが、骨子案において燃料電池に関する言及がいくつかなされておりました。水素をエネルギー源とする燃料電池は水素の普及にとって重要性を占め、これまでもNEDOを中心とするなどして、燃料電池の開発が進められており(※12)、我が国が優位性のある分野であるといわれております。24番の質問の中では、家庭⽤燃料電池や燃料電池の技術革新に関する点等について修正依頼がなされております。旧水素基本戦略においても、燃料電池に関する言及はありましたが、改定された水素基本戦略においては、第4章、4-2(3)において、燃料電池の市場拡大やコストダウンが言及されております。
(※11)https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620223020&Mode=1
(※12)https://www.nedo.go.jp/library/battery_hydrogen.html
その他エネルギー業界の主な動きについて
(1)浮体式産業戦略検討会の開催(2023年6月23日)
経済産業省と国土交通省が事務局となって、浮体式洋上風力に係る産業の在り方等を検討することを目的に、浮体式産業戦略検討会を立ち上げております。経済産業省と国土交通省が主導し、業界団体や発電事業者、風車メーカー、浮体製造企業などが、参加しております。複数回の開催ののち、官民協議会において「洋上風力ビジョン(第2次)」を取りまとめることが予定されています。なお、議事は非公開となります。
(「浮体式産業戦略検討会」を開催します)https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230623003/20230623003.html
(2)「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行期日を定める政令」及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」を閣議決定(2023年6月20日)
「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行期日を定める政令」及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」が閣議決定されております。第211回国会において成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下「GX推進法」といいます。)の施行期日を定めるとともに、関係政令の整備を行い、所要の経過措置を定めるものです。なお、GX推進法の施行日は2023年6月30日とされ、既に施行されております。
(「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行期日を定める政令」及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」を閣議決定しました)
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230620003/20230620003.html
(3)総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 第十一次中間とりまとめ(2023年6月21日)
当該中間とりまとめは、長期脱炭素電源オークションの詳細についての中間とりまとめとなります。2023年4月7日からパブリックコメントが募集されておりましたが、当該パブリックコメント結果が公表されるとともに確定版が公表されています。
(総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 第十一次中間とりまとめ)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/20230621_report.html
(電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第十一次中間とりまとめ(案)に対する意見公募手続の結果について)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620123013&Mode=1
(パブリックコメントを踏まえた主な修正一覧)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/081_s03_00.pdf
(4)「主任技術者制度の解釈及び運用の一部を改正する規程案」に関する意見公募(2023年6月6日)
大規模な再生可能エネルギー発電所の普及に伴い、多様な発電設備や設置形態が増加し、山間部や 僻地、海洋で開発される事例が増えていることに鑑み、主任技術者制度の解釈及び運用について、以下の改正を行うものとされ、電気事業法施行規則の改正案が2023年6月6日から7月5日までパブリックコメントに付されております。
①過疎地域等に設置される電気工作物については、2時間以内の到達等を求めるにあたって配慮する こととすること。
②再エネ海域利用法第2条第2項に規定する洋上風力発電設備に係る事業場への2時間以内の 到達を求める運用の明確化。
③外部委託制度の月次点検の際に行う問診方法の一部見直し。
(「主任技術者制度の解釈及び運用の一部を改正する規程案」に関する意見公募)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595123042&Mode=0
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